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コロナ以後の日本に何を築くか。 2/3



Part2 ウィルスとは何か


私たちはウィルスというとんでもない化け物と対峙している

残間
では今、世界を襲っているコロナについて、月尾さんの所感を伺いたいのですが。

月尾
コロナウィルスの本質は何かということを、私たちは理解する必要があると思います。

①ウィルスはとても小さい
ウィルスは目に見えません。これが人間に恐怖をもたらしています。細菌の大きさは1mmの千分の一くらいですが、ウィルスさらにその数十分の一です。ウィルスは電子顕微鏡を使わないと見えません。

②ウィルスは人間よりはるか以前から地球に生存している
これがさらに重要な特徴です。ウィルスは38億年前に地球に登場していますが、現在の人間の直系の祖先が登場したのは20万年前で、ウィルスに比べれば0.005%の時間しか地球に生存していません。

③ウィルスは生物ではない
ウィルスは生物の条件である自己増殖する能力のない存在のため、どのような環境でも生き延びることができます。
例えば北極圏の永久凍土が溶けるとマンモスとか、スターリン時代に粛清された人間の遺体などが出てきますが、そのようなマイナス60度の環境でもウィルスは残っています。そして気温が上がって活動しやすくなると、出てきて生物に感染する能力があります。ごく最近の例では海底数千メートルの土の中でも発見されています。

④ウィルスは絶えず変化する
ウィルスは感染する時に変化する能力があります。例えば残間さんから僕に感染する時にウィルスは変化します。極端にいうと残間さんに効果のあるワクチンを開発しても、僕には効かないかもしれないのです。

このような巧妙な仕組みのおかげで、38億年も存在し続けているわけです。こういう化け物と対峙しているんだということを知る必要があります。

残間
ウィルスの存在を人間が知ったのは、いつぐらいなんでしょう。

月尾
電子顕微鏡が発明された20世紀の前半です。これまで人間が発見したウィルスは約3万種と言われ、そのうち人間に感染するのは8種類ぐらいのようです。ただしウィルスは推定で32万種くらいいると言われていますから、これからもどのようなウィルスが現れるかわかりません。

人間の生活圏の拡大がパンデミックを産み出した

残間
それにしても今回、なぜこんなに大被害を生んだんでしょうか。
月尾
5つの理由があります。

①人口が増えすぎた
現在、人類は80億人になろうとしています。残間さんが子供の頃の3倍以上になっています。その結果、人間は密集して暮らすことが多くなり、伝染しやすくなります。

②移動人数が増加した
その人間が大量に移動するようになりました。戦前に日本から海外に旅行する人は例外でしたが、現在では誰でも海外旅行をする時代です。結果として伝染しやすくなります。

③移動が高速化した
コロンブスが大西洋を横断するのに69日かかっていますが、現在の旅客機では5時間を切っています。それくらい高速で多数の人間が世界を移動するようになり、伝染の機会が増大するようになっています。

④未知の世界に人間が進出するようになった
「コロンブス交換」という言葉があります。コロンブスが大西洋を横断して以後、旧大陸と新大陸のあいだで人間だけではなく、食物、動物、植物などが移動しました。ジャガイモ、トマト、タバコが旧大陸に広まり、新大陸にコーヒーや馬が広まったのですが、感染症も交換されました。

コロンブスが新大陸に到達したとき、コレラや天然痘など8種類くらいの感染症を持ち込んでいます。その結果、免疫のなかった北米や中南米の先住民族が大量に死んでいます。メキシコでは先住民族の9割が天然痘で死んでいます。一方、新大陸からは梅毒や黄熱が旧大陸に持ち込まれ、世界に拡散しました。

現在、同じ現象が発生しています。アフリカの人口が急速に増加し、そのため未開の土地に人間が進出していきます。その結果、これまでジャングルの奥地に潜んでいて人間の世界には出てきていなかったHIVやエボラ出血熱のウィルスが、人間に取り付くことになりました。

今回の新型コロナウィルスが生息していた中国の武漢の山奥に人間が足を踏み入れた結果、人間社会に拡散したのかもしれません。
人間が増えて未開の空間に進出していくことが重要な要因です。

⑤地球の温暖化
これは日本でもすでに問題が発生しています。2014年に代々木公園で蚊に刺されたことによるデング熱の患者が発生しました。
それまでも日本にはデング熱の感染者がいましたが、それは外国で感染した人が帰ってきた場合です。代々木の例は、初めて国内でヒトスジシマカという蚊に刺されたことによる感染です。

以前、ヒトスジシマカは東京あたりでは冬になれば死んで越冬できませんでした。ところが冬でも暖かくなったため越冬できるようになり、勢力を広げています。ヒトスジシマカが本州の北端まで到達するのは2035年くらいと推定されていましたが、2015年に到達してしまいました。温暖化の影響です。

そしてウィルスの問題から見ると、温暖化の最大の影響は永久凍土が溶けていくことです。今年の6月23日にシベリアの北緯67度という北極圏にある都市の気温が38度を記録しました。8月の東京と同じくらいです。

当然、永久凍土が溶け、内部に凍っていたトナカイやマンモスが出てくる。何億年も氷の中に潜んでいたウィルスも一緒に出てきます。その中には人間には未知のウィルスもいます。地球はそういう状態になっているということです。

残間
でも、それはもう止められないんですよね?

月尾
止められません。

残間
今日みたいな気温になると、よくこのような時期にオリンピックをやる気になったと思ってしまいます。

月尾
僕は以前から東京オリンピックの開催には反対していましたから、まったく同感です。
それ以上に、我々はこの環境変化を何とか生き延びることができそうですが、孫子の世代は大変な環境で生活することになると思います。


(Part 3に続く)








Part1 すでに日本は中流国なんです

Part2 ウィルスとは何か

Part3 コロナ禍はチャンスでもある