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古希を前にして考える。 1/4

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ノンフィクションを中心に、作家として長く活動している吉永みち子さん。そろそろ古希が視野に入ってきた今も、取材対象に真摯に向かい合い、その魂を映し出すべく“新しい言葉”を紡ぎ続けています。そんな吉永さんが最近よく考えるのは、「自分はどんな風に死ぬのか」だそうです。新年にふさわしく!? 実に明るく語ってくれました。(残間)
吉永みち子さんのプロフィールはこちら
(聞き手/残間里江子 撮影/岡戸雅樹 構成/髙橋和昭)

vol.1 どう死ぬかが気にかかる


残間
吉永さんには2010年の正月にもこのコーナーに出ていただいています。あの時は、私たちももう還暦だね(二人とも1950年生まれ)ということで、奥田瑛二さんも交えて鼎談しました。
いよいよ古希も間近になってきましたので、心境の変化もあろうかと久しぶりにご登場いただきました。今日はよろしくお願いします。

吉永
お正月らしい話ができるか自信がありませんが、よろしくお願いします。

残間
私は2年前に母を亡くしてから、いよいよ“おひとりさま”で暮らし始めたんですが、吉永さんの一人暮らしはもうずいぶん長いですよね。

吉永
息子が二十歳でアメリカに行ってからですね。その息子が今、36ですから、もう15年くらいになります。

残間
15年一人で暮らしてみて、心境の変化というのは……

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吉永
ないですね。私は「一人で暮らすぞ!」と気負いなんてなくて、自然とそうなった感じですから。

残間
私は健康に対する不安が大きくなってきました。体が不調で、気持ちがフワフワしてる時に、あ、このまま死んでしまったりするのかな、とか。

吉永
あ、それはあります。

残間
そんなことを夜、吉永さんに電話で話すと、「家が散らかってるから、私は今、倒れるのは困る」とか言いますね。

吉永
それは生きる大きなモチベーションになってる気はします。

残間
なんですかそれ(笑)。

吉永
まずいだろ、今は! この状態を人に見られては困る! という感じで。医者から薬をもらってますけど、家がきれいだったら、もう飲まないかもしれません。
なかなか片づかないんですよね。本当に玄関からすごいんですから。酔って帰ったら、つまづいて転びそう。犬のいるスペースだけはきれいにしてますけど。

残間
ワンちゃんは元気ですか。二匹いましたよね。

吉永
おととし、一匹死んじゃいました。黒い方。18歳でした。

残間
あの元気なのが……そうなんですか。

吉永
もう歳でしたからね。目は見えなくなってたし、耳も聞こえなくなってました。それでも粛々と生きてたんですよ。別につまんなさそうにもせず。
怖がるんで散歩には行かなくなりましたが、家の中は勝手がわかってるので、そろりそろりと歩いてました。トイレもきちんとしてましたし。

犬の自然な死の受け入れ方に感じ入る

吉永
それにしても最後を看取って、犬ってすごいと思いました。

ある時、ご飯を少し残したんですよ。食いしん坊な犬だったんで、「ええ?」と思ったんですが、それから毎日、少しずつ残す量が増えていったんです。それで10日足らずで全部残すようになりました。食べる量がゼロ。
もともと小さい犬だったんですが、どんどん痩せていくわけです。

病院に連れて行って点滴でも受ければ、少しは元気になるかとも思いましたが、この食いしん坊が食べられないということは、すでに代謝ができないってことですよね。代謝ができなくなった者に栄養剤なんかで延命させるというのは、きっと苦しいだろうなって思いました。こいつが食わないって言ってるんだから、まあいいかと。

それでも何度か病院に行きかけましたね。抱っこしてマンションのエレベーターくらいまでは行くんですけど、「やっぱりいいか」と部屋に引き返したのは2回ぐらいやりました。
それで最後はこれを受け入れようと。無理に延命するのがこの子にとっていいのか悪いのかわからないし。

それでいよいよという具合になってきたので、息子も呼び寄せました。息子もその犬とは関わりがありましたから。
夜、二人で付き添ってたんですけど、なんだか今晩は越せそうだね、静かに寝てるし、という感じだったんで、息子は夜中の2時にいったん帰ったんです。私はいまさらベッドでちゃんと寝るのもなあと、犬を抱っこしながらソファに座ってたんですけど、ウトウトと2時間も寝ちゃったんですよ。

ふっと目が覚めたら、何だかこいつ、硬いぞと。毛布をかけてたから冷たくはなかったんですけど、死んでたんですよ。

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残間
吉永さんの腕の中で……

吉永
もし苦しがったり吠えたりしたら、さすがに私も気がつきますから、寝たまま死んじゃったんでしょうね。
犬が「十分生きたからもう結構です」っていう感じ? だったら、私も「そうですね」と受け入れるしかなかったです。

残間
最近、言われている「自然死」というのを目の当たりにしたようなものですね。
私たちの世代だと、友達やその家族が亡くなるということもずいぶん増えました。私も、いつ死んでもおかしくないと思うようになりましたもの。特に母親が死んでからはリアルに感じるようになりました。
でも話を聞いていると、愛犬はいい死に方でしたね。

死は悲しくはない。今を心して味わう

吉永
あれは理想です。希望通りにはならないんですが、自分がどう死ぬのか、最近よく考えますね。
私もチビチビとご飯を残す量が増えていって死ぬのがいいかも。でも人間は犬ほど、死ぬまでの時間が短くないと思うんですよ。犬は体重が2〜3キロだったのであっという間でしたけど、こっちはタップリありますからね。

残間
(笑)何ヶ月かはかかりそう。

吉永
相当かかるでしょうけど、ああいうのはいいですよね。
死に向かうっていうことは、やっぱり大変なことだと思うんです。でも、そこにスムーズに向かうような機能が、本来、人間には備わってるんじゃないですかね。物忘れが激しくなるのも、人生を終えるためには必要なことなのかもしれません。

残間
そうですね。衰えてるんじゃなくて、いろんなことを消去してるのかも。

吉永
そこをあんまり踏ん張ると、もがきながら死にかねない。犬を見ててそう思いましたね。何もしなければ穏やかに死ねるように、生物の体って初期設定されてるんじゃないかと。そんなことを考えながら、犬が死ぬのを見てました。

だから私が心配なのは、一人暮らしなので死んだ時に発見が遅れそうということだけなんですよ。電話がつながらなくても、旅にでも出てるのかなとか思われそうだし。息子は近くに住んでますけど、話をするのは3ヶ月に1回くらいですからね。近所迷惑にならないように、そこはどうしようかと考えてます。

ところで私、こういう話をするのは全然、嫌じゃないんですけど、このインタビュー、正月に載せるんでしょう。こんな話でいいんですか?

残間
(笑)いやいや、我々にとっては、死は2018年以降の大きな課題ですよ。

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吉永
今年は年を越せるのかなあとか、桜も来年は見られるのかなあって思いますね。でも悲しいとは思わない。じゃあ、心して見ておくかと。

残間
その瞬間、瞬間を大切にね。
今は特に深刻な病気みたいなのはないんですか? 一時、心臓を患ってましたが。

吉永
今も薬は持ち歩いてますよ。面倒くさいので飲まないという選択はあるんですが、やっぱり飲むんですよ。家が散らかってるから。

残間
(笑)やはりそこですか。
お掃除サービスなり、人の手を借りればいいじゃないですか。あ、人が来るとなると、そのためにいろいろ片づけなきゃいけなくなる?

吉永
それ、もっと大変! 実は腰が悪いものでかがめなくて、水周りだけ定期的に人にお願いしてるんです。掃除の人が来る日は本当に地獄。その人たちが仕事ができるようにしないといけないから。もう朝早くからコマネズミみたいに、泣きそうになりながらやってますよ。

残間
いったい何が散らかってるんですか?

吉永
何って、本とか資料とか……それから申告書類の類とかも山のようにありますね。
それから一度、床に落ちていたクリアファイルに足を滑らせて転んだので、クリアファイルだけは気をつけてます。あれ、危ないです。ステーンといきますよ。

残間
(笑)クリアファイルが死因というのもね……。
転ぶといえば吉永さん、少し前にらせん階段の最上部から最下部まで落ちるという事件がありましたね。幸い、たいした怪我もせず。

吉永
あれは不思議な経験でした。転んでから一番下に落ちるまで、結構時間がかかったんですよ。体は止まらないんですけど、その間にいろんなことが頭に浮かびました。 例えば、この階段が焼肉屋の階段だということ。焼肉屋の階段から落ちて死んだり重症というのはかっこ悪いかなとか。フレンチだったら少しはカッコ良かったかなとか。
そんなことを思いつつ、何とか頭と背中と腰は守らなきゃという意識もあって、それで足を怪我したんですよね。骨折しなかったのは大したものですけど。

残間
(笑)「焼肉屋」の一語で笑い話になってしまいました。

吉永
まあ生きてるから笑い話でいいんですけど、死んじゃって笑い話っていうのも、なかなか悲しい。
正月早々、本当にこんな話でいいんですか?

(つづく)

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vol.1 どう死ぬかが気にかかる

vol.2 取材はいつでも“真剣勝負”

vol.3 21世紀がこんなことになるなんて思わなかった

vol.4 仕事がなくなって、まだ身体が元気なら

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