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“美味しさ”に込められたメッセージ 3/4 

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vol.3 『土のスープ』にこめられたメッセージ


残間
2009年に『世界のベストレストラン50』にランクインしましたよね。私はその頃から、成澤さんにお近づきになりました。

やはり衝撃的だったのは『土のスープ』(土がついたままの自然のごぼうのみで作られたシンプルなスープ)ですよね。成澤さんが大事にしている、まさにオリジナルなものの追求。逆に追求しすぎじゃないかと、素人の私は心配になったくらいですが、あれで世界で認められました。
それから『水のサラダ』もありましたね。(きれいな湧き水を減圧することで素早く沸騰させ、さらにゲル化して固めたもの)

成澤
そうですね。世界への扉を開いたきっかけになりましたが、両方とも小田原の時代から作っていました。

残間
『土のスープ』の土は、ただの土ではないですよね。

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成澤
信州のある野菜生産者と出会ったのがきっかけでした。その方は標高千メートル近いところで野菜を作っていたのですが、まず彼が作る野菜にショックを受けました。それまで見た野菜とはまるで違っていたんです。すごい味、そして香り。それでおつきあいが始まりました。

中国料理の時もそうですけど、僕は気になるとすぐのめり込んじゃうんです。毎週のように信州の畑に会いに行きました。さっきも言いましたが、やはり異業種の人の話というのはすごく新鮮で、僕の身体に入ってくるのです。土作りのことだったり環境のことだったり。

それで冬に畑に行ったら野菜が何にもなくて、土しかない時があったのです。そこで思ったのは、ああ、この人は野菜を育てる前に土を育てているのだなあと。つまり安全な野菜、食というのを表現するのに、土を食べるというのが、一番ストレートだと思ったのです。
要は「この土を舐められるか?」と言われた時に、舐められるぐらい安全な土。例えば減農薬の野菜って平気で食べますけど、減農薬の土は食べたくないですよね?

残間
減ってはいても農薬が入ってますからね。

成澤
でもその方の畑は、知る限り何十年も農薬は撒いていない。化学肥料も使っていない。そういう土じゃないと安心できませんよね。だから食の安全というメッセージとしては、一番象徴的だなと。それで『土のスープ』を作ったんです。

料理を科学と捉えると、違うものが見えてくる


残間
それから私が面白いと思ったのは、成澤さんは料理に遠心分離機を使ったり、ある意味、サイエンスを持ち込んでいましたよね。そこが斬新でいいなと。ただの職人気質じゃないですよね。

成澤
料理人はまずは職人気質でやるのですが、結局、料理というのは科学なんです。数字で割り切れるし、構造もきちんと解き明かされるものです。
例えば、肉に火を通すとはどういうことか? 要は動物のタンパク質に熱を加えて収縮させること。そして凝固させる。それが火を通すということなのです。
そういう風に考えていかないと、人に説明できないですよね。『土のスープ』も学会とかで発表しようとすると、「何となくこうです」では通用しないじゃないですか。

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残間
確かに。日本人って「何となく」という面が多々あります。わざわざ説明しなくてもわかるでしょ? みたいな。

成澤
それで言葉で説明しようとすると、自分でも深い理解が必要になります。そこに意味がありますね。
ただし科学から入った料理って、美味しくないのです。やっぱり感覚からこうなったら美味しいはずとなって、それで裏付けを取ったら、なるほど理にかなっているということが多いのです。

僕がこういう考えを強めたのは、やはり『世界のベストレストラン50』に入っているシェフたちが、すごくサイエンスを大事にしていたからです。
彼らは料理を作るのと、科学的な分析をするのが同時進行なのです。僕はそこにショックを受けました。しかも科学を応用することによって、『水のサラダ』のような非日常的な料理の表現というのも出てきます。
人に伝えるためにも科学的な裏付けは必要だし、新しい発見をするためにも科学的な視点は必要だと思いますね。

実は『土のスープ』を発表した時にフランス人の科学者が飛んで来て、「君はどこまでこれを研究したんだ」って聞いたのです。何のことだと思いました。僕はシンプルに「土を食べてみれば」っていうメッセージでしたから。

でもよくよく考えてみると、完全無農薬の土の中には微生物がいっぱい生きているのですよね。もしかしたら昆虫のサナギみたいなものも入っているかもしれません。結局、土を料理するということは、そういう有機物をちゃんと料理してるから旨味がある。
そのフランス人の科学者は何が言いたかったかというと、今フランスでは昆虫だとか微生物由来のサプリメントや薬をすごく研究しているから、僕がそこまで考えてやってると思ったらしいのです。

残間
フランスの科学者が日本の料理人のところに飛んで来るというのも、面白いですよね。

成澤
世界を見渡すと、科学者たちと料理人がしっかりとコラボしています。どうしてかというと科学者の中に美食家というのがいて、これがヨーロッパの伝統なんですね。料理人には医者や弁護士と同じ位を与えられていてプライドもあるし、食べることに対する一般の人の価値観も高いのです。だから一緒に話ができる。
でも日本は料理人といっても水商売だし、国としても料理の世界を文化としてあまり認めていません。

要は日本ってタテ割りじゃないですか。大学の先生は植物学や生物学をやっていて、片や衛生関係の先生は衛生学とか。全部タテでヨコに繋がらないから、科学と料理とか、科学と美味しさとかがつながってこない。お酒と伝統工芸は管轄するお役所が全く違うし。そこはもったいないですね。

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日本独自の食の知恵を、世界に発信したい


成澤
それからここ10年特にそうですけど、自然環境の悪化というのが著しいです。日本各地の生産者のところに行くとわかります。特に海と森に影響が出ていて、本当に今、魚が獲れません。もっと言うと、今、僕がテーマにしている“森”に行き当たります。
結局、森が元気じゃないから、その養分も海に行かない。特に太平洋側がひどいです。相模湾も駿河湾も伊勢湾も、全然魚が獲れなくなっている。10年前の10分の1ぐらいのレベルで減っている。
そういう状況を見て、森というのをテーマにしないと、と思ったのが8年前です。

残間
“里山”という概念ですよね。

成澤
そうです。今や国際的な概念になっていますけど、里山は人と自然が触れ合う場所であり、共存する場所ですよね。そこで始まる生活様式であったり知恵というのが、日本特有の文化です。
やはり日本というのは、自然(しぜん)じゃなくて、“じねん”。人間も自然の一部という考えなのです。

残間
西洋だと自然は、人間が征服する存在であるという考えがこれまで基本だったのですよね。

成澤
ええ。日本は人間も自然の一部という考えの元に、お米ひとつ取っても籾殻から藁から何から全て使い切る。そういう考えって、他のアジアでもないのですよね。お米が主食の国でも。
日本ぐらいですよ。藁を壁に塗り込んだり、藁を焼いてそれを殺虫剤にしてみたり。とにかく日本人の知恵というのは、特有の自然の中で生まれているんですね。冬が厳しいところでは発酵のものも生まれるし。
本当にお米と大豆だけで、これだけ多種多様な食べ方ができることはすごいことです。しかも身体にも理にかなっている。

今、僕がやろうとしていることは、日本しか持っていない世界に通じる、そして地球のためになる知恵を、料理でわかりやすく表現して、世界中の人に食べてもらうことです。

残間
成澤さんの店も、今すごく外国のお客さんが多いのですってね。そのお客さんも、そういう成澤さんの思いに共感しているのじゃないですか。

成澤
ありがたいことに、うちの店の予約が取れてから日本への飛行機のチケットやホテルを取るというお客さまがいらっしゃいますね。台湾や韓国の方は日帰りで帰る方も多いです。

残間
『NARISAWA』で食べるためにだけ日本に来るのですね。

成澤
さらにニューヨークからもスペインからもイタリアからも南米からも、毎年来るリピーターのお客様がいらっしゃいます。ここに来るために日本に来るんだよとか言ってくれます。それが一番、嬉しいことですね。

残間
最近は日本酒が外国の方に人気ですが、成澤さんの料理と日本酒を合わせる方も多いんですか。

成澤
そうですね。というのも、8年ぐらい前から私が出す料理自体がフランス料理ではなくなっていて、今はフランス料理の技術は1割ぐらいしか使わないです。ベースは昆布や鰹ですし、5割ぐらいは日本料理の技術。それから中国料理が2割ぐらい。残りがスペインだったり南米だったり、世界中のものです。

残間
つまり、“成澤さんの料理”というわけですね。



(つづく)

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vol.1 異文化に魅せられてアジア、アメリカ、欧州へ

vol.2 最初はカセットコンロで始めました
  ↓
vol.3 『土のスープ』にこめられたメッセージ

vol.4 森と人との関わりを思い出して欲しい
 

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