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語りつくせぬ百の物語 2/3

shiraishi


Part2 芝居の世界に魅せられて


現実からの逃避だったのかもしれない

残間
芝居との出会いは小学校の時だそうですね。

白石
私は1941年生まれの東京育ちで、戦後間もない日本の小学生には、なかなかお芝居を観るチャンスはなかったです。それがある日、学校にプロの劇団がやってきて芝居を見せてくれたんです。
今でも覚えています、『そら豆が煮えるまで』。子供が楽しくなるような、お姫様が出てきたり、ちょっとした戦いがあったり。そのお姫様に憧れて、家に帰ってからも敷布や風呂敷を身体に巻いて、ヒラヒラさせて遊んでました。

今思えば芝居に興味を持ったのは、日常の辛さからの逃避だったんでしょうね。戦後間もなく私が5歳の時に父が亡くなって、母が一人で子供三人を支えていました。
父が生きていた頃はチヤホヤされて、とても楽しいものを与えられていたと思うんですよ。それが突然そういうものがなくなって、着古した服ばかり着たり、穴の開いた靴を履くようになり、そんな格好で学校に通う毎日………。
父が残してくれた素敵な何かが私の心に残っていて、それを芝居を観て懐かしく感じて、逃げ込んでいたのかもしれません。

残間
高校卒業後は港区役所にお勤めになっています。一番下の弟さんが就職をするまでは自分も家計を支えないと、という思いからだったそうですが、役所以外に選択肢はなかったのですか。

白石
当時は就職難でしたから。ある証券会社の一次試験は通ったんですが、あの頃は女性は家庭環境があまり良くないと、就職は………という時代で。

残間
はい、覚えています。私の時も両親が揃っている実家から通っていない女性は、なかなか採用されなかったですよね。上京して大学に入った友人たちも、結局みんな実家に帰って地元の会社に就職しました。

白石
だったら公務員はそういう差別がないだろうと。幸い東京都の職員試験に受かりまして、港区役所の麻布支所、税務課で働き始めました。

残間
六本木の東洋英和女学院の斜め前あたりですね。区役所勤めはどうでした? 意外に面白かったとか?

白石
仕事の内容はともかく、公務員っていいなと思いました。男女差別なく昇給がある。当時は労働運動が盛んでデモも多かったんですが、そのデモの末に賃上げが決まると、過去に遡って賃上げ分が支給されるんです。高度経済成長期とはいえ、意外に給料が良くて助かりました。

残間
それでも25歳の時、弟さんの就職を期に公務員をスパッと辞めて、早稲田小劇場に入ります。芝居への思いは消えていなかったんですね。公務員時代も芝居の世界とは何か関わりを続けていたのですか。

白石
ええ、劇団の稽古を見せてもらったり、小さな演劇の学校に通ったりしてました。
残間
俳優座や文学座など他にもいろいろ劇団はあった中で、なぜ早稲田小劇場だったんでしょう。私も学生時代、芝居に興味があって、あちこち観に行きましたが、鈴木忠志さんが率いていた早稲田小劇場は難解というか、独特な世界でしたよね。
第一次小劇場世代と言われる人たちが出てきた頃ですが、唐十郎さんの赤テントや寺山修司さんの天井桟敷はまだわかる部分があったんですが、早稲田小劇場は難しかった。

白石
ええ、母が私の舞台を観に来ると言われました、「あなたたちのお芝居はわけがわからない」って(笑)。
それは確かにそうなんです。最初はまず普通に戯曲の通りに稽古するんですが、そこからバラバラに解体していくんですから。でも私が初めて早稲田小劇場の芝居を観た時、鈴木さんの演出には電気が走りましたね。劇団員はみんなそうでした。惚れ込んでました。

テレビと違って、舞台では隅から隅まで見えてるんです

残間
早稲田小劇場には22年在籍した後、独立することになりますが、22年もいらしたのに独立に至ったのはどういう事情だったのですか?

白石
たぶん、元々私と鈴木さんの体質が合わなかったんだと思います。鈴木さんもそれはわかっていて、合わない私を上手に使ってくれました。肌合いの違う女優をあえて作品に入れ込むことで面白くなると。ただ私も22年芝居を続けて、“我”が出始めていましたし。

残間
その後は活動の場を広げられて、NHK朝ドラの『ひよっこ』(2017年)では、主人公のアパートの大家・立花冨役が演劇ファン以外でも話題となりました。
テレビは、それまであまりお好きではなかったのですか?

白石
好きじゃないというよりも、なかなか慣れなかったですね。自分の前にカメラが何台もあって、いったいどこからどう撮られて、どう映っているのかわからない。
舞台は隅から隅まで私には見えています。共演者だけじゃなくて、お客さんの動きもね。「あ、あそこの人、いま横向いた」とか。実は芝居は舞台上ではやることが決まっていて、あまり没入してはいないのです。私はそう見られないタイプみたいですけどね(笑)。

残間
そうなんですか? 『百物語』を拝見した時は、何かが乗り移ったかと思うほど入り込んでいらっしゃるようでしたけど。


(Part 3に続く)








Part1 もう一度やりたくなる舞台はめずらしい

Part2 芝居の世界に魅せられて

Part3 「演劇はコロナに負けない」


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