ホーム>willbe Interview>歳を取るのもむずかしい 1/2
歳を取るのもむずかしい 1/2

荻野アンナさんの最新刊は『老婦人マリアンヌ鈴木の部屋』。90歳のマリアンヌの部屋を訪れる、さまざまな人たちの人間模様を描いています。介護、加齢などをキーワードに、ユーモア溢れる展開に笑いつつも、ふと考えさせる。そんな一冊でした。登場人物たちが抱える悩みは、私たちの悩みでもあるのです。その最たるものが、どう歳を取るか?(残間/2021年2月取材)
(聞き手/残間里江子 撮影/岡戸雅樹 構成/髙橋和昭)
(前篇) みんな“老い方”がわからない
カッコいい90歳のおばあちゃんを書きたかった
残間
荻野
ありがとうございます。ここ最近、父や母のこととか私の闘病など、私小説的なものが続いたんですけど、今回は介護を絡めつつ、いろんな架空の人物を動かしてみたくなりました。特に、90歳のカッコいいおばあちゃんを書いてみたかったんです。
残間
いちおう50代のヘルパー、モエという女性の視点を中心に描かれてはいますが、90代のマリアンヌまで、様々な年代の女性が登場して、それぞれに悩みを抱えています。そして男性はダメンズばかりと。やはりマリアンヌは、91歳で亡くなった荻野さんのお母さんのイメージでしょうか。
荻野
そうですね。そして私はマリアンヌの娘のエリであり、モエであり、そしてモエの姪のクリコでもあります。お酒の好きな人はお気づきでしょうが、モエシャンドンとヴーヴクリコ。どちらもシャンパンの銘柄からいただきました。
残間
(笑)なるほど。それから出てくる男性が、ほぼ全員ダメ男ですが。

荻野
それは自分のダメンズ歴ゆえです。ダメンズを書くと筆が冴えます!
残間
先ほど「いろいろ考えさせる」と言いましたが、各年代が“どう老いる”かについて、それぞれの形で悩んでいるようにも思えます。
荻野
そうですね。みんなどう老いていいのか、わからないんだと思います。私は今64歳ですけれど、老いには抗いたいと思いつつ、もうそろそろ日暮れかな、とも思いますし。
身体は利かなくなる。あちこち経年劣化が見えて来る。そして単語が出てこない。そんなことが少しずつ続いて、あるとき気がつくと、傍に悩みの小山ができている。これをどうやって明るく語れるのか。
身体は利かなくなる。あちこち経年劣化が見えて来る。そして単語が出てこない。そんなことが少しずつ続いて、あるとき気がつくと、傍に悩みの小山ができている。これをどうやって明るく語れるのか。
残間
言葉が出ないのはつらいですね。私も最近は会話の際に、その時の状況を的確に表せる二字熟語が出て来ないなんてことがあります。それで後になって思い出す。小さいことですけどショックです。そんな自分と折り合いをつけないといけないんですが。
それから老いるのを難しくしているのは、ロールモデルがいないことですよね。どんなに素敵な人でも、時間とともに表舞台から姿を消してしまうことも多いですし。吉永小百合さんは70歳を過ぎて今もお美しいですが、あの方は特別でしょうし。一般人にはとてもマネができません。
それから老いるのを難しくしているのは、ロールモデルがいないことですよね。どんなに素敵な人でも、時間とともに表舞台から姿を消してしまうことも多いですし。吉永小百合さんは70歳を過ぎて今もお美しいですが、あの方は特別でしょうし。一般人にはとてもマネができません。
性的な関心が薄れた時、どんな代替物に行き当たるか
荻野
それから歳を取ると、女としてときめかなくなる。これが悲しい………
残間
そういえばこの本の登場人物の中には、ただ枯れるわけではなく、別の方面にのめり込んでいく人たちがいますね。特にモエの宝石や石への傾倒。石の描写や蘊蓄がとても細かくて、これは荻野さん自身の嗜好が反映されているんでしょうか。今日も素敵なオパールの指輪をされていますが。
荻野
以前ほど性的にときめかなくなったぶん、作品中に代わりになるものを込めたくなりました。それが宝石だったんです。人によっては韓流だったり、ジャニーズだったりするんでしょうね。
宝石に関しては、小さい頃からキラキラするものは好きだったんですが、のめり込んだのは三年ぐらい前からです。ネットオークションに参加したり、宝石業者向けの見本市にもぐりこんだり。宝石クラスからアクセサリー品質まで、石は奥が深いですよ。
今つけているオパールの指輪も、3つのうち大きいのはちゃんとした石でしょうが、ちいさい2つはオパールを薄く削ったものを土台に貼り付けて、それをガラスやプラスチックで覆った「トリプレット」かもしれません。そういうところが逆に面白くなりました。
宝石に関しては、小さい頃からキラキラするものは好きだったんですが、のめり込んだのは三年ぐらい前からです。ネットオークションに参加したり、宝石業者向けの見本市にもぐりこんだり。宝石クラスからアクセサリー品質まで、石は奥が深いですよ。
今つけているオパールの指輪も、3つのうち大きいのはちゃんとした石でしょうが、ちいさい2つはオパールを薄く削ったものを土台に貼り付けて、それをガラスやプラスチックで覆った「トリプレット」かもしれません。そういうところが逆に面白くなりました。
残間
作品で印象的だったのが、モエがネットオークションで、高額なので最初から落とす気はないのに入札をしますよね。それは束の間でも愛しい宝石の上に、「あなたが現在の最高額入札者です」の表示を出したいがためという! それでうっかり落札してしまったり。そのあたりも実体験でしょうか。
荻野
そうなんです。心躍りますよ! でも今はネットよりも現物派です。
残間
性的にときめかなくなったとおっしゃいますが、今、ボーイフレンドと呼べる方はいらっしゃるんですか。
荻野
いるような、いないような………。あと2年で大学の教授職が定年になるんですが、その後は全国の温泉を巡りながら、温泉場、温泉場に茶飲みジイさんがいて、というのが理想ですかね。
残間
(笑)港、港にじゃなくて。でも、気のおけない異性というのはいいかもしれませんね。
確かに上手に老いるのは難しいですが、作品中のマリアンヌは素敵です。90歳ゆえか突き抜けている。そんな彼女の部屋に、自然と人が集まってくる。ある意味、理想の老い方かもしれません。
まあ、突き抜けるまでが大変なのでしょうけどね。私は去年古希を迎えましたけど、70歳ぐらいじゃ、まだ突き抜けられませんね。
確かに上手に老いるのは難しいですが、作品中のマリアンヌは素敵です。90歳ゆえか突き抜けている。そんな彼女の部屋に、自然と人が集まってくる。ある意味、理想の老い方かもしれません。
まあ、突き抜けるまでが大変なのでしょうけどね。私は去年古希を迎えましたけど、70歳ぐらいじゃ、まだ突き抜けられませんね。
荻野
そこが昔と違って難しいところですよね。昔は70歳ぐらいで、結構突き抜けていた気がします。
それに多分、私たちの世代は100歳近くまで生きることになる。でも、いつどうなるかわからない。どうなるかわからないのは、大腸癌になって実感しました。これがますます“老い”を難しくしています。
それに多分、私たちの世代は100歳近くまで生きることになる。でも、いつどうなるかわからない。どうなるかわからないのは、大腸癌になって実感しました。これがますます“老い”を難しくしています。

(後篇に続く)
(前篇) みんな“老い方”がわからない
↓
(後篇) 絵を通じて亡き母と語り合う