それぞれの介護

  • 阿川佐和子さんのプロフィール
  • クミコさんのプロフィール

残間
クミコさん、本格的な介護を前にして、
これからいろいろと大変なこともあると思いますが、
今後の展望については。
クミコ
私の場合は、両親をきちんと見送った時に、
まだ余力があるかどうかが勝負だと思ってます。
でも、ないんじゃないかという気がしています。
阿川
それはどうして?
クミコ
これが悪いことかどうかわからないんですけど、
まあ世間的には長生きすることを良しとしてますよね。
なるべく長くきちんと。
私は元々そこに執着が少ないせいか、
なんとなく、あと10年くらいかなと思っているんです。
それまでに親を看取って、余力がなければ、それでいいかと。
別に悲観しているわけでもなくてね。
阿川
それは仕事をいつまで続けるとかという話?
クミコ
自分の仕事がこれからどうなっても、
大きな流れの中で私という個人的な生物が
生きて死ぬだけのことなので。
それで動物の勘としては「あと10年」という感じなんですよ。

やっぱり私の身には、残間さんや阿川さんみたいに
見送ることが起こっていないので、
その時のためにエネルギーを蓄えようと
守りに入ってるのかもしれません。
もしかしたらボロボロになって両親を見送った時、
ムクムクとやる気が起きてくるのかもしれないし。
残間
今でも大変そうですよね。
華やかなコンサート会場で会っても、
これからお父さんお母さんのところに行くんだろうなと
思ってしまいます。
メイクを落として娘になって行くわけじゃない?
クミコ
私が介護をするようになって一番心配なのは、
夜中に叩き起こされる事態ですね。
今までも救急車を呼んだことが2回ぐらいあるんですが、
コンサート前とかはもう祈るような気持ちです。
前夜に眠ってないと喉がとんでもないことになります。
冬だとそれだけで体調よくないですし。
今日はそういう事がありませんようにって、
その時だけは神様に祈ります。
お願いだから今日だけは見逃してください。
だからこれからは結構スリリングだなと。
阿川
でもね、まだ現実には起こっていない、
先のことを考えてるときのほうが暗くなるし、不安になるし、
私にはできないかもしれないとか、思うんじゃない?

私も、40代や50代の頃は、突然、
えー! 父ちゃんのウンチの世話をする日が来るのか! 
とか思ったりしましたよ。
でもある時から、その時が来たら考えようと思ったんです。
これは、私の性格かもしれませんが、毎回場当たりです。
父がこうなって、母がこうなって、
最善の道はなんだ? となった時、
それこそ誰を巻き込むとか、誰を頼りにするとか、
絶対自分だけじゃ無理と思ってると兄弟が助けてくれたり、
あちこちでいざこざも起こるんですが、
どうやってこれを一つずつ解決していくかに注力する。
母が認知症になり始めの頃はつらかったですけどね。
あれだけ暴君だった父が死んだ後、
母と一緒に旅行したり、楽しいウィドウ生活を
何年か過ごさせてやりたいと思っていたのが、
母の方が先に認知症になってしまったのが悲しかったんですよ。

でも結局、この現状を楽しむしかないですもの。
私、子供を産んだ経験はないですが、
今や、毎朝、子供を保育園に連れていく母親の気分ですよ。
「いいかげんに起きなさい!」と言って布団をはがすと、
「さむいー」とか言って。
「寒いじゃないでしょ!」
「あんたどこに行くの?」
「私は仕事に行くんだから、
先に母さんを送らないといけないの!」
すると「ふーん、あと5分」とか言って、また寝たりする。
残間
可愛いですね。
阿川
それで他人がいると、
「娘、怖いんです」とか告げ口をするんだから、もう。
クミコ
(笑)
阿川
もう笑っちゃうんです。
だからこれからもっと意識を失っていくんだろうから、
今、現在の一瞬一瞬を楽しむしかないやと。
前もって先のこと考えると暗くなるから。
クミコ
うーん、勉強になるなあ。

疎遠になった仲間と再びフラットな関係に

残間
阿川さんはこれからの人生はどんな展望でしょう。
自分自身の終末も含めて。
阿川
理想はピンピンコロリとか、
50過ぎてからゴルフにはまってますから、
ドライバーを打ってみんなが弾道追いながら
「ナイスショット!」と言って、
振り返ったら婆さん死んでたというのが一番の理想です。
そこに記念樹を植えてもらって
化けて出てやる~とか言ってますが、
そうはならないのが現実でしょうね。
母を見てると私も認知症になるでしょうし、
すでに始まっている気もするし(笑)。

今、考えているのは、
いつ仕事をリタイアするかなということですね。
残間
えっ? 
リタイアなんて考えなくてもいい仕事じゃないですか。
阿川
書く仕事はね。
表に出る仕事やインタビューの仕事は、
毎回出かけなくてはいけませんし、
これをどれくらいで終わらせようかと思っていたら、
うちの亭主殿が「うーん………見るに堪えないぐらいになったら、
ワシが言う」と申しておりました。
残間
(笑)でも、そう言ってくれるのはいいですよ。
以前、知り合いとある人の講演を聞きに行ったら、
15分おきぐらいに同じ話がループしてたんです。
するとその知り合いも講演をするので、こう言ったんですね。
「残間さん、僕も人前に出るのをやめた方がいいと思ったら、
言ってくださいね」と。
でも実際には、夫婦でもなかなか言えないですよ。
阿川
やっぱり人前に出ることで、
周りに心配させたり不快感を与えるようなら、
やめた方がいいかと。
残間
もうすぐハイビジョンより高画質の
4Kとか8K放送が始まりますが、
テレビは若い人しか出られなくなりそう。
阿川・クミコ
あれはどうにかして欲しい!
阿川
みんなが手持ちでレフ板使うとか。
クミコ
今はメイクの世界でも4K対策は試行錯誤の段階らしくて、
とりあえず顔をテカらせる方向みたいですよ。
もうみんな脂ぎってるんです。
演歌の人とか和服なのに、そこまで脂ぎっていいのかみたいな。
残間
ところでパートナーの話に戻りますが、
大石さんとの対談読みましたけど、
阿川さんのところは、いい感じの旦那さんみたいですね。
阿川
手はかからないので、ありがたいです。
きちっとしてないとも言えますが。
残間
きちっとし過ぎて
家具の上のホコリをチェックされよりいいでしょ。
阿川
それはたしかにね。
みんなに言われたのは、
ある程度の歳になって、自分なりの生活のリズムや
仕事のパターンができてから他人と暮らすなんて、
その選択自体が信じられないって。
残間
それぞれの生活が確立していますからね。若い人と違って。
阿川
でも互いにやることがあるし、
四畳半で一緒に暮らしてるわけではないので。
例えばこっちの部屋で私がゲラ直ししたいと思うと、
スーッといなくなるんです。
そりゃタオルの掛け方とか皿の洗い方とか、
細かいことで見解の相違はあります。
最初はぶつかってましたが、最近は互いに
「そういうことね」「そういうことは嫌いなわけね」
ということで落ち着いてきました。
クミコ
大人婚ですね。
残間
若いと自分の方に寄せたがったりするんでしょうけど。
阿川
でしょうね。それにもし私が若かったら
「染めてほしい」みたいな気持ちになってたかもしれません。
クミコ
(笑)
阿川
尽くさないといけないとか。
残間
お父さんを見ていたらそうかもしれませんね。
阿川
いえ父みたいな人とは結婚したくないと思ってたので、
こんなに遅くなったんです。
とにかく互いに相手のやることを認め合う、という点では楽です。
クミコ
ちょうどいい時期に出会えたんですね。
残間
そういうカップルが増えていくといいですよね。
阿川
それから私が最近思うのは、
若い頃にさんざん見合いをやっていて、
友達から次はあなたねとか、
早くいらっしゃいとか言われてたんですが、
それぞれ専業主婦になったり仕事を続けてたりしてたわけです。
それで子供が生まれると子供がいる連中で仲良くなって、
仕事やってる連中はそちら同士で仲良くやってるわけです。
6~7人の仲間だったんですが、そんな風に分かれて、
それぞれなんとなく疎遠になってしまいました。
会おうとしても時間帯が合わないとか、
早く帰んなきゃいけないからゆっくり飲めないしとか、
あまり会わなかったんです。
残間
この頃、会うでしょ?
阿川
そう。50過ぎくらいから、みんな亭主は放っておいて大丈夫、
子供も大きくなって関係ない。
それまでは子供を育てるのは大変なのねと思いながら、
こっちは実感がないわけです。
向こうも「阿川も仕事大変ね」と言い合ってました。
まったく心がない会話ですよね。
クミコ
アハハ。
阿川
それが今になると、
「あんたもいろいろあっただろうけど、互いによく頑張った!」
「そうだね!」って心の底から讃美し合えるんですよ。
残間
やっぱりライフスタイルが違うと疎遠になってしまいますよね。
とは言っても子供がいる同士も、それはそれであるみたいですよ。
子供の学校がどこかなんてうかつに聞けなかったり。
でも子供がいる人も、仕事をしてる人も、
60過ぎるとまたフラットになるんですよね。
それで介護が終わってこのくらいの年代になると、
夫が死に始めたりします。
クミコ
だんだんその段階になるんだ。
阿川
そう。人生の階段はまだいっぱいありますね。
残間
考えてみたらそうですね。
自分が死ぬまでもいろいろありそう。
クミコ
いやあ、うまくまとまりましたね。
終わり/2018年5月取材