それぞれの介護

  • 阿川佐和子さんのプロフィール
  • クミコさんのプロフィール

残間
阿川さんは介護のことは、
これまであまり話すことがなかった印象ですが。
阿川
いえ、最近は90歳の母の認知症っぷりが面白くて、
けっこうエッセイに書いているんです。
クミコ
90歳! うちの両親と同い年だ。
阿川
ご両親は家で二人で暮らしていらっしゃるんですか?
クミコ
ええ、二人で、私の住んでいるところの隣町に。
阿川
クミコさんって一人娘なんですって?
仕事も忙しいのに、今後、二人を娘一人で看るのは大変ですよ。
というか、無理ッスから。
クミコ
そうなんですよ。どうしようかと。
今はまだ二人とも見た目も若いんですが、
きっと一気に来ると思うんですよ。
阿川
ご本人たちは何か準備は?
クミコ
とにかく今の家で最後までいるって言うんですね。
家っていったって普通の小さな家ですよ。3階建ての。
どう考えても無理だよって思うんです。
この家で死ぬと言うんですけど、
この家だと棺桶出せないよって言いそうになりました(笑)。
あの狭い玄関からどうやって出すのかと。
まあ、それはその時に私が考えればいいんですが、
とにかくいろんなことがなし崩しに起きた時、
その度に慌てて介護してるって感じになりそうです。
残間
最近、ウィルビーでとったアンケートだと、
収入が高い人ほど、
施設に入りたいと思う傾向にあるみたいです。
自宅だとバリアフリーの問題もありますし、
何しろ子供たちに迷惑をかけたくないと思ってるみたいで。
逆に考えれば、お金がないので家にいざるを得ない、
という方も多い気もします。
クミコ
施設ということで言うと、
実は最近、歌の仕事で超高級老人ホームに
お邪魔する機会がありました。
すごい豪華なんですよ。もうタワーマンションなんです。
食堂が34階にあって一流ホテルみたい。
残間
クミコさんみたいなエンターティナーを呼んで、
ショーもやるんですよね。
クミコ
しばらく私もゲストルームにステイしていたんですけど、
夕食になるとそこの会長さんが
みんなと一緒に食事するんですね。
阿川
なんか豪華客船みたいですね。
ディナーは船長と一緒!
クミコ
その閉塞感はまさしく豪華客船なんですが、そこは置いといて。

で一緒に食事していて会長が、
「本音の本音を言えば、誰もここには入りたくないですよ」と
きっぱり言ったんですね。
昔のように三世代が一緒に暮らしていて、
子供や孫に囲まれてガヤガヤしながら、
その中で死んでいきたいというのが本音ですと。

私はびっくりしたんですよ。だってラクじゃないですか。
ものすごく綺麗でホテルみたいだし、お金がある人の選択は
これが一番いいと私は思っていたんですね。
と、言いつつも「本当にこれが最高なのか」と、
疑問も感じてた時に会長さんに言われたので
ちょっと思い直しましたね。
さっき阿川さんが言ったみたいに
降りられない豪華客船みたいなんですよ。
街中に建っている場合はまだいいんです。
元気な人は繁華街にも行けるし。
でも閑静な住宅街に建ってたりすると、
どこにも行くところがないんですね。海と同じ。

でもコンビニはあるんです。
私の母は足があまり良くないんですけど、
コンビニに行きたがります。
昔はすぐにスーパーに行きたがりましたけど、
コンビニの方が近いんで。
コンビニの何がいいかというと、
たぶん自分でチョイスできるからなんですよ。

その会長も「年寄りはコンビニ好きですよ、
つまんないものを買ってきますよ」って言うんです。
たぶんそれがしたいんですよね。どんなにお金持ちでも。
そこは食事のメニューが
朝夕は2種類、昼は3種類あって選べるんですが、
全体で1800kcalでその中のチョイスだけなんですね。
でもコンビニに行くと、いろんなものの中から
自分で手に取って、値段を見て、レジに行ける。
それがしたいらしいんです。

いくつになっても自分が生きることに対する意思を持っている

阿川
私、今度6月に父がお世話になった
高齢者向け病院(慶友病院)の創立者の、
大塚宣夫先生という方と対談本を出すんです。※6/20発売されました!
さっき言った、食事が美味しいんで
父をごまかして入れた病院です。
そこは月に一度のスペシャル注文メニューというのがあって、
お寿司だったりステーキだったりうな重だったりを頼めるんです。

それで誤嚥性肺炎が落ち着いた父は、
「うなぎが食べたい」って言ったんです。
そこは食事の持ち込みも外食も外泊もOKなんですよ。
それで大塚先生に
「父がうなぎを食べたいって言ってるんですけど、
さすがにやめた方がいいですよね、
小骨がひっかかってまた誤嚥性肺炎になったら大変ですし」と
聞いたんです。
たぶん、さすがに
「それはやめてください」と言われると思ったら、
「いいんじゃないですか」とあっさり言われました。
「え!」って言うと、先生が
「好きなものは喉を通るんですよ」と。
クミコ
(笑)
阿川
その考えは何! と思ったら、
嫌だと思うから喉にひっかかるんだと。
人が食べることに興味を失ったらおしまいだと僕は考えています。
だから、最後まで、食べたいと望むものを食べさせて下さい。
クミコ
そうかそうか。
阿川
だから食べたいと思うものは本人も気をつけて食べるんです。
その上でもし何かあった時は「我々がついてますから」と。
それでその病院はお酒も持ち込み可。
だから父の病室は酒屋か! っていうぐらい酒瓶が
並んでました。
クミコ
そんなに飲まれる方だったんですか?
阿川
いえ。でもご飯の時にちょっと一口飲みたいんですよ。
残間
歳をとった人って、「お酒やタバコをダメ」って
禁止されるのがすごく辛いみたいですね。
うちの父はすでにタバコは吸えなくなっていたのに、
病院から「吸っていいですよ」と許可されただけで、
本当に嬉しそうでした。
阿川
そうそう。
慎重にグラスにちょっとだけしか飲まないんですけど、
ワインとビールと日本酒は常備してました。
それが切れると
「おい、今日の午後、ワインを持ってきてくれ」となって、
「いや、今日の午後は私、仕事なんですけど」と答えると、
「ダメかね!」と不機嫌になられて、困ったこともありましたね。

この先生は面白いなと思って、
父の亡くなったあと、対談本を出そうといろいろ話を伺ったんですが、
先生は元々は精神科のお医者さんだったんですね。
だから内科とか老人病が専門ではないんです。
病院設立のきっかけは、
1970年代に知り合いのおばあさまが、
頭がおかしくなったというか、錯乱状態になってしまって、
預かってくれるところはないかとなったんです。
その頃の老人ホームというのは、
放って置かれるだけの姥捨山状態。
その現状を見て、先生は自分の親は
こんなところには入れたくないと思ったんですって。
阿川
先生がおっしゃるには、
やっぱり医者というのは何よりもまず医療だから、
病気を治そう、不具合を治そうとする。
そのために生活全般に禁止事項というのが出て来ると。
だけどある程度高齢になって、
どこが病気というわけでもない老人に対して、
何が苦痛かと言えば生活を奪われることだと。
そうすると医療よりも先に
「生活」だということに気がついたんですね。
それで第一に「生活」、その次に「介護」にして、
最後に「医療」という風に考えを逆転させたんです。
まず薬臭さを病院から抜いて、散歩に行くときは
化粧品も洋服も貸し出せるようになっています。

今は子孫に迷惑をかけたくないと、
早めに老人ホームに入るのがスマートだと思ってる人が
多いようですけれど、先生によれば、
そういう選択をするのも構わないんだけど、
老人マンションならまだしも、
ホームだと“毎日生活する理由”がなくなると。
クミコ
それはそうですね。
阿川
この毎日生活する理由がなくなる状態は、
最後の最後にとっておいてくださいと。
それで最後の最後は自分はあそこがいいかなという
目安だけつけておく。
でもギリギリまで、一人暮らしでもいいから自分の家にいろと。
それで周りは危ないとか火の元とか言うけど、
少々ボケても一人でやらないといけないと思えば、
できるんですよと。
残間
私は75歳ぐらいになったら
自らホームに入ろうと思っていたんだけど、
一人でいた方がいいのか………うーん、考えてしまいますね。
阿川
それから毎日お風呂に入れなきゃと思ってる人がいますが、
先生自身も最近になって気がついたそうです。
お風呂って疲れるんですよと。
三、四日入らなくても、死にやしません。
石鹸で洗いすぎると老人の皮膚は傷みますと。
多少汚くても大丈夫、髪が伸びたって平気という考えの
先生なんです。

これを言われたとき、私は目からウロコでしたね。
なるほどねと。
とはいえ心配だし転倒すると面倒臭いんですけど、
でも、この家での生活は無理だ、
という段階までは生活を重視した方がいいんだなと。
日本人は「孤独死」というのを、
いかにも子供が親を放置したように言いますけど、
孤独死はヨーロッパでは「はい、オッケー!」なんですって。
クミコ
私もそう思う。
残間
一人だから孤独とは限らないし、
人間、基本は一人ですからね。
クミコ
なんか私は「孤独死ブラボー!」な感じがするんですけどね。
阿川
まあ、先生にそう言われて、そうか、最後の
行き場所の目安と貯金は大事だとは思いましたが、
家にいられるならいた方がいいぞと。

それからお金で思い出したんですが、
老人は財産を持ってても、特に男性は、
無収入になるとすごくヤバイ! と感じるそうなんです。
つまり持っている財産は子孫に残すためにあると。
目減りさせたくないわけです。
でも先生が言うには、
貯めたお金は自分のために使いなさいと。
たとえば孫が車椅子を押してくれるとか手伝ってくれたら、
「はい、お小遣い」と言ってくれてやりゃいいんだと。
あっちもタダでやらされるから腹が立つんだと。
クミコ
(笑)
阿川
払ってやるから文句があるかと。
自分のお金を使って心地よい環境を作ればいいんで、
それを取っておいて、後々お金がかかるかもとか考えるのは
やめなさいというお話でした。
もう目からウロコがいっぱい落ちました。
残間
慶友病院のことは私も少し知っています。
ああいう考え方の施設がもっと多くなるといいと思っていますが、
なかなかあそこまではいかないですよね。
阿川
でも、社会全体的に介護に対する考え方というのが、
少しずつ変わってきてるみたいですね。