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生成AIとどうつきあうか。 Part 1

坂村健さんインタビュー
組み込み型コンピュータでは世界シェア60%を超えると言われているトロンOS。その性能は高く評価され、開発者の坂村健さんには昨年、世界最大の電気・情報工学分野の専門組織IEEEから相次いで賞が贈られました。生成AIが話題になっている昨今ですが、“コンピュータの今”について伺うには、坂村さんしかいない! との思いでお会いしてきました。(残間/2024年5月取材)
(聞き手/残間里江子 撮影/岡戸雅樹 構成/髙橋和昭)

Part 1 日本が誇る国産OS、トロンを知っていますか?

全世界で利用され、シェアは60%超!

残間
昨年は米国のIEEE(アイトリプルイー/米国電気電子学会)からご自身が牽引するトロンプロジェクトが『IEEEマイルストーン』と認定され、坂村さん個人には『IEEE井深大コンシューマー・テクノロジー賞』が贈られました。あらためておめでとうございます。

坂村
ありがとうございます。

残間
先日は親しい人たちが集まって、お祝い会が開かれました。面白かったのは、すごい賞をもらっておめでたいらしいことはわかってるんですが、素人が多いので、みんな今一つそのすごさがわかってなかったこと(笑)。
私も似たようなものなんですが、トロンはウインドウズやMacのようなパソコンOSではなく、いろんな電子機器に取り付けられている、組み込み型と呼ばれるコンピュータのOSなんですよね。

坂村
もう説明するのも面倒くさいんですけど(笑)、デジカメや家電、自動車、様々な産業機械に組み込まれていて、それを制御する小さなコンピュータです。
一般の人には目に触れることがないので、あまり知られていないでしょうね。でも、結構身の周りにあるんですよ。組み込み型なので小さくて軽くてバグが少なく、高性能な上に消費電力の少なさが求められます。

残間
この分野のコンピュータとしては、世界シェア60%超という今やナンバーワンの存在になっています。坂村さんはこれまでにも様々な賞を受賞されていますが、中でも一番嬉しかった賞というのはあります?

坂村
一番最近にもらった賞がいつも一番嬉しいですね。一番新しいのは、芸術やデザインの先生たちがやっている環境芸術学会からいただいた『環境芸術学会大賞』です。やってきたことが認められてお褒めいただくんですから、賞はどれも嬉しいものですよ。

残間
willbeアカデミーで毎年お世話になっている月尾嘉男先生は「坂村健は日本の宝だ!」とおっしゃってました。

坂村
(笑)それはちょっと………、でも月尾先生には何かとご助力いただいて本当に感謝しています。

オープンアーキテクチャーの先駆け

残間
『IEEE井深大コンシューマー・テクノロジー賞』の受賞理由には、
1.トロンOSの消費者向け家電製品での貢献
2.オープンでフリーなこと
3.プロジェクト推進する上でのリーダーシップ
この3つが上げられていました。特に2のオープンでフリー、つまり使用料がタダというのは、トロンが始まった1980年代からの変わらぬスタンスです。下世話な人は、製品1点につき1円でも使用料をとっていたら大金持ちだったのに! なんてことを言います。

坂村
(笑)そういうものでもないんですけどね。でもオープンアーキテクチャーの先駆けのひとつだったとは思います。

残間
そのおかげで私たちは便利な家電製品を安く活用できてるわけですね。メーカーがフリーのトロンを使って、効率的に製品を開発できます。

国産のパソコンOSが生まれた可能性?
残間
組み込み型のコンピュータとして大成功したトロンですが、プロジェクトが始まった当初はいわゆるパソコンのようなタイプのものもあったんですよね。

坂村
Bトロンですね。

残間
80年代後半には一時、トロンOSを搭載した教育用パソコンが全国の小中学校に教育用として採用される、という話が真実味を帯びました。

坂村
国産というだけでなく何しろフリーですから、著作権料を払わなくてもいいですからね。

残間
ところが結局、そうはなりませんでした。そのせいもあって、トロンはその後は組み込み型のOSに特化していったようですが、当時の日米貿易不均衡を背景にしたアメリカ政府の圧力ですとか、それを国内のメーカーが忖度したとか、いろんな憶測が飛び交いましたが。

坂村
アメリカ政府の圧力とか、そんなものはなかったんですよ。マスコミの中に、「ダメじゃないものなのに、ダメにされてしまった」というストーリーを書きたい人がいたのかもしれません。
強いて言えば当時、自分の会社がアメリカ製のソフトを売りたいがために、国産OSのトロンの採用をやめるよう、関係官庁に強く働きかけていた財界人がいたようです。誰とは言いませんが(笑)、足を引っ張る奴がいた。そういう人間のせいですかね。そして日本といういう国自体が、新しいことや前例のないことを避けたがる体質がある。これはよくないですよね。人の足を引っ張るのはもっと良くないですけど(笑)。

残間
でもあの時、トロンが教育用パソコンのOSとして採用されていたら、ずいぶん違ったんでしょうね。今、パソコンといえばWindows、Macintoshが大半ですが、そこに国産OSが割って入ったかも………

坂村
まあ、違ったかもしれませんね。


(Part 2に続く)



Part 1 日本が誇る国産OS、トロンを知っていますか?

Part 2 気がつけば時代の先を走っていた

Part 3 生成AIは面白い!

Part 4 いいものをつくりたいだけなんです