残間
今日は手紙についてお話を伺いたいと思いお集まりいただきました。手紙にまつわる思い出、手紙の良さ、あるいは手書きならではの味わいなど、何でも結構です。よろしくお願いします。
安藤/椎名
よろしくお願いします。
残間
椎名さんは、わりと手紙をよく書く方ですよね。
椎名
そうですね。編集者や作家という仕事なので、大事な要件の時はね。特に封書でお便りをもらったりすると書きますね。この世界、肉筆には肉筆で、肉声には肉声でという暗黙のルールがあるみたいで。
残間
私も椎名さんから何通かいただきましたが、一番印象に残っているのは、たぶん私が50代の前半で体調が悪い時にもらった手紙です。椎名さんは旅に出るところで、空港から「一言だけ」という感じで書いてくれました。椎名さんの手紙はだいたい原稿用紙なんですよね。
「具合が悪いのは時間が経てば治るから」と書いてあって、すごく嬉しかったです。
安藤
素敵ですね。
残間
それから「あやしいらくだのようなものです。椎名誠」という手紙もありましたね。
椎名
(笑)覚えてないなあ………
残間
嬉しい手紙は受け取った方は忘れないんですよ。
「頼み事と断り」は手紙に限る
残間
安藤さんは博士論文を本にまとめた時、多くの自民党女性議員にインタビューしていますね。取材依頼の際に、つまり相手を口説くためにたくさん手紙を書いたとか。
安藤
はい、手書きで書きました。すべての方がOKしてくださるわけではないので、相当数送りましたね。衆参合わせて50人以上。お一人ずつ違う文面でお願いをするので大変でした。なぜお願いするのかとか、取材意図………
残間
それに相手のことも事前に調べないといけない。
安藤
ええ。今、考えると必要以上にへりくだった手紙でしたね。お願いする立場だからか、もう平身低頭。ちょっとくどかったかなと思っています。
残間
私も大きなイベントをプロデュースした時には、お願いごとの手紙をずいぶん書いたものです。協賛をお願いする企業や出演を依頼する皆さんに、開催のたびに100通以上は書いていたんじゃないかしら。
そういう手紙は修正液を使えないので、最後の行で失敗しても最初から書き直し。企画趣旨など共通する部分もありますが、一人ひとり内容が違うところもあって、もう写経のような気分で書いていましたね。
椎名
依頼する時と何かを断る時って、やはり手書きの手紙になりますよね。
安藤
手紙にするだけでなく、断る秘訣って何かあるんですか?
椎名
(笑)あるんじゃないですかね。うっかり引き受けちゃったものの、体調が悪かったりスケジュールの都合で断らないといけない時があります。まあ、物書きなんで、それなりに力はあったみたいです。なんとかなってるんで。
安藤/残間
(笑)でしょうね。
残間
ところで、今回の鼎談のために、トランクルームにある「大切な手紙」という箱にしまってあった、昔いただいた手紙を読み返してみました。すると森光子さんや沢村貞子さん、大江健三郎さんからの手紙が出てきたんです。私の主催した企画へのご出演を依頼した時の断りの手紙です。
すっかり忘れていたんですが、こういう方たちから“残間”と手書きされた手紙をいただいていたのかと思うと、断りの手紙とはいえ、ちょっと勇気づけられました。
ちゃんとした方は椎名さんのように手紙でお断りを入れますよね。
安藤
なるほどねえ。ちゃんとしてない方は電話なんですか?
残間
いえ、何も言ってこない人もいます。企業に出すご協賛依頼の手紙などは梨の礫も多いですよ。
それでも、一度もお会いしたこともないのに西武の堤清二さんやSONYの盛田昭夫さんは直接お電話をくださって、後日手紙もいただいて感激したのを覚えています。

(つづく)