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“自分の文章”を書く面白さに目覚めました。 3/4

岩崎俊一さん(コピーライター)

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vol.3 相手の思いを探り当てる


残間
岩崎さんというと、企業広告をずいぶんやってますよね。だから“ボディコピーの人”という印象なのかしら。
企業の思いを伝えるというのは、商品広告とはまた違った感性や技術が必要とされると思うんですけど、やはりあれは、クライアントの気持ちを探ったり、見つけたりしてるんですよね。

岩崎
そうです、そうです。
ライオンだとかミツカンだとか、あっちこっちの企業の気持ちを書いてるんですが、まず、いったい何を言いたがってるのかということを執拗に探ります。
わりあいとそういうことに対しては勘がいい方なので、ちょっと聞くと、この人はこういうことを言いたがってるんだなあとか、口には出して言わないけどこうかなあとか、察しがつくんです。

残間
そこ、すごく大事ですよね。だからいっぱい企業広告の依頼が来るんですね。

岩崎
いや、これ大きな声では言えないんですけど、企業広告の400字から500字くらいのボディコピーがあるでしょ。あれを書ける人間が今、あまりいないみたいなんですよ。
広告代理店は若い人で優秀な人がいると、もっとお金になるプランナーにしてしまうんですね。
しかもそんな長い文章を必要とする新聞広告が少なくなっているし、「ボディコピーなんて誰も読まないよ」と言う上司がいたり。要するに若い人が鍛錬する場がなくなっている。
それで僕のところに回ってくるみたいなんです。

残間
ボディコピーって、なんて言ったらいいんだろう。キャッチコピーの説明文みたいに、みんな思ってるじゃないですか。そうじゃないんですよね。

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岩崎
全然、違います。
ボディコピーに求められているのは、物語なんですよ。企業はその商品なり企業なりの物語を書いて欲しいんです。ロマンチックであって欲しいんです。

商品や企業がこの世に存在するからには、存在する理由があるはずなんです。つまりロマンが。企業は人を幸せにするためにこの世にある。
なのに、そのロマンをちゃんと書かないで、社会貢献だとか即物的な表現をしたりすると、企業広告としては物足りなく感じてしまうんですね。

日本ではまもなく100周年を迎える企業がけっこうあります。若い会社でも20年、30年という節目の年になると、自分たちの理念って何だったんだろうということになる。

最初はワーッと突っ走ってきたんだけど、ちょっと余裕ができて振り返ると、ここまでやってきたけど、社員の気持ちはひとつになってるんだろうか。このまま行って大丈夫なんだろうか。
あるいは2代目に継がせて、やってけるんだろうか。カリスマ的な存在だった初代なき後、どうしようか。

すると、“言葉が欲しい”ということになるんですね。

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残間
でも会社のアイデンティティを言葉にするんですから、考える方もたいへんですけど、決める方も勇気がいりますね。

岩崎
いろいろなスローガンをずらっと並べて、「さあ、どれにしますか。好きなの選んでください」ってやってもダメなんですよ。絶対選べない。

ライオンは「おはようから、おやすみまで、暮らしを見つめる」というスローガンでずっとやってきましたが、それを変えたいということになった。
でも30年も40年も親しんできたものですから、いろいろ提案するだけでは、決心なんかつかないんですよ。
あれは一つの案に決める道筋を、こちらでつけた上で提示しないと決まらないんです。トップが腑に落ちてくれない。

残間
決心の道筋をつけるわけですね。

岩崎
それで僕が考えて最終的に決まったのは「今日を愛する。」
日用品ですから、毎日毎日つきあうことがライオンの中心価値ではないか、という考え方ですね。

よく思うんですが、企業のスローガンを決める時に、十数文字の中に、その企業がやっている全てをぶち込もうなんて無謀な話だし、ありえない。
ところがそこがわかっていないコピーライターは、全部ぶち込もうとする。絶対無理なんです。全体を囲もうなんて無理。

全部入れようとすると、どうしてもここが欠けてる、ここが足りないということになって、粗探しになっちゃうんです。
そうではなく、“真ん中”の価値を言わなきゃダメなんです。真ん中さえ言えば周りはついてきます。

それでライオンの真ん中の価値は何かというと、「毎日使うもの」。特別な日のためのものではなくて、毎日使うものを作っているということが、最高に価値があることじゃないんですか、という話をすると、トップの方たちは納得するわけです。

残間
確かに。

岩崎
作っているのは、今日を大事にする商品ばっかりじゃないですか。そこを大事にすることが、これからもライオンのど真ん中にある価値ですよ、という話をすると、それはそうですねという話になるんですね。
こうやって腑に落ちていく。そこがすごく大事。

残間
岩崎さんはただコピーを渡すんじゃなくて、自分でプレゼンしますよね。私は御社をこう捉えています、こう時代を捉えてますと。

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岩崎
もちろんです。
それで代理店の人がプレゼンすると、こういうデータがあるから御社はこうなんだ、という風になりますが、僕はそんなのわからないので、だいたい“手紙”になりますね。

「僕は変だと思います。こんなにいい価値があるのに、誰もそれに触れようとしない。せっかくいい会社なのに、その価値が十分出てないと思ってました」
みたいな、非常に個人的な思いを語って、そこを突き詰めてやっていったら、こういう結果になりました。となってコピーをお見せするわけです。

ここで企業側としては、“洗いざらい”考えてくれたんだな、という実感が欲しいんですね。
ですから僕は、思いついたコピーは全部お見せします。だいたい20本。多い時で25本くらい。

残間
ちゃんと考えたよ、ということを伝えるわけですね。

岩崎
それで、このコピーは端っこの価値しか言ってないので、やめた方がいいですねとか。
そういった手順を踏まえて、やはりこれですねと。

残間
なるほど。そうやって決心の道筋をつけると。
トップはいろいろと考えてますから、簡単に腑に落ちてはくれませんよね。

岩崎
トップは一番考えてますよ。それで概ねロマンチストです。
現場の人は目前の事象に流されるところがありますが、トップの人は理念、理想を持ってるから、全体を見ようとする。その意味では僕は話がしやすいんです。

残間
うーん、コピーライターといっても文章書いてるだけじゃないんですよね。
岩崎さん、大学は心理学科でしたよね。役に立ってるんじゃないですか。

岩崎
(笑)いや、そんなことはないですけど。

(つづく)


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◎岩崎俊一さんの作品、ライオンの「今日を愛する。」はこちらで見られます。





vol.1 エッセイというよりショートストーリー

vol.2 文章は読む人のもの。話は聞く人のもの

vol.3 相手の思いを探り当てる

vol.4 昭和30年代は、日本が壊れていく始まりだった