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目指すのは、シニアの第三の息子。 1/2

willbeメンバーの皆さんは『趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)』という、大人世代のSNSをご存知ですか。同じ趣味の仲間との出会いやコミュニティづくりを、主にIT面から支援しています。実はこのサービスを運営してる(株)オースタンスの代表は、まだ33歳の青年・菊川諒人さん。「好き」というキーワードにこだわって生きてきた彼が、なぜ大人世代のマーケットに行き着いたのか。じっくりお話を伺ってきました。(残間/2021年3月取材)
(聞き手/残間里江子 撮影/岡戸雅樹 構成/髙橋和昭)


(前篇)自分の“好き”をやり抜くのはカッコ良い




東京・新宿にある株式会社オースタンスにお伺いしました。 つい先頃リニューアルしたばかりのロゴマークの前で。





会員のコミュニティ運営にはノータッチ

残間
菊川さんの会社(株式会社オースタンス)が運営している、『趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)』のサイトを拝見しました。実にさまざまなコミュニティがありますね。趣味性の強いものから、とにかく一緒にワイワイやりましょうというものまで。
検索欄にキーワードを入れると関連するコミュニティが出てきます。ここから自分のテイストに合いそうなものを見つけて、コンタクトを取っていくわけですね。同じ「カメラ」「音楽」「テニス」「旅」でも、ジャンルや切り口はいろいろですものね。

菊川
そうですね。自分の居場所を見つけて、交流を楽しんでもらいたいです。今はコロナで難しいですが、ネット上だけでなくコミュニティ主催のイベントに参加して、実際にリアルに交流することもできます。

残間
どんなコミュニティが人気なのでしょう。現在、34万人の会員登録があるそうですが。

菊川
旅行系が多いですね。知り合って、一緒に"お出かけ"するものが人気です。「みんなでピースボートに乗ろう」とか。あとはカラオケ、ハイキングなど。大きなコミュニティで8千人から1万人います。

残間
数々のコミュニティを主催している人も、そこに参加する人も会員のみなさんのようですが、菊川さんたち運営側は場を提供するだけなのですか? 直接コミュニティを持ったり、イベントを主催したりはしないのですか?
菊川
基本的には場所を提供するだけです。役割としてはスムーズに仲間と出会えるような環境づくりですね。特定の色をつけようとも思ってません。僕たちは会員の活動をフォローする事務局という立場です。

会員の一人が"管理人"を買って出て「この指とまれ」と手を挙げて、そこに他の会員がフォロワーとなって集まる。会員が自由にコミュニティを作って、イベントをやっています。メールなどで、あなたに合いそうな、こういうコミュニティがありますよとか、自分の居場所が見つかるようにご紹介はしますが、基本的にノータッチです。
それに私たちが一つのコミュニティを作ってコンテンツを提供していくのは、コストがかかる割には費用対効果が望めません。それよりも会員のコミュニティ活動に役立つ機能を提供することの方が、より効果的だと考えています。

事務局主催のイベントについては適宜やろうと思っていたんですが、コロナになってしまいましたからね。それでもオンライン・カラオケなどを開催してますし、これから積極的に取り組もうと思っています。

残間
そこが私が主宰している「club willbe」との大きな差ですね。私のクラブは基本的に事務局主導なので、その意味では代表の私の指向性がどうしても強くなりがちですから、コミュニティの広がりにも自ずと限界があるかもしれません。でも、最近はメンバーのみなさんが自主的に句会やボーリング大会などを開催してくれるようにもなってきて、嬉しく感じています。
しかし菊川さんたちが完全にノータッチだと、中にはちょっと困ったコミュニティや会員も出てくるのではないですか。たとえばマルチ商法など、物やサービスを売りつけようとか。

菊川
それは全くないわけではありません。ですから通報を受け付ける機能をつけています。その場合は事情を確認したり、調整が必要になりますね。
それからコミュニティを活性化するためにも、データの分析を徹底してやっています。どういう経路で趣味人倶楽部のサイトにたどり着いたのか。なぜ入会しないのか。なぜ退会したのか。


【趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)】
株式会社オースタンスが運営する、国内最大級のシニア向けコミュニテイサービス。35万人の会員を擁し、オフィシャルサイトは月間3千万PVを記録しています。旅行・カメラ・ゴルフ・カラオケ・社交ダンスなど、趣味をきっかけにオンライン・コミュニティに参加できるほか、オフ会などのリアルイベントで交流するチャンスもありますが、現在はコロナの影響もあり、オンラインイベントでの交流が盛んとのこと。



シニアダンサーの潔い生き方に感銘を受ける

残間
若い菊川さんが「趣味人倶楽部」を運営していることは知っていましたし、多くの会員を集めているのも知っていました。私は私と同世代の人たちを軸に「club willbe」を始めましたが、菊川さんは私の息子と同世代。積極的にITを駆使していますし、大手広告代理店がリサーチにも活用するなどビジネスとしても発展していますよね。陰ながら凄いなぁと思っていました。
で、どんな方なのか、この目で見て、お話を伺いたいと思って今回の対談をお願いしました。菊川さんは大学を出てリクルートに入社して、その5年後に起業していますが、最初はエンターテインメントのビジネスだったそうですね。

菊川
ええ、エンターテインメントの会社をやりたかったんです。アーティストのマネジメントやイベント制作、ウェディング事業などでした。

残間
それがなぜシニアマーケットの世界に興味を持ったのですか?

菊川
きっかけは2016年にシニアダンサーを起用した動画を作ったことですね。当時、平均年齢59歳だった女性三人組のダンスチームが、ブルーノ・マーズのヒップホップ音楽に合わせて踊るんです。これが世界で数億回も再生されまして、ブルーノ・マーズ本人にもシェアされました。
その時に動画についたコメントで気づいたんですが、日本人の反応はだいたい「やべえ」とか「すげえ」とか驚き系だったんですけど、海外の反応は「クール!」だったんです。

残間
カッコいいと。

菊川
僕らも最初は、ダンスと年齢とのギャップを売りにして作ってたんですけど、言われてみれば、確かに純粋にカッコいいんです。

僕の友達を、そのシニアダンサーの公演に誘ったことがあります。最初は「年齢の行った人たちの踊りを見させられるのか」という期待値で来てたんですが、見始めたら何人か泣いてるんですよ。
やっぱり年齢に関係なく自分が好きなことを真っ直ぐやってる姿って、心を打つものがあるんですね。観終わった後で友達の一人が、「俺もちょっと、マジで頑張らないといけないな」と言ってました。

残間
そのダンサーの方々は、すごく有名とかいうんじゃないんですよね? ただ自分のお好きなことをひたむきにやっているという方々で。

菊川
そうです。動画が話題になってテレビで取り上げられ、彼女たちはたくさんインタビューを受けたんですが、その一つひとつの言葉に重みがあるし、側で聞いていて勉強になる。

歳を取るのって全然怖くないし、年齢に関係なく真っ直ぐ自分の好きなことをやるのってカッコいいなと。こういう人たちが増えたらいいなって思いました。そこからですね。シニアというか、自分の親世代の"好き"を応援するビジネスに関わろうと思うようになったのは。

その頃、母親が60歳になって父親が65歳になったんですけど、これから10年、15年、まだ車椅子とかにはならないと思うので、そこを楽しめる何かをつくりたいとも思いました。
それにこれって、行く行くは自分の問題でもあるんですよね。僕も幾つになっても、好きなことをやっていたいですから。

DeNAの南場智子氏に送ったメールに、即返信が来た


残間
幾つになっても、自分の好きなことをやり続ける素晴らしさ。その想いが『趣味人倶楽部』を運営することにつながったのでしょうけど、『趣味人倶楽部』はもともとDeNAがやっていたビジネスですよね。それを2019年に事業譲渡という形で引き継いでいますが、どんな経緯だったんでしょう。

菊川
大企業とベンチャーの社長を取り上げたテレビ番組に出たことがありまして、その時に一緒に出ていたDeNAの南場智子代表と、たまたま名刺交換するチャンスがあったんです。その場で1分くらい話しました。そこからですね。あれがなかったら趣味人倶楽部はやってなかったと思います。

それで、その日の夜に自分たちがやっている事業とか、親世代のサービスをこんな風に作ってるんだという長文のメールを南場さんに送ったら、1分で返事が来ました。
初めてお会いした方にはよくお礼のメールを送るんですが、南場さんはすぐに個として向き合ってくれたんです。それで翌月会うことになりました。

当時DeNAは、広がっていた事業領域をいったん整理しようとしていた時期だったようで、とんとんと話が進みまして、運良く事業譲渡ということになりました。

残間
私も南場さんの講演を聞いたことがありますが、ビジネス感覚も人間性も素晴らしいとお見受けしました。その南場さんが「この人なら」と直感したのでしょうね。

そういえば、私も大きなイベントを主催する時は、見ず知らずのエライ方に、よく手紙を書きました。肉筆で100通とか。それでも中には返事をくれる人がいるんですよね。

私がまだプロデューサーとして駆け出しの頃、「働く女性」をテーマに各界からパネリスト105人に集まっていただいて、10日間連続のトークイベントをやったことがあります。これからの時代、働く女性が社会の表舞台にどんどん出てくるぞと。
それで協賛スポンサーを募るにあたって、会社四季報を買ってきて、女性で儲けていそうな会社の(笑)社長に片っぱしから手紙を書いたんです。一度も会ったこともない相手に。そうしたらセゾングループの堤清二さんとソニーの盛田昭夫さんがすぐに電話をくれました。

菊川
すごいですね。本人からですか?

残間
ええ、直接かかってきました。自分で手紙を書いておいてなんですが、世の中にはこういう人っているんだなと驚きました。ですからみんなに言ってるんです。何事もダメで元々だと思って、自分の意見を表明してみなさいと。
当時、私は30歳ちょっと過ぎくらいで、まだ何者でもありませんでした、でもいくらエライ人でも、同じ時代に同じ国に一緒に生きているのですから、やってみるものです。世の中捨てたもんじゃありません。

菊川
本当にその通りだと思います。




(後篇に続く)





(前篇) 自分の“好き”をやり抜くのはカッコ良い

(後篇) ロマンとソロバンは両立する


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