それぞれの介護

  • 阿川佐和子さんのプロフィール
  • クミコさんのプロフィール

残間
母が死んで2年になりますが、
一周忌を過ぎたあたりから鬱病みたいになりましたね。
別に喪ったことの悲しみはないんですよ。
99歳9ヶ月まで生きましたから。
なんかこう、ある種の空の巣症候群ですよね。
新宿の有料老人ホームで最期を迎えましたが、
自分が東京にいる時は毎日会いに行きましたし、
その前の2年間は一緒に暮らしていました。
当然、最期は私が看取らないとという気負いもありました。
一方で母にちょっと声を荒げては自己嫌悪の繰り返しで。

それで一周忌が済んだので、
「よし、これからは私の人生を頑張ろう!」と思ったんですが、
その途端、鬱っぽくなりましたね。
何でもキッチリ決め込みたがる性格が災いしたんでしょう。
クミコ
残間さん、真面目だから。
残間
真面目って言えば聞こえはいいですが、
私の場合は自己満足のためだったような気もしています。
私でも鬱になるのかと思いました。
クミコ
それは思いもかけない生体反応という感じなんでしょうね。
阿川
こう言ってはなんですが、
お母さんを喪ったという悲しみではなくて、
自分の生活のリズムというものが
ポッカリ穴が空いた感じなのかしら。
残間
そうですね。喪失感ではないですね。
やっぱりリズムが狂ったんでしょうね。
最優先事項が突然なくなったわけです。
じゃあ、私は何をしたらいいのだろうかと。
で、話は飛びますが、
その時に佐和子さんが入籍したって聞いて、
そういう人がいた方がいいんだろうなって思いました。
阿川
はっ? 突然、なんじゃ?
クミコ
(笑)
残間
でも歳をとってくると、パートナーはいなくても、
やっぱり友達はいた方がいいですよ。
阿川
父を見てて思ったのは、
大正生まれの人間だし組織に勤めたこともないから、
ある意味自由だったんですけど、
それでも同世代の自分の友達、
それこそ遠藤周作さんや吉行淳之介さんとかいましたが、
父だけが元気に生き残ってしまいました。
周りがバタバタと一人減り、また一人減りして、
そして誰もいなくなった状態になると、
それを苦にする性格なんですよ、父って。
苦にする性格の割に長生きしたんですが(笑)。

いちいち全部否定的に考えるんです。
「俺が通る交差点は全部赤になる」
「そんなことはないと思うけど」って言うと、いいやそうだと。
それで俺が電話をかけると必ず話し中だとか、全部否定的。
“無駄じゃ無駄じゃ爺さん”みたいな感じですよ。
それでこの人も死んだ、あの人も死んだと、
死亡欄を見る度に言うんです。
ある時「歌右衛門が死んだ」って言うので、
え、歌右衛門と親しかったの? と聞くと、
「別に親しくない!」。
そこは憂えたってしょうがないだろう!
クミコ
(笑)死亡欄を見るのが趣味みたい。
阿川
そう、趣味なの。
愚痴を言うのも楽しみなのかもしれないけれど、
たしかに周りがどんどんいなくなって、
同じように話が通じる人がいなくなるというのは
寂しいだろうなと。

日本って同世代を友達にするでしょ。
私はいろんな人に会う仕事をしているせいか、
歳を取った人と親しくなることもありますが、
若い人とご飯を食べる機会もあるんですね。
「え、今の若い子たちはこんなこと考えてるのか。
けしからん!」って思ったりしますけど、
学ぶこともあったり、なるほどと刺激されることある。
やっぱり多世代と仲良くしてると、
一人欠けてもまだこっちいるぞと。
残間
多世代交流は大事ですよ。
高齢でも、勇気を出してもっと若い人とつきあうべき。
阿川
喪失感ということで言うと、
私、父が死んで、寂しいでしょとかよく言われたんです。
大石静さん(脚本家)にも
「娘にとって父親の死というのは、今はそれほどでもなくても、
ボディブローのようにジワジワ来るのよ」って言われました。
それで久しぶりに会うと「来た?」とか聞かれて。
でも全然来ない(笑)。
それは父が嫌いだったということではなくて、
まだ脅威感のほうが強いんです。

一昨日も父の夢を見まして、
父は常に怒ってイライライしてる。
それで夢の中で、早く帰って父のご飯の支度しなきゃ。
でも、これだと絶対文句言われると焦っている夢でした。
残間
(笑)お父さまは阿川さんの中に、まだ現存してるんですね。