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シャッターを開けておけば、何かが舞い込む。 4/4

伊藤アキラさん(作詞家)

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vol.4 今日も店は開いています


残間
最近は、仕事はどんな感じですか。

伊藤
最近は比喩でいうなら、古本屋の主人状態です。

朝仕事場に行って、シャッターをガラガラと開けて、お店を開く。
お客さんが来るのを待っている。
そのうち夕方になる。
あぁ今日は誰もお客がこなかったと思う。
家路をたどる。
そうでなければ、ときどき冷やかしの客が来る。

という具合ですね。

残間
客ってどういう人ですか?

伊藤
むかし業界にいた人ですね。むこうも古本屋状態で、暇があるから訪ねてきて、お茶を飲んで帰っていくんですよ。

こういう業界は、やはり同年代で寄り集まって仕事をしていきますよね。すると一緒に年をとっていきます。組織にいる人なら偉くなって現場を離れ、ついには会社からも離れてしまう。私も、無理に若い人に混じって仕事をしようとは思いませんし。

残間
すごいなあ。私だったら怖いから、自分で閉めてしまいます。
今たとえば一日に電話が30本あったら、だんだん10本になり、5本になり、1本になりゼロになり、一週間に1本になり……。ものを作る人の宿命かもしれないけれど、それって怖いことだと思うんです。

伊藤
まぁ、今日は電話が一度もならなかったなぁっていう日は、必ず来るでしょうね。必ずというより、明日あさっての問題ですよ。

残間
それはさみしいとか苦しいとか、ないですか?

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伊藤
それはないです。たまには面白い客がくるかもしれませんから。お客さんが来なくなったとしても、いや、明日はきっと来るだろう、と思っていようと思うんです。
閉めることはないでしょう。シャッターを開ける気力と体力さえあれば。

残間
うーん、そうか。

私は、その、古書店に出向いていって座っている、ということが、すごいと思うんですよ。普通なら「また明日も来ないかも」っていう、負のスパイラルに陥ってしまう気がします。そういう厳しい状況になってしまう前に、怖気づいて行くのをやめてしまう人が多いと思います。
それを、いやそうじゃないんだ、と言える姿勢はかっこいいですよね。

伊藤
そうですか、ありがとうございます。
だけど、足腰が立たなくなってきて、シャッターも持ち上がらず、となったら、どうしようもないですからね。その体力だけは残しておこう、と思っているんですよ。

残間
伊藤さんは一人でいることが怖くもないし、嫌でもないんですか?

伊藤
そうですね。それに一人とはいっても、シャッターを開けておけば、ひょんなことから何かが舞い込むかもしれませんからね。

残間
なるほど、確かに。店を開いてないと何も来ないっていうのは言えますね。開いておけば、何かが飛び込んで来る可能性はある。
ニューミュージックが懐メロにならないのって、今もミュージシャンが現役で歌ってるからですよね。ずっと続けていくっていうことは、たしかに大きい。

伊藤
まぁどこかで、古書店を手放すっていう日はくると思ってるんですよ。だけどそれってあんまり面白味ないなって、今のところは思ってるんです。

残間
最後に、これからやってみたいことはおありですか?

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伊藤
そうですね。今やってみたいのは、我が人生の遺物、『伊藤アキラ グラフィティ』を作ることです。

残間
というと?

伊藤
さっき自分を古本屋に喩えましたけど、とにかく私は、色んなものを山のようにとっておくわけですよ。それで時おり、その山を片づけたりしてると、意外なものが出てくるんです。

残間
あぁ、それが遺物。

伊藤
そう。この間出てきたのが、一枚の名刺なんですね。これを拾ったいきさつっていうのが、ちょっとストーリーがあって。
最初の話に戻りますが、三芸社長殺し事件の時、会社が整理されて最後の段階になって、ギャラを渡すから来い、と言われたんです。行ってみたら、会社に物が何にもないんですよ。ごみがちらかってるだけ。

残間
みんなが次の会社で使えるものを持って行っちゃったんですね。

伊藤
そうなんです。下を見たらフロア中に散らばった紙の中に名刺が一枚落ちていまして。拾ってみると、社長殺し事件の犯人の名刺だったんです。

残間
あの、例の専務。

伊藤
そう、例の。で、これは記念になるなと思って、持って帰ったんです。それが見つかりました。

残間
持ち帰ったのもすごいけど(笑)、取っておいたのもまた、すごいですね。

伊藤
古い名刺って、どっかで捨てよう片づけようと思いながら、捨てられない一枚があるでしょう。

残間
ありますね。私もある。何かの本とかのあいだに入ってたりするやつ。

伊藤
そうそう。それを見てるといろんなことが思い出されまして。それで、「そうだ、こういう本作ったら面白いかな」と思ったんです。

残間
というと?

伊藤
左ページに名刺の写真があって、右ページに、その名刺にまつわる思い出を書くんです。そういうふうにして、あと100個くらい、次から次へと左ページに一点ずつ写真を置きながら、右ページに当時のことを書き綴ったらいいんじゃないかと思って。
我が人生の遺物集です。題して、『伊藤アキラグラフィティ』。

残間
面白いですね。

伊藤
他にも色々遺物があって、たとえば私が作詞したフォーリーブスの「ブルドッグ」(1977)って曲があります。

残間
「ニッチもサッチもどうにもブルドッグ」ってやつですね。

伊藤
そうそう。あの歌を富士フィルムがCMに使ったことがあるんですよ。2匹のブルドッグが出てくるんですけど、一匹の名前がニッチで一匹の名前がサッチ。ニッチもサッチもブルドッグ。
このCMの絵コンテが残ってるんです。この絵コンテを左ページに、右ページに説明をつけて。

残間
あはは、そんなのが残ってるなんてすごい。いいじゃないですか。やりましょうよ。

伊藤
でも問題もあるんですよ。というのは各方面への許諾の問題です。大変そうだなぁと思って。それに社長殺しの犯人の名刺なんて、出していいいのか。だいたい本人は生きているのか。
だから、これは売るってことを考えちゃいけないんだ、と気づきました。50部、自費出版するんです。私家版。それで、お世話になった方々や、私をよく知っている人にプレゼントするんです。ただし「誰にも見せるなよ」って書いて。

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残間
タイトルは『誰にも見せるなよ』がいいんじゃないですか。

伊藤
これを出したら面白いかなって思って。この名刺に相当する遺物を探そうっていう目的をもって片づけをはじめたら、きっと面白いものも見つかるし、片づけもはかどるだろうと思っているんです。

遺物はまだありますよ。さっき話に出た「かもめが翔んだ日」。これ、3回録り直してるんですよ。その3本のカセットがいまだに残ってるんです。歌詞が1と2と3でそれぞれ違うんですね。収録中に現場でどんどん歌詞を変更していったんです。聞いていると、その変遷が見えてくるんですよ。

残間
すごい。次から次へとエピソードが出てきますね。

伊藤
日本音楽昔話みたいなもののの語り部となって、「こんなことがあったんだ」っていう話をしてもいいかな、なんて思ってます。
「むかしこの国には作詞家というものがあってな」、なんて(笑)。
そうすると、「えー、作詞家? 何するんですか。詞を書くのに専門家がいたんですか」なんて質問されたりするわけですよ。

残間
それは面白いですね。今、若い人が昔話を面白がって聞くことが多いですから。

伊藤
面白いことにならないかな、と思っています。

残間
伊藤さんは、もし「古本屋のシャッター」を閉めたとしても、経験とか記憶を人に伝えたいとお考えなんですね。自分の城を守り続けるというか、社会の中に自分の居場所を置き続けておくという意識。
これからも色々と活動していただきたいです。

伊藤
そうですね。是非よろしくお願いします。

残間
今日はありがとうございました。

伊藤
ありがとうございました。

(終り/2014年10月取材)

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vol.1 「鉛筆一本で生きていく」と決めたものの……

vol.2 苦労した仕事ほどエピソードが生まれる

vol.3 制約や縛りをくぐり抜ける“妙技”

vol.4 今日も店は開いています





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