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日本型組織の危うさ2/3

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vol.2 佐々木さんに近づく過程を書いた


鴻上
最初は本にするつもりなんかなかったんですよね。2009年に佐々木友次という人がいたことを知って、それから6年後くらいにまだ生きていることがわかったんです。それで会いたいと思いました。

残間
執筆のためではなくて、とにかく会いたいと。じゃあ編集者抜きで一人で動いていたんですか?

k_b
鴻上
ええ。仕事の合間に自分でエアチケットを取って、札幌の病院に行きました。
最初は公演先の高松から羽田経由で行きましたね。とにかく会ってみたかった。

残間
いつぐらいから本にすることを意識しましたか。

鴻上
そうですねえ……最初に話して、一泊して次の日にまた会って、それで東京に帰って来たあたりですかね。これはやはり、佐々木友次さんという存在を日本人に知らせた方がいいんじゃないかと、ぼちぼち思い始めました。

残間
この本で面白いなと思ったのは、鴻上さんが生き残りの特攻兵・佐々木友次さんのことを知り、周囲の協力で92歳でまだ生きている彼を発見し、ついには札幌の入院先に話を聞きに行きますよね。その伝え方がニュージャーナリズム的な印象を受けました。作者である鴻上さん自身も、作品に入っているんです。

鴻上
はいはい。

残間
自分を外側に置いて、全体を客観視して書いていない。そこが私たちの道案内役になっているんですよ。読みやすいしわかりやすくて、佐々木さんに近づきますよね。

鴻上
それがこの本がたくさん買われた理由だと思いますね。つまり、僕も最初は佐々木さんのことがよくわからなくて、一歩一歩近づいていく流れを書くしかなかったので。
これが僕がそもそも特攻に詳しくて、「皆さん、こういう人が世の中にいたんですよ」という書き方だと、こんなに読まれなかったかもしれないですよね。

残間
鴻上さんは札幌の病院に佐々木さんに話を聞きに行くんですけど、1回目は体がつらそうということで1時間20分くらいで止めざるをえなかった。にもかかわらず、次の日もまた話をしに行く。

鴻上
(笑)

z_b
残間
聞かずにはいられないという、あのあたりがリアルですよね。私たちと佐々木さんとの間には距離があって、そこを鴻上さんが近づいていって、私たちとも近づけてくれる。
あの辺の描写はもっと読みたいぐらいでした。最初に病院の佐々木さんのいるフロアに足を踏み入れた時、それまでの消毒薬の臭いに少し糞尿の臭いが加わった、というくだりがありますよね。すごく空気感が伝わってきます。そして部屋に入ると、小柄な視力を失った92歳の佐々木さんが横たわっていた……

要するに何回出撃命令を受けて何回帰ってきたとか、その時に軍隊内でどういう立場に置かれていたとか、そういう核心の部分だけじゃなくて、佐々木さんが私たちと同じ時代に生きているということのインパクト。

鴻上
本当にそうなんですよ。奇跡のようなタイミングで本にできたと思います。僕の最後のインタビューから2ヶ月後にお亡くなりになりましたからね。

残間
佐々木さんはそれまで特攻のことは語りたがらなかったそうですけど、鴻上さんに口を開いたのは、やはり何か残したかったんでしょうね。
目がご不自由だから、いったいどんな面立ちのどんな人が来ているのかわからない。だから声でしか相手を判断するしかないわけですよね。信じられる人間なのかどうか。鴻上さんだから、話してくれたんだと思います。

鴻上
僕は全部で5回会いましたが、本当にちゃんと喋ってくれていると思ったのは、4回目くらいからですね。最初の頃は気を使いながらパブリックコメントを返している感じでした。

残間
なぜ生き残れたのかという問いに、佐々木さんは「寿命だから」という答えを繰り返しますが、それがまさに真実というか、要するに「簡単には言えない」ということですものね。

鴻上
ええ。自分の寿命という割には、先祖のことをずっと祈ってたわけでもないし。きっと相当、複雑な思いがあったんだと思います。

残間
病室でのインタビューの章がいいですね。相手のことを慮って距離をはかりながら、相手の体調を気にしながら進めていきますよね。
それから、どうしても重複するような質問をせざるを得ないんでしょうが、それをあえてそのまま書いています。あれが逆にリアルというか、その場にいるような気にさせてくれます。

鴻上
「なんで佐々木さんは帰って来られたんですか?」という質問に、初対面の人間に本音を言うわけないですよね。実際に死んだ人がいて、自分は生き延びているわけだから、たぶん故郷に帰ってからも相当つらいことを言われているはずだと思います。ですから初めは信用を勝ち取るには手間取るかなと思いました。

残間
特攻兵として華々しく散ったと、故郷では2回も葬式をやっているんですよね。

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鴻上
そう。本人に突っ込まなかったですけど、たぶん周りは香典も払ってるんですよね。それも2回。
強気な人は香典返せと言えたと思うんだけど、多くの人はいろんな思いを腹に溜めたと思うんです。



話題になることで呼び起こした新たな波紋

残間
改めて16万部という数字をどう見ますか。先ほども言いましたが、現代の日本とあまりに重なる部分が多いせいだと思いますけど。

鴻上
ただね、5万部を超したあたりから、明らかに読んでいないで批判するツイッターやネットへの書き込みが出てきましたね。特攻で死んだ人間を冒とくするのかとか、お前はアジア解放戦争ということを全く理解していないとか。

残間
読んだら、そうは言わないですよね。

鴻上
そうなんですよ。それで嬉しかったのが、ツイッターで日の丸のアイコンの人が感想で「絶対こんな上司は嫌だ。こんな上官は死んでも嫌だ」と書いてあったんです。つまり明らかに右側だと思われる人でも、この理不尽さに怒りを持つというのは、すごくまともだと思いました。
立場を超えて受け入れられて、とても嬉しかったですね。

ただし、中にはアメリカ側の資料なんかを持ち出して、巧妙に批判してくるものもあって、それがまた「役にたった」がたくさんついて上位に来たりします。

残間
ところで、最近の世の中全体を見回してどうですか。

鴻上
すごく不寛容な、息苦しい時代になっていると思っていて、そこをどううまく風穴をあけるかとか、楽になれるかということの高度な戦略を求められている気がします。だから『不死身~』も、なるべく政治的な匂いがつかないように気をつけました。それは宣伝の段階でもね。

今、みんな不寛容になって簡単にレッテルを貼りたがります。だからなるべくレッテルから遠いところで、日本的な息苦しさとか、日本的な不寛容とか、そして日本を超えた人間としての面倒臭さみたいなことをうまく表していければいいかなと。 そのせいか政治的立場を超えて、新聞赤旗から世界日報、聖教新聞とか、割といろんなところが紹介してくれています。

残間
確かに意識の改革には、高度な戦略って必要ですね。すぐにそれとはわからないような、ジワジワとしみるような手法。単純に「反対!」と意見をぶつけ合うだけでは、変えられないものかもしれません。



(つづく)

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vol.1 私たちはついあきらめてしまう

vol.2 佐々木さんに近づく過程を書いた

vol.3 役者を目指す若者が減っているそうですが……

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