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語りつくせぬ百の物語 1/3

shiraishi
白石加代子さんといえば、テレビでお見かけすることもありますが、その主戦場は舞台。特に22年かけて完結したシリーズ公演『百物語』は、白石さんの代表作と言っていいでしょう。その貴重な舞台がこの秋、コロナ禍を乗り越えてアンコール公演として帰ってきます。必見のパフォーマンスを前にお話を伺ってきました。(残間/2020年10月取材)
(聞き手/残間里江子 撮影/岡戸雅樹 構成/髙橋和昭)


Part1 もう一度やりたくなる舞台はめずらしい


演出家・鴨下信一氏と作り上げた独自な世界

残間
お会いできてたいへん光栄です。もうすぐ『百物語』のアンコール公演が全国で始まりますね。私もとても楽しみにしています。

白石
ありがとうございます。稽古はこれからなのですが、私も楽しみでしかたがありません。

残間
とは言え、私が初めて『百物語』を観たのは2014年の8月。要するにファイナルの『第九十九話』でした。浅草公会堂が3階席までぎっしり埋まっていたのを覚えています。
観終わって本当に後悔しました。前から行こう行こうと思っていて、何とか最後の公演に間に合ったんですが、どうしてもっと早く観ておかなかったんだろうと。

舞台上で既存の小説を読むスタイルですが、いわゆる“朗読”ではなく、かと言って“一人芝居”とも違う。立体感のある語りと動きに圧倒されました。1992年に夢枕獏さんの作品で第一話が上演されて、22年かかって完結。白石さんの熱演に加えて、ファンの支持があったからこそ最後まで演じ切れたのだと思います。



<<白石加代子さん演じる『百物語』とは>>
「恐怖」というキーワードで選ばれた物語九十九篇。それを白石加代子さんが朗読するという形で1992年に始まりました。取り上げた作品は上田秋成の『雨月物語』といった古典から、宮部みゆき、筒井康隆などの現代作家まで幅広く、朗読という枠を超えた立体的な語りで人気を博しました。「恐怖」といっても「笑い」もあり、その「笑い」がまた「恐怖」に転化するとも評されています。2014年の第九十九話『天守物語』(泉鏡花)をもって完結。百物語は昔からある怪談を語り合う風習ですが、九十九話で終わっているのは、百話語ると本物のお化けが出るという言い伝えにならってのことです。(構成・演出:鴨下信一)
第一夜 4話 半村良作「箪笥」



残間
結果的に22年を要したわけですが、始めた頃はこれぐらいで終わるだろうという目算はあったんですか?

白石
『百物語』を始めた時はそれまで所属していた劇団を辞めてまもない頃で、それほど仕事もなくて時間があったんです。だから年に10本か20本はできるだろうと。実際に5年で50本やりましたから。ところが途中から他の舞台の仕事が増えてきて、それで22年。50歳で始めて、終わったら72歳になっていました(笑)。

残間
構成・演出の鴨下信一さんとの二人三脚で作り上げた、独自な世界ですよね。鴨下さんといえば私も多少知己がありますが、かつてTBSで『岸辺のアルバム』や『ふぞろいの林檎たち』などを手がけた名演出家です。
取り上げた作品は泉鏡花もあれば筒井康隆や村上春樹もあるといった具合で、幅広いですね。作品選びは主に鴨下さんが担当されたと聞いていますが。
白石
私は自分が何でも器用にできる女優ではないことはわかっていました。早稲田小劇場にいた頃は、情念を前面に出してすごい声を出したり、そんなことばっかりやってましたから。一つのことしかできない私が100本やらなきゃいけないことに、プレッシャーを感じていましたね。

ですから私も作品を選びたいと主張したんです。でも10本ぐらいやったところで鴨下さんにお任せになりました。本当に面白いものを選んでくれるんです。
いろんなことができる女優ではありませんでしたが、鴨下さんのお陰でいろんな体験をすることができましたし、教えてもらいました。

いちおう「恐怖」というものをキーワードにして始まったんですが、鴨下さんはそれまで世間で評されていた、私のおどろおどろしい部分や怖いところを活かそうとは、全然思っていなかったですね。それよりも私のヘンチクリンな肉体に作品を通すことで、ある地点まで到達すれば面白くなるだろうと、いろんな計算をしていました。
演出をお任せしていると、自分でも予想もしなかった所に連れて行かれてしまうこともありましたよ。

残間
鴨下さんは、そこまで最初からお見通しだったんですかね。

白石
………ちょっと違うかな? たぶんお見通しじゃないですね(笑)。

残間
きっと鴨下さんも、こんな風になるのかと驚きながら楽しまれたのでしょう。

ところで舞台ではいちおう白石さんは台本を持っていますが、見ているようで見てないのでは。完全に頭に入っているのではないですか。

白石
頭に入ってるところと「台本に頼っている」ところがあります。私は演じていて夢中になると、どこまでもいってしまうんです。だからきちんと元の地点に着地できるよう、そういう場面にはマークをつけたりして「台本に頼る」ようにしています。

残間
ここは気をつけろというわけですね。

再び台本を見た瞬間に、心を持って行かれてた

残間
アンコール公演をするに至った経緯として、まずやり遂げた達成感があったものの、その後めずらしく作品に対する喪失感があったと伺っています。公演チラシにも「時を経てまるで愛を失ったかのような想いに襲われた」とありますね。

白石
その辺りは自分でも心の中がわからないんです。
『百物語』をやる前、私はずっと地方巡業をやっていました。一度巡業に出ると全国で30箇所ぐらい毎日のように同じ演目を続けて、それが終わると次の作品に進み、また稽古が始まる。そのサイクルが身体に染み込んでいます。『百物語』もそれと同じでした。やり終えたし、もう十分やったはずでした。

残間
九十九話目を終えた直後は、どういう心持ちだったんでしょう。

白石
次の芝居をやらないと! これからはテレビもやろう! という気持ちでした。ところがしばらくして、ふと本棚を見ると『百物語』の台本が目に入ったんですね。ページを開くとびっしりと書き込みがありまして。
私はものすごく台本に書き込むんですよ。色鉛筆も使って。鴨下さんにこれじゃ読めないよって言われるぐらい。それで開いた瞬間に、「ああっ!」という感じで持って行かれてしまいました。

残間
(笑)あちらの世界へ。

白石
もう目が離せなくなってました。次から次へとページをめくっていましたね。

残間
今回で第三弾になるアンコール公演は、11月から地方公演が始まって東京公演は12月末の押し迫った時ですが、必ず観に行かせていただきます。

白石
ありがとうございます。コロナのおかげでずいぶん予定より公演が減ってしまったんですが、それでも20箇所ぐらいでやります。ぜひ来てください。



白石加代子「百物語」公式ウェブサイト


第一夜 3話 筒井康隆作「如菩薩団」


(Part 2に続く)





Part1 もう一度やりたくなる舞台はめずらしい

Part2 芝居の世界に魅せられて

Part3 「演劇はコロナに負けない」


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