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シャッターを開けておけば、何かが舞い込む。 3/4

伊藤アキラさん(作詞家)

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vol.3 制約や縛りをくぐり抜ける“妙技”


残間
伊藤さんのお仕事について振り返ってきましたが、伊藤さんの作品を見ていると、言い方が難しいんですが、しかつめらしくというのか、“真面目に”机に向かって仕事してるとは思えないんです。遊ぶように、気楽に書かれている印象というか。
だけど、実際にお仕事の様子を拝見したことがありますが、すごく真面目に、机に向かって書かれてるんですよね。

伊藤
私はプライベートには仕事を持ち込まないようにしています。仕事場の机に座って原稿用紙を広げたら、即、仕事の体勢に入るんです。そして、それから2時間たったら必ず原稿は上がっているというように、自分を“しつけ”ました。最初のうちは、なかなかそうはいかなかったけれど。

残間
締め切りがきても家に持って帰ったりしないんですか?

伊藤
そうです。締め切りがその日の3時であれば、作業に2時間をとって、ちゃんと3時に間に合うように書きました。

残間
面白いと思うのは、普通は考え込んで理屈こねたものよりも、フッと思いついたものに惹かれたりするでしょう。だけど伊藤さんってそうじゃないんですよ。そこが面白い。机に座ってるのに、フッと思いついたみたいな身軽さが歌詞にありますよね。

伊藤
フッと思いつくっていうことはあるんですよ。だけどそれは、一生懸命原稿用紙を埋めている、ワープロの画面を埋めている、その過程の中ですね。

残間
日常生活のワンシーンで思い浮かぶってことではないんですね。

伊藤
道を歩いていてフッと出てくるとか、私の場合はそういうことはありません。
星野哲郎さん(注:作詞家。代表作は北島三郎「函館の女」、渥美清「男はつらいよ」など)とかは逆なんです。バーに行って、グラスのコースターの裏側にホステスさんの一言を書きとめる、なんてエピソードがあるんです。

話としてとっても面白いでしょう? 講演の仕事ができます。私の場合だと話のネタがない。

残間
詞を書くためにはそういうバーのホステスさんと会話するみたいな、なんていうのかな、人生経験が必要っていうイメージがありますよね。

伊藤
そう思いますよね。そこで私が、いやいやそんなことはない、机に2時間向かったら出来るんです、なんて言っても、面白くもなんともないでしょう。

残間
(笑)ストーリーナイズして欲しいですからね。詞ができるまでの過程にドラマがほしい。伊藤さんのドラマは頭の中で、目に見えないから。

ところで私、「かもめが翔んだ日」が伊藤さんの作詞って知ったときに、ちょっと驚いたんです。それまでの作品と全くイメージが違いましたから。あれには、どういうドラマがあったのか気になります。

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伊藤
イメージが違いましたか? それはね、もっと私を柔軟にとらえないといけませんよ(笑)。

残間
歌謡曲も手がけるようになったのは、どんないきさつだったんでしょう。

伊藤
その頃、ずっとCMソングを書いていたんですが、普通の歌も書きたいな、なんて思っていたんです。そうしたら森田公一さんの会社の人から、森田公一とトップギャランのアルバムを手伝ってくれないかっていう話がありました。CBSソニーのディレクターと会って話を聞いてきてくれないかと。

だけど、森田公一とトップギャランが描く世界って、イメージが決まっていたんですよ。クリーンなイメージというか、女と男の修羅場なんかは描けないような。

残間
いわゆる「青春回顧モノ」ですよね。

伊藤
そう。だけど、森田公一に女と男の関係を歌わせたい、と思う場合があるでしょう。そのとき、舞台をどこにするか、どう描くか、といった設定を、全部新しく作らないといけない。

残間
修羅場ではない、新しい男と女の関係の描き方。難しいですね。

伊藤
で、そのとき、御茶ノ水駅なんてどうかななんて、そのディレクターが言ったんです。あそこは学生の町だし、新宿から、急行と各駅と、線路が二つあって、近づいたり離れたりしていて、何かできるんじゃないってことを言うんです。それは面白い、私も御茶ノ水駅はなじみがありますと、賛成しました。

残間
そんな具体的な世界観の指示を出す人がいらしたんですか。

伊藤
いたんですよ。それで何日か後に書いて持っていったんです。朝の御茶ノ水駅の様子を書きました。サラリーマン、学生がいるようなね。それをディレクターが見て言いました。
「伊藤さん、違うんだ。朝じゃないんだ、夜なんだよ」

残間
え、どういうことですか?

伊藤
そう思うでしょう? 
ディレクターが言うには、夜ね、急行と各駅電車のドアのガラス越しに、昔の女が見えるんだと。それで、夜のドアですからガラスに影が映ったりして、遠くのものは一切消えて、昔の彼女と今の自分だけが窓のところで見つめあうっていう……。そういうのがいいんだ、だから夜じゃないとダメなんだと。

残間
そういう体験があるんですね、その人。もしくはそういう妄想?

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伊藤
うん。そんなの聞いてないよってことなんですけど、わかりましたって言って変えました。夜じゃなくてもいいんじゃないですか、なんてことは一切言わなかったです。
これが縁になって、そのディレクターと「かもめが翔んだ日」を作るわけです。その時も歌手は渡辺真知子と最初から決まってました。

残間
依頼されたものは、とにかくつべこべ言わずに書かれるんですね。

伊藤
えぇ。やってやろうじゃないかって気持ちですね。

残間
これまでのお話の中で、歌謡曲とか童謡とかコマーシャルソングとか、色々な曲のジャンルがありましたけど、書きたいジャンルは自分で決めなかったんですか? たとえば流行歌の作詞だけやるとか。

伊藤
それはないですね。

残間
要するに、頼まれたらなんでもやるということ? 「かもめが翔んだ日」もやれば、「はたらくくるま」もやれば、という風に。

伊藤
そうそう。
よく、詞をたくさん書き溜めていて、「こんなのを書いたんですけど、見ていただけますか」って売り込みをするっていうのがありますが、私は一度もやったことがありません。どんな曲でも、まず歌手ありき。CMだと商品最初にありきですから。

残間
なるほど。

伊藤
それで、商品最初にありき、スポンサーの言い分最初にありきっていうのは、これは縛りですよね。だから縛りを潜り抜ける妙というのを、CM音楽の歌作りの過程で十分に味わったわけです。辛いけれどもこれをくぐりぬけて、「どう、やってあげたじゃない」っていう妙技。

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残間
それは「自分の書きたいジャンル」という視点で曲を捉えていたら、出てこない感想ですね。だけどそういう縛りを潜り抜ける中で、やっぱり「どう潜り抜けるか」っていう、自分らしさみたいなのがあるんじゃないですか?

伊藤
そこはね、自分で感じるものじゃないんですよ。結果的にお客様が感じることであってね。自分から“自分らしさ”を意識することはありません。

残間
だけど、伊藤さんらしさってやっぱりありますよ。CMソングだったら、クレジットを見なくても、これは伊藤さんだ、という曲の見分けがつきます。
ちょっと視点を外しているんですよ。たんに直球で笑いを誘ってるんじゃなくて、ちょっと逸れたところから書いてらっしゃいます。

伊藤
ばれてた(笑)。

残間
今まで伺って、伊藤さんって、あまりご自身を前面に出そうとしてないですよね。

伊藤
うん。まず商品ありきですからね。

残間
でも普通なら、あの商品が売れるきっかけを作ったのは俺だぞ、と思うわけでしょう。それを言いふらしたり。ところが、そういう自己顕示欲みたいなのが全然見えないんです。それはどうしてなんですか?

伊藤
それは、積み重なればわかるでしょう? っていう気持ちがあるからかもしれません。作品一個一個に自分の足跡をクレジットしておかなくてもね、いずれ分かってもらえるでしょう。それでいいんじゃないか、ということです。

残間
それは自分への信頼感ですか?

伊藤
そうですね、自信もあります。

残間
受け止める社会のことも、自分のことも信頼してらっしゃるんですよね。

(つづく)

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vol.1 「鉛筆一本で生きていく」と決めたものの……

vol.2 苦労した仕事ほどエピソードが生まれる

vol.3 制約や縛りをくぐり抜ける“妙技”

vol.4 今日も店は開いています





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