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日本型組織の危うさ3/3

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vol.3 役者を目指す若者が減っているそうですが……


残間
本の話が続きましたので、最後に演劇での活動についてお聞きしましょうか。鴻上さんもついに還暦ですけれど、演出家として心境の変化というのはありますか。

鴻上
うーん……なんでしょうねえ……
  だんだん、あと芝居を何本作れるんだろう? ということは考えるようになりましたね。40代くらいまでは無限に作れると思っていましたけど。年に2本から3本芝居を作るとして、あと何本かなあと。

残間
自分の中では、まだまだやりたいテーマはあるんですよね。

鴻上
ありますね。書く時間がもらえるなら、いくらでも台本書けるぞという感じです。あとはそれにふさわしいキャスティングができるかどうかだけです。

残間
鴻上さんのところからは、ずいぶんいい役者が出ていますよね。そういう役者たちを育てるという部分については。(※第三舞台出身の俳優に筧利夫、勝村政信、池田成志など)

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鴻上
好きです。困ったことにこれが好きなんですよ。でも、これはと思っても、育つのは10人に1人ですね。すると残りの9人分の時間を返せという気持ちになります。
他の演出家にそのことを話したら、「そういう奴らのことを時間泥棒というんだ」って言われました。

残間
(笑)

鴻上
いい表現だと思いましたね。さんざん君に投入した時間を返してくださいという感じです。それが40代くらいまでだと、いくら時間泥棒がいても「ハハハ」と笑えましたけど、もうあまり笑えなくなってきました。

残間
なかなかお眼鏡にかなう新人はいない?

鴻上
そんなことはないですよ。

残間
演劇の世界を目指す若者が減っていると言われていますが……。

鴻上
それは言えます。僕、桐朋学園芸術短期大学というところで10年くらい教えているんですけど、劇団に入る若者が本当に減っていて、学生に卒業後はどうするの? と聞くと「事務所に入ります」って。

でも僕は言うんです。お前ら気をつけろよと。
オーディションを受けて仕事が決まっても若造だから、喫茶店のウエイトレスの「お待たせしました」というのを1ヶ月に1本やるぐらいなわけです。
事務所に入って今月CM3本やりましたっていっても、後ろで騒いでいるビアガーデンの客の一人ですみたいな。そんな生活を2年3年やっていたら、せっかく培った演技の勘も全部なくなっていきます。

ところが舞台をやっていれば、とにかく長い時間を稽古に費やさなければいけないので、どんどん磨かれるはずなんです。
なのに、それでも縛られたくない者たちが増えましたよね。

残間
昔は俳優座と直結していたような桐朋学園でもそうですか?

鴻上
役者をやろうというお前たちでそうなら、世間はましてだな、という感じですよ。

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残間
テレビ界もそうだといいますね。AD志願なんていないそうです。ものを作る時の喜びよりも、苦労の方が先に気にかかるみたいで。

鴻上
漫画家志望も減って来たという話もあります。

残間
みんな下積みが嫌いなんだ。

鴻上
それもあるし、漫画家って当てても、金を使う暇がないことをみんな知っているみたいです。
週刊漫画とかで当たっても、結局、自分が好きな作家は嘆いているわけです。ずーっと一週間描いているだけなことを。それも1日3時間くらいの睡眠で、ずーっと描いてる。
若者たちには、それは幸せなんだろうか、という風に映るみたいで。



“今の空気”を芝居にしたい

残間
鴻上さんが2007年に旗揚げした『虚構の劇団』は、若い役者志望の子を育てながら、「俳優として成長し、売れる」ことを目標に掲げています。しかし役者の意識も違って来ているでしょうし、苦労も多いんじゃないですか。

鴻上
育ってくれれば、苦労も喜びになるんですけどね。

残間
あれはどうして思いついたんですか?

鴻上
やっぱり僕は、根が役者を育てるのが好きだから。困ったもんなんですが。あとは今の作品が書けるんですね。

たとえば2年後に大きな劇場を1ヶ月押さえて芝居をやるとなると、キャスティングのために今の段階であらすじを出さないといけないわけです。でも、2年後にやる作品のあらすじなんて書けるわけがない。時代物を専門にしているならいくらでも書けるんですが、特に僕は現代劇なので。

残間
オリジナルですし。

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鴻上
『第三舞台』というのは何で“今の作品”ができたかというと、劇団でメンバーが固定だから、稽古初日に台本ができていればいいわけです。それで稽古から1ヶ月半後とかに初日。だから芝居のタイムラグが全然ないわけですよ。それが劇団の良さですよね。
『虚構の劇団』のために台本を書く時も同じなので、その時の自分の思いが投入できるわけです。

ところが『kokami@network(コウカミネットワーク、と読む)』(毎回メンバーが異なるプロデュース公演)の時は、実はこのプロットを考えたのは1年半前なんだよねとなる。もちろん、なるべく近づけようとはしますが。
でもプロットを考えてキャスティングしているから、後になってある役がいらなくなっても、まさか役をなくすことはできません。ならばこの枠組みの中でどうしようか、ということを考えるわけです。そこはしんどいですね。

残間
大きな劇場を1ヶ月押さえてしまうと集客の責任も大きいですよね。チケットも高額になる。となると、キャスティングが重要になってきます。もう一人や二人のスターでは、難しいのでは。

鴻上
難しいですね。何人もの役者との掛け算になるんですが、それぞれの役者さんの大きさがないとダメですね。

残間
総じて、演劇をやりづらい時代になっていますか?

鴻上
どうだろう? そうでもないんじゃないかな。最近、演劇の中でジャンルが崩れて、クロスオーバーになっていますが、これは悪いことではないと思うんですよ。

昔みたいに歌舞伎があって新劇があって、小劇場があって、あとアングラみたいなのとか、はっきり分かれているんじゃなくて、それぞれが面白いものを求めて境界を越えて、気がついたら境界自体がなくなっていたみたいな。それは必然の道のような気がしますけどね。

残間
鴻上さんの芝居は20年以上観ていますが、今後も面白い作品を期待しています。
今日はありがとうございました。

鴻上
ありがとうございました。



(終わり/2018年3月取材)

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vol.3 役者を目指す若者が減っているそうですが……

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