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時代が変われば、扱う事件も変わります。1/3

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テレビのコメンテーターとしても活躍している弁護士の田中喜代重さん。25歳で検事となり、その後32歳で弁護士に転じています。そして現在64歳。永く法曹界で経験を積み重ねてきた田中さんには、今の日本がどんな風に見えているのでしょうか。(残間)
(聞き手/残間里江子  構成/髙橋和昭)


vol.1 日本に弁護士は根づかない?


残間
お久しぶりです。今日はよろしくお願いします。

田中
こちらこそ、よろしくお願いします。

残間
今日は法律家という立場から、いろいろとお話を聞かせてください。

さて、田中さんとはテレビでのコメンテーターの仕事がご縁で、もうずいぶん永いおつきあいになります。今でこそテレビに弁護士が出るのは珍しくないですが、田中さんが出始めた頃は少なかったんじゃないですか。

田中
そうかもしれませんね。私の検察時代の先輩の大澤孝征(たかゆき)さんが、一足早く出演されていて、最初はそのピンチヒッターでした。日航機の御巣鷹山墜落事故の時だったと思います。
僕は32歳で検事を辞めて弁護士になったんですけど、なりたての頃でヒマだったんですよ。(笑)

残間
今は弁護士のコメンテーターの方は増えましたね。それからお医者さん。今はこういった資格がいるような専門知識がないと、おいそれと社会問題についてコメントできない雰囲気があります。すぐネットなどで叩かれますから。

田中
でもはっきり言って、弁護士は構造不況業種になりつつありますね。
まず事件数が減っています。訴訟案件でいうと全盛期の三割以上減。それでいて弁護士の数は私がなった時の倍くらいになってます。今、日本に弁護士は3万人以上いますからね。

残間
日本もアメリカみたいに訴訟社会になるだろうから弁護士を増やそうと、法科大学院制度など、いろいろと司法改革がありましたね。

田中
ところが弁護士のニーズは、思っていたほど伸びなかったんですよ。

残間
それはどうしてなんでしょう?
田中
まず訴訟以外の紛争解決手段というのが、いろいろと出来てきました。例えば以前は交通事故が訴訟になることが多かったんです。昔は自賠責保険の最高額が、死亡時でも千500万円しかありませんでしたから。その後3千万円に引き上げられ、今では任意保険に入るのが常識になり、以前ほどは揉めなくなりました。

それからこれは我々の責任もあるかもしれませんが、結局、訴訟をやるメリットをあんまり感じてもらえないんでしょうね。お金や時間をかけても、それに見合う見返りがない印象。コストパフォーマンスが低いと。

残間
弁護士でも億単位で稼ぐ人がいる一方で、最近は年収200万円程度の方もいるようで、格差がすごいみたいですね。

そういえば昔と違って弁護士事務所も宣伝ができるようになりました。電車広告などでよく見かけます。まあサラ金の過払いか B型肝炎訴訟ばかりですけれど、業界の不況打開には役立っているんでしょうか。

田中
弁護士事務所の宣伝と言ってもねえ‥‥‥。
結局、弁護士の仕事って、最終的には依頼者と弁護士個人の信頼関係や評価で決まる部分が大きいんですね。だからオフィスがきれいだとか、雰囲気がいいみたいなことを伝えてもしょうがない。
でも情報を開示して、料金体系もきちんと伝えることで、間口を広げたり敷居を下げる効果はあると思います。

残間
その意味では、テレビに出て、弁護士個人のキャラクターを伝える方がいい宣伝かもしれませんね。こういう意見の人なら信頼できそうだとか。逆に反発されることもあるでしょうけれど。

田中
最近は弁護士事務所のサイトが、所属弁護士の動画を公開してますね。ソリが合う合わないは判断できるかもしれません。 あとは営業といっても‥‥‥弁護士の営業ってどうやるんですかね? マメな人は名刺交換会や会合に顔を出してるみたいですが。

残間
マーケットが小さくなっている一方で、弁護士の数は増えているとなると、難しい商売になっていることは察しがつきます。

田中
かつては確かに弁護士資格は、プラチナペーパーでしたけれどね。昔は黙って座っていても事件がやってきましたし、中には美味しい事件もありました。
今は、あまり大きな事件もないんですよ。大手の弁護士事務所だと、企業のM&Aなんかを手がけると多額の費用が動きますが、一般的な訴訟だと億単位の案件は少なくなった印象があります。
残間
国内がダメならグローバル化はいかがでしょう。

田中
大手の事務所はアジアやアメリカに進出していますよ。でも基本的には弁護士って、ドメスティックな商売なんです。他の国に行ったら、ただの無資格者ですから。

残間
なるほど。そういえばアメリカだと、州が違っても弁護士資格が別という話を聞きますね。

田中
もちろん当地の弁護士と連携して、アドバイスなどは可能です。でも法廷に立つことはできませんね。

残間
当たり前ですけれど、法律が違うんですものね。

田中
(笑)はい、全然違います。

残間
弁護士の世界がいま厳しいということはわかりましたが、もったいないですよね。ものすごく勉強して資格を取ったのに、仕事がなくて困っている人すらいる。
一般の人が訴訟の世界とは縁遠いことはわかりますが、訴訟以外のもっと身近なところで、弁護士の能力を活かすことはできないんですかね。

田中
弁護士を増やそうとした背景には、そういう話もあったんです。訴訟に限らずみなさんの生活の場面に入って行って、手助けをするというニーズはあるはずだと。企業内弁護士だとか、法テラスのような公設の事務所を開設しようとか。

でも結局、企業内弁護士は増えていません。その原因は弁護士というのは専門職なので、会社のヒエラルキーの中に入って行きにくいんですね。テレビ局のアナウンサーと同じで、ラインに上っていかない。要するに法務部の部長ぐらいにはなれるけど、他の部署に行ったり取締役にはならない。でも、それでいて元々の給与のベースは高い。
そうなるとなり手もあまりいないし、会社の側も扱いづらい。というわけでインハウスロイヤーというんですが、企業内弁護士は増えませんでしたね。

では公設の事務所はどうかというと、予算の関係で身入りが少なくて、これもなり手があまりいない。
弁護士は医療と違って健康保険みたいなものがありません。それでいて業務の性格上、薄利多売というわけにはいかないんですね。一回話をしてハイ終わりじゃなくて、一度抱えたら何年も見ないといけない。するとそれに見合う単価が必要になります。そういう経済的な問題がありました。

先ほども言いましたように、訴訟は減っています。裁判をしてもお金と時間ばかりかかるだけで、たいして得はしないだろうと、相変わらず皆さんは弁護士を敬遠してるわけです。

残間
まあ一般の方ですと、弁護士さんと関わるとなると、離婚か相続争いぐらい。できれば一生関わりたくないと思っている人も多いかもしれません。

田中
私が弁護士になった時も“裁判沙汰”と言って、皆さんなかなか弁護士のところには行かないし、敷居が高いものでした。その傾向はむしろ加速してますね。にも関わらず弁護士の数だけが増えてしまった。

日本社会もアメリカ化するかと思われていましたが、やっぱり多民族・多宗教・他言語国家とは違うんだと思います。アメリカみたいな国だと、国をまとめるルールって法律しかないんです。
ところが日本はほぼ単一民族・単一言語で、おまけに無宗教。すると本質的なところで、ナアナアでまとまるんですね。

残間
私も「いろいろ言っても、どうせみんな最後は死ぬんだし」という、不思議な無常観みたいなもので決着するところがあります。

田中
(笑)そうそう。それに日本人は諦めがいいんです。欧米人は異様に諦めが悪いですよ。

残間
向こうは決着をつけるには弁護士さん必要ですよね。

田中
日本人は、つい「これが私の運命よ」となりがち。

残間
(笑)「人生の授業料だった」とかも言いそう。

田中
争いごとに向いてない民族なんだと思います。

残間
行政が読み違えたと言えばそれまでですが、若い弁護士の方には頑張っていただきたいものです。

(つづく)

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