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古希を前にして考える。 2/4

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vol.2 取材はいつでも“真剣勝負”


残間
仕事についてはどうでしょう。いつ死んでもおかしくないのなら、一生懸命やろうと思いを新たにしているとか。

吉永
ぜんぜん思わないです。そんな気張ったものでもないです。 だって私は一生懸命なんか働きたくもないのに、一生懸命働かざるを得ない状況だったから、一生懸命働いてきたわけですよ。
早くに父を亡くして母親を食べさせないといけなかったし、仕事に復帰するきっかけになった優駿エッセイ賞の作品も、夫が落馬した時に備えて働かなきゃと賞金を求めたということでして。

これからも仕事があれば働きますよ。まだ、おかげさまで体も動くし、それほどボケてもいない。需要がある間は仕事をします。
だって同世代の会社勤めだった友達たちは、第二の定年(65歳)も過ぎちゃってるわけですから。こんな歳になっても仕事ができるのは、ありがたいとは思います。
でも、だからと言って、これをいつまでも延ばしたいとも思わない。延びれば延びたでいいし、延びないなら延びないでいいやという感じですかね。

でもまあ、人を取材する力がある限り、仕事はやるでしょうね。もしそこで中途半端なものを書くようになったら、その時はごめんなさいと言って止めようと思います。それはテレビの仕事でも同じで、気持ちが乗っていないのに、周りの期待に応えるためだけに半端なことはやりたくないですね。

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残間
“人を取材する”ということで言うと、『ひととき』でのインタビュー連載『この熱き人々』、ずいぶん長く続いてますよね。毎回、面白く読ませてもらってます。
あれは人選も吉永さんがやっているんですか?

『この熱き人々』
月刊誌『ひととき』(Wedge)にて連載中。
有名無名を問わず、その道を熱く邁進している人物に吉永みち子さんがインタビュー。 JR東海道新幹線停車駅のキオスク、全国一部書店、webで購入可能。定価500円。 WebマガジンWedge infinity上でも読めます。

吉永
私がする場合もあれば、編集側から提案される場合もあります。ただし私がやりたいと思っても、編集側が拒否すればやりません。逆に編集側が提案しても、私がやりたくない人はやらない。双方の合意のもとで、という感じですね。
どちらかが嫌だと言ってる人を取材するのは失礼ですし、いいものもできないですから。

残間
『ひととき』での連載はもう10年?

吉永
10年ですね。1年で12人ですから、120人ですか。
やっぱり“人”を書くのって、すごく体力がいりますね。テープ起こしも大変だし。

残間
テープ起こしは自分でやってるんですか?

吉永
編集部は、テープ起こしはやりますよって言ってくれるんですが、テープ起こしは私にとって一番大事なものなんですよ。

残間
そうですね。息遣いだとかで、その人の真意がわかったり。私も雑誌記者時代、座談会のテープ起こしを3年位やりましたが、文章を書く原点になっていますね。

吉永
後からテープを聴いてると、「(相手が)こんなことを言ってたのか。どうして私はこの時にもっと突っ込んで訊かなかったんだろう!」と思うことが、1人の取材につき3〜4シーンはあるわけです。そういうことが次の取材に生きるから、大変なんですけど自分でやります。

もちろん、取材対象者に会う前には、その人のことを十分知っておかないといけないし、かといって知り過ぎてもいけない。事前調査をやり過ぎると、取材が確認作業みたいになってしまうので。

残間
予定調和的になって、生きた会話にならないんですよね。

吉永
だから取材に臨む時はいったんそれを忘れて、忘れてるんだけど体の中に入ってるという状態にしないと。

残間
毎回、読んでるんですけど、すごいなあと思うのは、言葉が重複しないんですね。人間を書いていると、ある程度ボキャブラリーが限られがちなんですが、一人ひとりと真っ直ぐ向き合わないと、ああいうそれぞれの人にそれぞれの言葉って、出てこないですよ。
しかも単なる問答形式じゃなくて、吉永さんの地の文があって、その人への思いがとても伝わってきます。

吉永
インタビューって問答形式じゃないと、言ってみればその人の肖像画を描くようなものなんですね。肖像画っていうのは、私の見た印象。それを目から描くのか、鼻から描くのか、それとも足から描いた方がいいのか。とにかく手間がかかります。

残間
しかも取材時期を一定の間隔を空けて、というわけには行きませんよね。相手の都合があるので、短期間に何人かが続くこともあるでしょう?

吉永
そこがつらいです。先週も船大工さんを取材したばかりなんです。場所が木場で寒かったですね。
すると前からお願いしてたんですが都合のつかなかった、ある映画監督から急にOKが出て、その取材が明日なんです。だけど、まだ船大工さんが私の体に入ってるんですよ。まだ吐き出せていない。この状態でその映画監督を取材するのは、すごくつらいです。

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残間
わかります。

吉永
かと言って嫌とも言えないし。できれば船大工さんを書き終えてから取材したいんですけど、この短期間ではとても無理。次の取材の前に、何とか骨組みだけでも書いておきたいと、久々に二日ぐらい徹夜しました。
前の原稿をある程度、区切りをつけておかないと、映画監督の方にも失礼だし。と言っても、向こうは知ったこっちゃないからいいんですけど(笑)。こっちの気持ちの問題がね。

仕事ってどんどんタンスに仕舞われていくわけですけど、まだ前のが出っ放しなのに次に行くのはすごくストレス。
こういうのがスッとやれちゃう人もいるんでしょうけど、不器用なんですかね?

残間
それだけ一つひとつに思いが入ってるからじゃないですか。私も吉永さんもすぐに誰とでも仲良くなれそうに思われがちですが、そんなに簡単ではないですよね。取材対象者とは、初めて会う場合がほとんどでしょうし、気も使いますよね。

取材相手を好きになりたい

吉永
2時間なり取材している間に、その人を“好きだな”って思いたいわけですよ。
基本的にそれがないと書けないじゃないですか。書きたいという気持ちにならないでしょ? 書きたくないものを書くというのは、ものすごく難しいです。

残間
今まで120人取材して、好きになれない人っていました?

吉永
それはなかったですね。要は心を開いてくれればいいわけです。その人が私の好きなタイプか嫌いなタイプかは関係ないんです。すると最低限でも2時間は必要ですね。撮影時間を除くと正味1時間半。それ以下しか時間が取れない場合は、残念ですが諦めます。

残間
俳優の水谷豊さんを取り上げてましたね。『この熱き人々』で取り上げる人は、一般には無名な人がいる一方で、水谷さんのように誰もが知っている人もいます。みんなが知っている人というのは、書きづらくはないですか?

吉永
取材などで本人がしゃべる機会がたくさんあるので、みんなが詳しく知っているんですよね。だから、それ以外の何かを引き出さないといけない。
あるいは、これまでしゃべってきたことの背景が、「え、そうだったの?」というのがないと書けない。そのためには、気持ちをこちらに向けてもらわないと勝負にならないです。

残間
この企画が一本一本、熱度が保たれつつ長いこと続いているのは、吉永さんの発した何か一言が、取材相手に突き刺さるからなんでしょうね。連載を読んでても感じることがあります。吉永さんのこの捉え方に反応したな、食いついたなということが。

吉永
ええ。それができなかったら、失敗作になるわけですよ。
私の言葉が何も相手に刺さらなかったとしても、資料をかき集めれば字数は埋められますけど、「ほぉ」というものにはなりませんね。読者も「ああ読んだな」で終わり。それは避けたいです。
だから人と会う、取材するというのは、いつも真剣勝負ですよ。



(つづく)

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vol.1 どう死ぬかが気にかかる

vol.2 取材はいつでも“真剣勝負”

vol.3 21世紀がこんなことになるなんて思わなかった

vol.4 仕事がなくなって、まだ身体が元気なら

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