ホーム>willbe Interview>服には人を幸せにするパワーがあります。 後篇

服には人を幸せにするパワーがあります。 後篇

西ゆり子さんインタビュー


後篇 新しい自分に出会うため、70歳にしてリセット



スタイリングレッスンを通じて
「服を変えれば、人生が変わる」ことを実感


残間
まもなく3冊目の著書が出ますね。『Life Closet ~服と共に生き、服と共に笑う。~』(扶桑社刊)。今度は初のフォトエッセイとのことで、大好きな服を身につけた、楽しそうな西さんの写真もたくさん見られます。

新著『Life Closet  ~服と共に生き、服と共に笑う。~』


以下、同書より












西
これまでの2冊はライターの方に聞き書きしてもらいましたが、今回は頑張って自分で原稿を書きました。
衣食住の中での“衣”。生きることと着ることの関連などを意識して書いています。それからここ最近は、一般の方にスタイリングレッスンもしているんですが、その中で見えてきたこととか。ああ、みんなこういうことを考えて服を選んでいるんだなあと、自分でも気づかされることが多かったです。そんなことも反映されています。
残間
「着る学校」ですね。それから、若い人たちとGUツアーもやってましたよね。

西
ええ、20代の人たちと行きました。あれは面白かった。あー、そういうコーデをするのか。ストリートにはストリートの世界があるんだな、でもそこからランクアップしてほしいなあとか。

先ほども言いましたが、40代後半から50代にかけて多くの女性が、体調の変化から、これまでの「似合う、似合わない」という感覚がずれてくるようです。ともすれば、そこで着ることの楽しみを諦めてしまう方が少なくないんです。と言っても「衣食住」というように服を着ないわけにはいけませんよね。

着る楽しみを諦めるというのは、食で言えば、残りの人生を「美味しい」ではなく、お腹を満たすためだけに食事をするということ。つまり、これからの数十年を、寒さ暑さをしのぐために当たり障りのない服で身を隠すということでしょうか。

残間
年をとっても「美味しい」を目指していかなければなりませんね。

西
モデルや女優のスタイリングをしてきた私は、当初は「一般女性へのスタイリングレッスンなんて意味があるのかしら…」と疑心暗鬼でしたが、今ではむしろ服の力は、有名人以上に、むしろ一般の人の人生を変えると感じています。

漠然と人生を変えましょう、といっても難しいですが、毎日着る服に対する考え方を変えると、なぜか生き方まで変わる………。これってすごいことですよね? セミナーをやってみて、特に大人世代の女性が「服を変えることで、こんなにも表情や心持ちまで変わるんだ」ということを目の当たりにしました。

今、クローゼットを空にしています

残間
新刊のゲラを読ませていただきましたが、亡くなったパートナーや息子さんたちのことなどにも触れていますね。服をメインにしながらも、これまでの西さんの半生を振り返り、未来に向かうターニングポイントのようなエッセイと感じました。
私と西さんは同じ1950年生まれですが、70代となり、これからの過ごし方についてどう考えていますか。
西
70歳になって思いましたね。60代はまだ青春だったなと。今は日に日に体力・気力ともに落ちていることを感じますが、あと10年か15年くらいは動けそうです。だから好きなことをやっておこうと思っています。
そのひとつが今申し上げた、自分のこれまでの知見を一般の人に伝えること。好きなことというより、最後の使命とも思っています。

個人的には服のリセットですね。これまで古い服も特に気に入っていたものはアーカイブとして保管していたんですけど、70になって一度完全にクローゼットをゼロにしようと思っています。リスタートしようと。
本当は60代でやりたかったことです。クローゼットの空いたスペースにどんな新しい“自分”が入ってくるか楽しみで、今、日夜整理してます。「西ゆり子の着ていた服、一点2千円」と告知したら、山のように応募が来ました(笑)。

残間
服のリセットもありますが、人間関係のリセットも必要かもしれませんね。

西
ええ、経営していたスタイリスト事務所の社長を若い人に譲ったら、本当に楽になりました。もう見たくない芝居や映画も見ないことにしました。この仕事をやっているといろいろとお誘いがあるので。
それから会ったことのない人のお葬式には出ない。知らない人ばかりの宴席には出ない。出れば出たで私は上手くやれるんですよ、初対面の人とのお食事。何しろおしゃべりですから(笑)。でも、もう出ません。

残間
フォトエッセイに掲載されている、自分の好きな服を着て元気に笑っている西さんを見ていると、こちらも元気になってきます。西さんの着ている服が好きな人もそうではない人もいると思いますが、「服と共に生き、服と共に笑う。」このサブタイトルには誰もが異存はないと思います。

西
ありがとうございます。
若い頃は死ぬのが怖かったんですけど、この歳になると覚悟ができるものですね。あの人もこの人も旅立ってしまったし………あとは後始末をどうするかだけ。
でも、あと10年か15年は好きなことだけやり続けますよ!





(終わり/2023年7月取材)


前篇 ドラマスタイリストという仕事

後篇 新しい自分に出会うため、70歳にしてリセット


インタビュー一覧