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“高貴光齢”で行きましょう! 1/3

202154
東京藝術大学在学中からテレビやラジオなど、メディアの世界で作曲や演奏活動を開始し、さらに司会やエッセイなどでも幅広い活躍をしてきた森ミドリさん。近年は即興演奏によるCDを発表するなど、プレーヤーとして作曲家として、今も創作への意欲はつきません。その旺盛なエネルギーをもらおうとお話を伺いました。(残間/2021年10月取材)
(聞き手/残間里江子 撮影/岡戸雅樹 構成/髙橋和昭)


Part1 即興演奏に惹かれるのは………



何が飛び出すかは、演奏するまでわからない

残間
森さんは最近、意欲的にピアノやチェレスタで即興演奏のCDを出されています。でも、そもそも即興演奏ってどんなものなんでしょう。作曲と演奏が同時に行われるもの、とは頭ではわかっているのですが。

即興演奏というのは「ひとりごと」のようなものですね。日常的というか、ふとこぼれ落ちるようなものなので、あらかじめスケジュールを立てられません。ですから「明日、2時からスタジオ空いてますけど、録音しますか」と突然言われて、その時の気分で「うーん…じゃあ、いきましょう!」という流れですね。

残間
「何月何日の午後2時からスタジオを押さえましたので、ご準備よろしくお願いします」というんじゃないんですね。録音まで何も考えない?

考えません。考えたらつまらない。むしろ無になることが大事でしょうか。私は何も持たずに準備せずにスタジオに入ります。その時の自分から一体何が出てくるのか、演奏を始めないと私自身もわからない。未知なる自分に出会う! そこが即興演の面白さというか醍醐味でしょうか。

それに“自分”といっても、その時その時で微妙に変化する自分ですから、当然違う演奏が出てきます。ですから後で演奏を聴き直すと、「ああ、この時はこんな事を考えていたのか」と思い知るわけです。そして二度と聴きません。照れますしね。

何せ“大きなひとりごと”ですから、人によっては何をブツブツ言ってるんだと思われるかもしれませんし、賛否両論は当然のこと。私も来年二月四日で後期高齢者になりますし、“遺している”感もありますね。最近は香典返しの先渡しだと思って、より真摯にピアノに向かっています。
そういえば後期高齢って悲しい響きで、寂しい漢字ですよね。私はなんとかして「高貴光齢」に替えて欲しいんですけど(笑)

残間
(笑)確かに後期とか前期とか、人が決めるものではありませんよね。

…でしょう? そうそう、即興演奏の録音の時は、人に見られていると弾けません。「無」になれないんです。鶴の恩返しじゃないですけど、羽を抜きながら自分をそのままさらけ出すものですから、気恥ずかしいですしね。「では30秒後に録音を開始します」と言われたあとは「一人」にしていただきます。照明もかなり暗くして。
即興演奏はいつでも一発勝負

残間
CD1枚に一曲だけですが、1時間近くあります。あれは休憩とか挟んでないんですか? それとも一気に演奏してるんでしょうか。

一気に弾いています。部分ごとに録って、つなぎ合わせたりはしていません。体内時計っていうのかしら? 本当はCDの収録可能時間いっぱいまで弾きたいんですけど、だいたい50分ほど過ぎたあたりで目が覚めますね。

残間
向こう側の世界から戻って来るわけですね。我に返るというか。では演奏中に何を考えていたかは、自分でもわからないのでしょうか。

…そうですね。あまり考えているという感覚がないような気がします。

残間
今回の取材の前に、森さんの即興演奏のアルバム『宇宙逍遥(うちゅうしょうよう)』と『雨過天青(うかてんせい)』を改めて聞きましたが、現代音楽のようなというか、不思議な世界ですよね。ウィルビーのメンバーにも一度聞いて欲しいです。あのアルバムはどうやってできたものなんですか?

『宇宙逍遥』の時は、とにかく自分が宇宙に行く、という前提だけはありました。宇宙空間に身を置いた自分がいったい何を見、何を感じるのか。本当にそこにいる感覚があるんですよ。

後から聞き直してあらっ? と思ったところがあります。何かの衝突のイメージを表現しようとしたんですが、バーンと衝撃音を出して、その残響がまだ残っているうちに次の音を出してしまいました。どうして待てなかったんだろうとかなり後悔しましたね。あの時は“無”に耐える力がなかったのでしょう。

残間
でも、それもまたその時の“自分”なんですよね。
『宇宙逍遥』も『雨過天青』も、先にタイトルはあったんですか? 言葉のイメージから発想して音を紡いでいったとか。つまり先ほど何も考えずに録音に臨むと仰っていましたが、即興演奏するにも何か牽引してくれる存在が必要な気がして。

宇宙に自分の身を置いたら何を感じるのか、というフワッとしたイメージはありましたが、後は演奏を始めてみないと、どう転ぶかはわかりません。タイトルは録音前は朧(おぼろ)げに…録音後、内容にこだわって決定します。
『雨過天青』もそうです。雨が降って、最後には晴れ渡る流れに身を任せて、自分から何が湧き出てくるのか。タイトルは後からいろいろと四字熟語を並べて、その中から心躍らせつつ選んでいます。それも、とっておきの時間ですね。

残間
いずれにしても、我々素人には想像もつかない世界ですね。これから自分が何を弾くかわからずにスタジオに入り、何かを残してスタジオを後にしないといけないなんて、怖すぎます。




(Part2に続く)


森ミドリさんのオフィシャルウェブサイト(作品やコンサート情報)



Part1 即興演奏に惹かれるのは………

Part2 実は高校生からやり直したい

Part3 なぜか料理をしない女と思われる


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