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那須高原に“田川ワールド”が誕生! 1/3

田川啓二さんインタビュー
オートクチュールのビーズ刺繍デザイナーとして、独自な境地を切り開いてきた田川啓二さん。アーティスト活動だけでなく、大学やスクールでは後進を指導し、ビーズ刺繍の普及にも余念がありません。さらに近年は黒柳徹子さんのマネジメントを担当するなど、意外な領域でその才能を開花させています。そんな田川啓二さんの個人美術館が、まもなく那須高原に開館するとのこと。私もとても楽しみです!(残間/2023年4月取材)
(聞き手/残間里江子 撮影/岡戸雅樹 構成/髙橋和昭)


前篇 個人美術館はアーティストとしての集大成



閉鎖美術館を再生することの意味

残間
田川さん念願の個人美術館『田川啓二美術館』が、いよいよこのGWにもオープンするんですね。場所は那須高原とのことですが。

田川
那須の御用邸に続くロイヤルロードという道があるんですけれど、その道沿いです。『ステンドグラス美術館』という那須高原で一番大きくて有名な美術館がありまして、そのすぐ隣です。那須塩原駅から車で30分くらいですね。

残間
個人美術館を作ろうという何かきっかけはあったんでしょうか。

田川
これまでは僕の展覧会をいろんな百貨店でやっていただきました。展覧会の度に新しい作品を作って、オートクチュール・ビーズ刺繍の素晴らしさを大勢の人に知っていただこうと活動していたのですが、百貨店がそういう展覧会をやらない方針になってしまったんです。それで普通の美術館で僕の作品をコンスタントに展示してもらうのは、なかなか難しい。
そうなると作品を作っても見せる場所がないので、一時は作品を作るペースを抑えていた時期があったんです。ただ、作った作品も売ったりはしないでおきました。最終的には自分の美術館を作りたいという思いがあったからです。それで今、やっと美術館を作れる状況になったというわけです。

実は刺繍に特化した美術館というのはヨーロッパにはあるんですけど、日本にはないんです。だからそういうものに興味がある人がいても、それを直接間近で見るとか、習うとか、写真を撮るということができる場所が少ない。
刺繍の面白さや凄さを知った人が学んで、さらにすごいものを作っていく。そんな場所をどうしても作りたかった。それで那須高原に自分がどうにかできそうな物件が出てきたんで、買い取って改築することにしました。

残間
その物件はどこが気に入ったんですか。

田川
一から建てるのは資金的に無理なので、美術館の中古物件を探していたんですが、なかなかないんですよね。人が作った美術館で自分が気に入るようなものって、出てこないんですよ。

残間
そりゃそうですよね。それぞれが自分の思いで作っていますから。
田川
そう、どこか嫌なところが絶対あって、全部作り直さなきゃダメってなるんですけれど、そこは一回見て、ちょっといいかもと思いました。それで中を見せてもらっても、嫌いなところはないなと。たぶんその美術館を作った人と僕の美意識が近かったんだと思います。

残間
そこは何の美術館だったんですか。

田川
アンティークジュエリーのコレクターの方が建てた美術館でした。閉館して16年ぐらい放置されてたみたいなんですけど、中がまったく黴びてないんですよ。つまり湿度が低い。

残間
刺繍の展示には適していますね。

田川
ええ、美術館として成立する建物だなあと。

バブルの時には、盛んに箱物として観光地などに美術館が建てられました。個人のものや企業のものなど、いっぱいありましたよね。それが今、かなりの数が閉館して、建物だけが残っている状態になっているんです。観光地にそういうものがあると寂れたイメージがするし、活気がないように見えますよね。それがすごく良くないって思ってたんです。

だから閉館した美術館を利用できる機会があるなら、それを再生・復活させていくべきじゃないかと。資金がなかったというのもありますが、新しいものを建てるよりも、そっちの方が重要な気がしてきたんです。

個人美術館だからこそできることがある
残間
やはり那須の美術館はご自分の仕事の集大成ですか?

田川
ええ。ただし作品全部を一度には展示できないので、季節や月替わりで展示を変えていくつもりです。夏休みには子供向けに(不思議な国の)『アリスの世界』をやってみるとか。

僕がこれまで購入したり継承したコレクョンも展示しようと思っています。アンティーク工芸品や着物などですね。自分の作品でなくても、同じ人間のコレクションですから、全体のテイストとしてマッチして、観る方も楽しいと思うんです。百貨店の展示会では、それはできなかったのですが、自分の美術館ならやれるんです。
それから僕の作品をもう一度見たいという方も多くいらっしゃいます。それで、常設の展示会場を作って欲しいという要望にも応えたかったのです。

残間
百貨店だと会期がありますからね。

田川さんの作品と田川さんが愛する美術品たち。まさに「田川啓二の世界」ですね。ビーズ刺繍に限らず、田川さんの好きなことが何でもやれそう。私も行くのが楽しみです。

田川
ぜひいらしてください。カフェも併設していますので、こちらもお楽しみいただきたいですね。

残間
カフェといえば、昔、田川さんがハワイで経営していたカフェ(『チリア・アロハ・カフェ』)は素晴らしかったですね。アサイーボウルはハワイ随一と評判だったのを覚えています。

田川
スタッフの確保が難しくなってやむなく閉店したんですが、あの時のノウハウや経験を存分に生かしたいと思っています。


(続く)




<田川さんのビーズ刺繍作品>








>田川啓二美術館公式ウェブサイト
>田川啓二オフィシャルサイト




前篇 個人美術館はアーティストとしての集大成

中篇 学芸員資格取得で知った学びの楽しさ

後篇 “黒柳徹子の魅力”をもっと発信したい


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