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“美味しさ”に込められたメッセージ 4/4 

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vol.4 森と人との関わりを思い出して欲しい


残間
先ほど今のテーマは“森”とおっしゃいましたが、そこをもう少しお聞かせいただけますか。

成澤
今、力をいれているのは勉強会。小説家のC.W.ニコルさんや工芸家の稲本正さんなど、いろんな分野の人に協力してもらって、いかに森と関わるか、里山文化について意見交換を重ねています。

それから最近、林野庁に呼ばれて講演もするようになりました。
今まで国は森をどう見ていたかというと、木材なんです。森イコール木材という考えで終わっていました。でも僕の場合、森を食べるとか、森を楽しむというアプローチです。そこに興味を持ってくれたのか、「森と関わる」というテーマで話をしてくれと言われました。やっと少し変わってきたかなという感じです。

昔の日本人は、もっと森と関わってきたわけです。爪楊枝ひとつ取っても、森から採ってきた黒文字(クスノキ科)ですが、あれには殺菌作用があっていい香りがあるから爪楊枝にしたわけです。でも今の人はそういうことを忘れているじゃないですか。
他にもおにぎりはなぜ竹の皮に包むのか、どうしてこんなに笹の葉が使われているのか、言い出せば数限りないほどの森との関わりから生まれた知恵があったわけです。経済の高度成長や生活の西洋化で、一気にそういうものが排除された面があります。


残間
そういう環境保護の取り組みって、生産者が自らの生業を守るためにやっている例はあるし、それも大事なことですけど、成澤さんのように、料理や美味しさからアプローチしてもらうと、より広がって行きますよね。

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成澤
まだまだ日本人は平和だと思っているのですよ。この豊かな食生活が永遠に続くと思っているのじゃないですか。でも森はどんどん減ってきている。毎年イギリスの国土と同じだけの森が、地球からなくなっています。そうすると自分で首を絞めていくようなものです。

空気は森から。水も森から。海の幸は森の栄養分が流れ込むことで支えている。その森を減らしているんです。空気の一番の浄化機能である森を減らしているのですから、いくらCO2の排出を減らしても追いつかないですよ。

残間
この問題は、みんな頭ではわかっていても、それを実感するのが難しいです。

成澤
やっぱり地球というひとつの船に乗っている、という感覚がないのでしょうね。この先3年くらい良ければいいや、という感じに見えます。

コラボレーションでも、あくまでNARISAWA流をつらぬく


残間
成澤さんは、企業とのコレボレーションにも取り組んでいますね。3月には、JR九州と門司港駅に洋食レストラン『みかど食堂 by NARISAWA』をオープンさせます。JR九州には『或る列車』で、スイーツコースも提供していますね。

成澤
JR九州の『或る列車』のオファーがあった時は、最初断りました。というのも、僕はNARISAWAと同じポリシーでしかやりませんから。
それは、海外のものではなく地元の食材を使います。そして食材は市場で買うのではなく生産者から買います。それも直接、生産地に出向いて選びます。あとは極力、無農薬にこだわります。そうするとコストが上がります。 こういったコラボの話はいろいろな企業から来るのですが、その時点でみなさん去って行きますよ。

残間
(笑)

成澤
「いやあ成澤さん、名前だけいただければ」とか言われるのですが、それはNOです。ところがJR九州はちょっと違いました。季節のものを使ってきちんとやると、原価率が上がりますよ。それでもいいですか? と言ったのですが、それでもやると。
さらに事前に1年間、九州の生産者を回って準備する必要があります。だから1年前から契約してくださいと言うと、それもわかりましたと。ですから1年間、月に一度生産者を訪ねました。無農薬、有機栽培のものを探して、一回につき5〜6箇所行きましたね。
それで毎回、JR九州の担当者も一緒に来るので、彼に「JRじゃなくてJAになっちゃったね」と冗談を言ったぐらいです(笑)。

ただし、こういうコラボレーションというのは最初は良くても、だんだん当初のコンセプトからズレて来ることがあります。でもJR九州はブレないですね。逆により厳しくなるくらいで、僕はそこを尊敬しています。今や僕は九州という土地だけじゃなく、九州の人たちにも魅力を感じていますから。

それで『みかど食堂 by NARISAWA』では洋食を出すのですが、洋食というのは明治維新以後、イギリスから伝わった食が日本と関わることで生まれました。僕は洋食というのは、日本が世界に誇れるひとつの食のジャンルだと思っています。カレーだとかハヤシライスとかメンチカツ、ハンバーグ。
門司港駅の駅舎は東京駅と並んで重要文化財に指定されている、明治の由緒ある建物です。その場所で洋食を出すというのも、意義があるのじゃないでしょうか。

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生産の現場を知らなければ説得力は生まれない


残間
最後に、これから料理の世界を目指す、若い人たちについて伺いましょうか。何かで読みましたが、成澤さんは若い料理人に、もっとオリジナリティを大事にして欲しいと感じているそうですね。

成澤
今の時代、インターネットを開けば、全部ビジュアルが出てきます。コピーすることはすごく簡単です。でも料理に込められているメッセージであったり、それが生まれた背景までは感じられない。
今は手っ取り早いというか、何でも情報が入ってくる。自分で体験していなくても、体験したような感覚にもなるし。

ですから割と上手な、似たようなお店はいっぱいあると思うのですが、それだけでは世界には通用しない。現場に行けというのはそういうことで、生産地に行って生産者に会って話をしないと、説得力は出ないですよね。

残間
成澤さんはこれまで、自分の五感をフル活用して現場に行き、人と関わりながらそれを身につけてきたと思うのですが、今の時代は難しいかもしれませんね。

成澤
もちろん今には今のスタイルがあると思います。教え方にしても、僕たちの時代はパワハラという言葉すらなかったですし、いいことではないですけれど厳しい時代だった。これは日本だけでなく、ヨーロッパでもそうでしたから。

でも今はそういう感覚ではないですよね。かつてのように見て覚えろじゃなくて、これはこうなんだから、こういうやり方になるんだよ。あるいは「バカヤロー」じゃなくて、これはここに問題があるから上手くいかないんだよって、ちゃんと言ってあげる時代なのかなあと。

残間
若い人を指導する時は怒ったりするのですか。

成澤
もう今はあんまりないですね。スタッフの年齢が自分の息子と近くなってきたので(成澤氏は現在49歳)。それどころか、逆に彼らの方がすごいと思う時もあるし(笑)。

残間
今日はありがとうございました。
そういえば、最近、南青山のお店のすぐ近くにバーも開店しましたね(『BEES BAR by NARISAWA』)。オープニングの時にお邪魔しましたが、素敵な空間でした。しかもエビフライなどの洋食が食べられる。

成澤
ええ、基本的に門司港駅の『みかど食堂』で出すものと同じです。
ただし禁煙ですよ。日本はバーというと、どうしても煙モクモクで僕は行けませんでした。だったら自分で作るかと。気軽に洋食を楽しめる店ですので、クラブ・ウィルビーの皆さんも遊びに来てください。



(終わり/2019年1月取材)

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vol.1 異文化に魅せられてアジア、アメリカ、欧州へ

vol.2 最初はカセットコンロで始めました
  ↓
vol.3 『土のスープ』にこめられたメッセージ
  ↓
vol.4 森と人との関わりを思い出して欲しい


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