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描きたかったのは自分の足で立つ女 3/3

(聞き手/残間里江子 撮影/岡戸雅樹 構成/髙橋和昭)

Part3 感動の共有は国境を越える


国際交流のきっかけは韓国の漫画家との語らい

残間
里中さんは、最近は漫画を通した国際交流にも力を入れてますよね(NPOアジアMANGAサミット運営本部代表理事)。そもそものきっかけは何だったんでしょう。

里中
90年代に韓国の漫画家と日本漫画の違法コピーの是正について話し合う機会があって、それがきっかけで仲良くなったんです。

彼らは小さい頃、日本の漫画を見て育ったそうなんですが、後になって日本人が描いた漫画だと知ってすごいショックだったと。当時は日本人の作品として売ってませんでしたからね(1998年頃まで韓国は日本の大衆文化を規制)。誰かが架空の漫画家名で描いたことになってたんです。
韓国の漫画家たちが小さい頃から感動してきた漫画が、大きくなって日本の漫画の海賊版だと知って、ものすごくショックだったそうです。

そりゃプライドも傷つくだろうと私は思ったんですが、そうではなかったんですね。彼らは小さい頃から、日本人だけがこの地球上で人間じゃないと教わっていました。ところが、その日本人が描いたものに感動するというのは、日本人が自分と同じ感性を持ってるのかと知って、ゾッとしたと。

残間
そこなんですね。

里中
ショックで立ち直れなくて、一週間ぐらい悩んで思い直したそうです。きっとあの人たちは在日なんだと。だけど、それが違うのはすぐわかったそうです。こんな確率で作者がみんなが在日なわけはない。

そうやって悩んで、ようやくわかったことがあったといいます。自分は日本人を直接には知らなかったと。教科書や周りから教わった日本人は、恐ろしい鬼だった。日本人とつきあったら裏切られるとか、日本に行って韓国人とわかったら、ご飯も出してもらえないとか、石をぶつけられるとかいうのを信じて育ってきたと。

だけどハッと気がついたんですね。もしこういう感動的な作品を描いたのが本当に日本人だとしたら、日本人は鬼ばかりじゃないだろう。しかもこんなに多くの作品がある。要するに自分は日本人を知らない。そういえば、また聞きでしか知らない。じゃあ、日本に行ってみようとなったそうです。

そうしたらどこに行っても優しくされて、親切にされて、石もぶつけられないし(笑)、嫌な思いはしなかったと。つまりそれまで教わってきた日本と、自分が感動した作品から受けた実感との違いを、肌で感じることができたようです。
韓国の方にそう言われて、ああ漫画に関わっていて良かったなって思いました。いくら言葉を尽くしても、どうしてもすれ違うことってあるんですが、感動を共有するというのは、一番わかりやすい。

残間
私たち自身にも、相手を知らないことで起こる誤解はあると思います。それにしても、互いの創造性を認め合うというのは、やはり格別なものがありますね。
里中
素晴らしいことですよ。世界中のみんなが、作品のあのキャラクターの生き方がよかったとか共有する。映画や音楽が共有されるのと同じで、漫画もそういう役割を果たせる。ましてや子供世代に馴染むものだから、こういう理解は広がっていくかもしれないと思いました。
それで調べると東南アジアあたりでも日本の漫画が流行っている。最初は全部、海賊版で広まっていったんです。とにかく海賊版とはいえ、興味を持たれて、日本の漫画がどんどん読まれていた。

いろんなことで理屈をこねあってると、意見って食い違ったりするんですけど、この主人公のどこが好きか聞くと、そういう感想って一緒なんですよ。
例えば一見カッコいいヒーローを、私たちは実はいたいけで可愛いと思ったりする。そこは世界共通で、強いヒーローというより可愛いやつなんだ、キュートなんだと言われたりすると、同じだなと思います。

面白いのは、世界中のお母さんがクレヨンしんちゃんを嫌がるんです。

残間
あーなるほど。

里中
うちの息子にあんなの見せたくない、あんな子になったらどうしよう。どうしてあんな漫画を描かせるんですか! 何で注意しないんですか! 日本のお母さんから言われるのと同じことを、アジア中のお母さんが言ってるんですよ。面白くって。
私としては、まあまあお母さん、男の子が正常に発育するってこういうことですよと答えるんですが。

まあともかく、それで韓国の人と仲良くなって、是非一緒に何かやろうということになりました。合同でシンポジウムをやろうとか、展示会をやろうとか、本を出そうとかという話になったんですが、お互いにノッてしまって、こうなったら周りも誘おうとなったんですね。
それで香港と台湾を誘って、各国が持ち回りでフォーラムや展示会をやって本も出しました。さらにここまで来たら中国も誘おうと。

残間
日韓は徴用工問題、韓国のホワイト国除外。そして中国台湾・中国香港の問題もある中で、政府間とは別に、その辺の線が繋がっているのは貴重ですね。

里中
そうですね。ただ中国もだいぶひらけてはきたんですけど、やっぱり国の管理が厳しい。

私たちの中では国と地域という形で、香港は香港のまま、台湾は台湾のままでやっていますが、去年、台湾でイベントをやったんですよ。それでオープニングで台湾総統が来ちゃったんです。一緒にテープカットしたんですけど、中国から来た人たちは、その間は一切会場には入らないです。同じ会場にいたってバレたら、二度と中国から出国できなくなると。
それで色々やりながら、香港返還があっても、台湾と大陸があれこれあっても、自分たちは文化は別というスタンスでやってきました。今年からはマカオとマレーシアとシンガポールも正式に加わって、さらに規模が大きくなりました。

事務局を運営したり色々大変なんですが、すごく面白いのが、そういうのを一生懸命手伝ってくれてるのが、中国人と韓国人と日本人の子たちで、入り乱れてやってます。事務局のチーフは中国人ですし。そういう両方の文化を知っている子たちと触れ合ってると、楽しいですね。
平気で好き勝手なこと言ってますよ。時々お茶しててハッと気がつくと、日本人は私だけということもあります。率直に話せると互いの本音がわかって面白いですね。

今のところの心配は、グループの香港の仲間です。「みなさん、僕は大丈夫です」と言って写真を送ってくるんですよ。「でもみんな、今来ない方がいいですよ」と。どうなるんでしょうね………

残間
何とか無事に治まってほしいものです。

さて、本職の漫画はもちろん、後進の指導もありますし(大阪芸術大学キャラクター造形学科学科長)、いろいろとお忙しいとは思いますが、これからも活躍を期待しています。
今日は長い時間、楽しいお話をありがとうございました。


(終わり/2019年8月取材)








Part1 少女漫画にニューヒーローを

Part2 万葉の世界を描く

Part3 感動の共有は国境を越える



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