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服には人を幸せにするパワーがあります。 前篇

西ゆり子さんはファッション雑誌のスタイリストとしてキャリアをスタートさせ、30代からはテレビドラマのスタイリングの草分け的存在として活躍してきました。その数、約200作品! 台本を読み込み、主人公のキャラクターや魅力、演技を“服の力”でパワーアップする。それがドラマスタイリストです。近年では一般の方への着こなしアドバイスやエッセイを発表するなど、70代にしてますます前向き、前がかりの人生。見習いたいものです。(残間/2023年7月取材)
(聞き手/残間里江子 撮影/岡戸雅樹 構成/髙橋和昭)
前篇 ドラマスタイリストという仕事
服を見せるのではなくドラマを見せる
残間
昨年出版されたファッション指南書、『服を変えれば、人生が変わる』(主婦と生活社)を読ませていただきました。単なる着こなし術というより、人生への向き合い方を問うような、深い本だと感じました。
西
ありがとうございます。“衣食住”というぐらいで、服は最初に来ますからね。何を食べるかと同じくらい“何を着るか”は大事です。というか、みなさん服の持つ力をもっと活かしてほしいです。
残間
「着回しの利きそうな便利な服ではなく、“自分が好きだと思った服”を買うこと」など、キラー・メッセージがたくさんありました。確かにともすれば、自分の好きとは違うところで服を選びがちです。
西
服は毎日着るものですから、楽しく着るのが一番なんです。特にある程度お歳を召されれば、いろんなしがらみからも解放されて、何を着ても自由なはずです。好きなものを着れば気分が上がって、内面からパワーが出ます。その人が一層魅力的に見えるんです。
残間
歳を取ってくると自由は自由なのですが、何を着たらいいかわからないという別の悩みも出てくるんですけどね………
それでは、まずファッションの世界への関わりからうかがいましょうか。やはり小さい頃から服には興味があったんですか?
それでは、まずファッションの世界への関わりからうかがいましょうか。やはり小さい頃から服には興味があったんですか?

西
ええ、大好きでした。昔は既製服がなかったですし、叔母が器用で私の服をいろいろ作ってくれました。ここにポケットをとか、こっちにリボンをつけてとか、「こんなデザインにしてほしい」という私の希望をかなえてくれたんです。それで人から素敵とか言われると、本当に嬉しかった。
でも、10代の頃はファッションを仕事にするとは全く思ってなかったですね。私はお洒落するのは大好きでも、母親譲りでまったく裁縫はダメでしたから。当時ファッション関係の仕事といえば「縫う」か「デザインする」の二つしかないと思っていたんです。ところが1970年に創刊されたばかりの雑誌『anan』で、スタイリストという仕事があると知りました。「これだ!」と思いましたね。
でも、10代の頃はファッションを仕事にするとは全く思ってなかったですね。私はお洒落するのは大好きでも、母親譲りでまったく裁縫はダメでしたから。当時ファッション関係の仕事といえば「縫う」か「デザインする」の二つしかないと思っていたんです。ところが1970年に創刊されたばかりの雑誌『anan』で、スタイリストという仕事があると知りました。「これだ!」と思いましたね。
残間
最初はやはり、雑誌の仕事からスタートしたんですか?
西
24歳でスタイリストとして独立し、集英社や小学館でたくさん雑誌の仕事をさせてもらいました。この時にファッション用語を一通り覚えたのは、後々役に立ちましたね。「肩がセットインしてる」とか、形や感覚としてはわかっていても、仕事となるとそれを言語化することを求められます。例えば今、残間さんが来ているジャケットを文字で書かないといけない時、テーラードジャケットのテーラードを知らないと書けませんよね。
残間
テレビの世界はいつ頃から入られたんですか?
西
30代後半になってからです。知り合いのカメラマンから「西さん、テレビの仕事をやってみます?」と誘われまして。スタイリスト事務所の社長をやってましたから、経営のことを考えると仕事は選んでいられませんでした。
とはいえ、当時はテレビの仕事は、ファッション界では一段下に見られていた感じでしたね。スタイリストなのにドラマやるの? という雰囲気はありました。
とはいえ、当時はテレビの仕事は、ファッション界では一段下に見られていた感じでしたね。スタイリストなのにドラマやるの? という雰囲気はありました。
残間
最初からドラマの仕事だったんですか?
西
最初はバラエティです。『11PM』や『なるほど!ザ・ワールド』。バラエティに出るタレントさんには、「さすが芸能人!」と見ている人がワクワクするような服を着ていただこうと決めました。
特に楠田枝里子さんは、ご自身も「バラエティに出る人は“非日常”でなければいけない。街を歩ける服ではいけない」という持論がありました。アクセサリーや帽子も含めて既成のものをアレンジしたり、いろいろやらせてもらいましたが、楽しい思い出です。でも楠田さんは、普段はセンス良く普通の服を着こなす人なんですよ。
山田邦子さんともずいぶんご一緒させていただきましたね。私が用意した派手派手の衣装を、完璧に着こなしてくれたものです。
特に楠田枝里子さんは、ご自身も「バラエティに出る人は“非日常”でなければいけない。街を歩ける服ではいけない」という持論がありました。アクセサリーや帽子も含めて既成のものをアレンジしたり、いろいろやらせてもらいましたが、楽しい思い出です。でも楠田さんは、普段はセンス良く普通の服を着こなす人なんですよ。
山田邦子さんともずいぶんご一緒させていただきましたね。私が用意した派手派手の衣装を、完璧に着こなしてくれたものです。
残間
そこからドラマの仕事へと入られたんですね。
西
テレビの世界は右も左もわかりませんでしたから、雑誌と同じようにやっていたら、「仕事を丁寧にやる人だね」と思われて、プロデューサーに気に入られたようです。まず一本、主役とメインキャストをやらせてもらいました。そこが始まり。
ドラマの洋服はバラエティと違ってハイブランドで派手だと合いません。日常の服でないと。それに視聴者の人にすぐブランドがわかってしまうと、ドラマに入っていけないんですね。「浮いた」状態になります。見せなくてはいけないのは服ではなく、ドラマなんですから。そこが雑誌のスタイリングとも違うところです。
ドラマの洋服はバラエティと違ってハイブランドで派手だと合いません。日常の服でないと。それに視聴者の人にすぐブランドがわかってしまうと、ドラマに入っていけないんですね。「浮いた」状態になります。見せなくてはいけないのは服ではなく、ドラマなんですから。そこが雑誌のスタイリングとも違うところです。
残間
それ、わかります。ある大女優が地方都市に独りで住んでいる主人公を演じていたのですが、いつもアルマーニのブラウスを着ているんですよね。そういう人もいないでもないですが、違和感を感じました。
女優の場合は専属のスタイリストがついていてそちらが主導権を持ったり、監督なり演出家なりが女優にきっちり言えないこともあるようですね。特に大女優クラスになると。それと、そもそも監督自身がファッションをわかっていないこともありますよね。
女優の場合は専属のスタイリストがついていてそちらが主導権を持ったり、監督なり演出家なりが女優にきっちり言えないこともあるようですね。特に大女優クラスになると。それと、そもそも監督自身がファッションをわかっていないこともありますよね。
西
それでも監督は言うべきなんですよ。作品は監督のものなんですから。ご自身がファッションをわかっていないのなら、わかっている人をブレーンにすべきだと思います。
残間
それにしてもドラマスタイリストというネーミングは言い得て妙ですね。台本を読み込み、登場人物がもっとも劇中で映えるように、衣装からドラマを支えていく。
西
そうでしょ? でもそんな言葉なかったんですよ。初めて本を出す時に、編集者が私の仕事の中身を聞いて、「西さん、それってドラマスタイリストですね」と名付けてくれました。何をやっているか一言でピンと来ますよね。
“着る”に悩むのではなく、楽しんで!

残間
自分のことで恐縮なんですが、いい機会なので相談したいことがあります。70代になってみて、気がつくと着る服がないんですよ。というか、先ほども言いましたが、何を着たらいいかわからない。何が似合うのかもわからなくなってきました。
同年代の友人たちを見ても、一緒にプライベートで旅行をしたりすると、「どうなんだろう?」と首を傾げたくなる服装をしています。
私たちの世代はミニスカートやらマキシやら、いろんなファッションの洗礼を受けてきたのに、どこへ行くにも靴は、スニーカーならいいのですが、スニーカーもどきのカジュアル靴。体型をカバーするためにヨレヨレの上着を羽織ったり、旅といえば斜め掛けバックだったり……。「ちょっとそれはないんじゃない」と言っても、「いいのよ」と聞く耳を持たない。
西さんは今日もさりげなくカッコ良いですよね。その色使いといい、私にはできそうでできないコーディネートです。
同年代の友人たちを見ても、一緒にプライベートで旅行をしたりすると、「どうなんだろう?」と首を傾げたくなる服装をしています。
私たちの世代はミニスカートやらマキシやら、いろんなファッションの洗礼を受けてきたのに、どこへ行くにも靴は、スニーカーならいいのですが、スニーカーもどきのカジュアル靴。体型をカバーするためにヨレヨレの上着を羽織ったり、旅といえば斜め掛けバックだったり……。「ちょっとそれはないんじゃない」と言っても、「いいのよ」と聞く耳を持たない。
西さんは今日もさりげなくカッコ良いですよね。その色使いといい、私にはできそうでできないコーディネートです。
西
今日の残間さんの服もとっても素敵ですよ。靴もかわいい!!
でも、確かに歳を取って40代後半ぐらいから、徐々に洋服が似合わない体になってきます。スーツやジャケットは背筋がピンと伸びていないと様になりませんから、体の鍛錬はある程度は必要でしょう。
それからヨレヨレの服はいけません。若いうちは中身がピカピカだからいいんですが、私たちは中身がヨレヨレですから(笑)。ファストファッションも否定はしませんが、どこかに一つ“いいもの”を身につけるといいと思いますよ。
それから「聞く耳を持たない」というのは困りもの。
歳を取ると体も社会での役割も変わっているのに、なかなか自分からは服を変えられません。それまでと違う自分を見つけたいのなら、思い切ってプロに任せてみるのもいいと思います。
ただ、人って歳を重ねると「はい」って言えなくなってくるんですよね。すぐに、「でも」とか、「だって」とか口にしがち。だから私も人からの注意は耳を傾けるよう心がけています。特に60歳以降はね。
どんな服を着たらいいかわかなくなったら、とにかく「自分の好きな服」を着てください。もう誰に遠慮することもないし、周りの目を気にすることもありません。大人世代は、これまでの人生に自信を持って、堂々と好きな服を着れば良いのです。私の経験から言って、好きな服に似合わない服はありません!
新しい装いに最初は少し違和感があっても、とりあえず3回着てみてください。結構「似合うかも」と思えるものです。そうそう、新しい服やコーディネートを試したら、スマホで自撮りするといいですよ。別にSNSに上げなくてもいいんです。自分を客観視することに意味があります。
でも、確かに歳を取って40代後半ぐらいから、徐々に洋服が似合わない体になってきます。スーツやジャケットは背筋がピンと伸びていないと様になりませんから、体の鍛錬はある程度は必要でしょう。
それからヨレヨレの服はいけません。若いうちは中身がピカピカだからいいんですが、私たちは中身がヨレヨレですから(笑)。ファストファッションも否定はしませんが、どこかに一つ“いいもの”を身につけるといいと思いますよ。
それから「聞く耳を持たない」というのは困りもの。
歳を取ると体も社会での役割も変わっているのに、なかなか自分からは服を変えられません。それまでと違う自分を見つけたいのなら、思い切ってプロに任せてみるのもいいと思います。
ただ、人って歳を重ねると「はい」って言えなくなってくるんですよね。すぐに、「でも」とか、「だって」とか口にしがち。だから私も人からの注意は耳を傾けるよう心がけています。特に60歳以降はね。
どんな服を着たらいいかわかなくなったら、とにかく「自分の好きな服」を着てください。もう誰に遠慮することもないし、周りの目を気にすることもありません。大人世代は、これまでの人生に自信を持って、堂々と好きな服を着れば良いのです。私の経験から言って、好きな服に似合わない服はありません!
新しい装いに最初は少し違和感があっても、とりあえず3回着てみてください。結構「似合うかも」と思えるものです。そうそう、新しい服やコーディネートを試したら、スマホで自撮りするといいですよ。別にSNSに上げなくてもいいんです。自分を客観視することに意味があります。
残間
私はビジネスシーンでは基本的にはスーツを着ます。ところが最近の若い経営者は会議でもラフというか、Tシャツやポロシャツだったりするんですね。何か自分だけが浮いているような気がして来ます。そんなこともあって、そろそろスーツなんか着る必要ないんじゃないかとも思ってしまいます。ますます何を着ていいかわからない。
西
残間さんならTシャツにパンツでも大丈夫ですよ。積み重ねたキャリア、人生があれば、シンプルな装いでも颯爽としていてかっこいい。
悩んだら、流行を適当に取り入れると自信が戻りますよ。ファッションで時代の風を取り入れるんです。それからさっきも言いましたが、カジュアルな装いであっても一点いいもの、高いもの、ハイブランドのものを混ぜてみるのも一つの手段。
パリやニューヨークの街に行くと、お洒落な年配女性をよく見かけます。あれはいい靴や鞄を身につけていて、それに引きずられるようにコーディネートしているからだと思います。あとはクローゼットを思い切って空にしてみてはどうでしょうか。リセットして自分の中のドレスコードを崩してみる。
悩んだら、流行を適当に取り入れると自信が戻りますよ。ファッションで時代の風を取り入れるんです。それからさっきも言いましたが、カジュアルな装いであっても一点いいもの、高いもの、ハイブランドのものを混ぜてみるのも一つの手段。
パリやニューヨークの街に行くと、お洒落な年配女性をよく見かけます。あれはいい靴や鞄を身につけていて、それに引きずられるようにコーディネートしているからだと思います。あとはクローゼットを思い切って空にしてみてはどうでしょうか。リセットして自分の中のドレスコードを崩してみる。
残間
なるほど、クローゼットを空にするですか………。ただ、本当に着るものがなくなりそうで怖いですけどね。
(続く)
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