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上向きの日も、下向きの日も、今を楽しむ 3/4

浅葉克己さん(アートディレクター)

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vol.3 飽くなき文字(タイポグラフィ)へのこだわり



残間
2005年に『七つの顔のアサバ展』という個展を開催されていますが、浅葉さんって本当にいくつもの顔をお持ちですよね。アートディレクター、卓球選手、タイポグラファー、学校の先生……。
この中で、あえて「一番浅葉克己らしい」と思う職業を選ぶとしたら、どれでしょうか。

浅葉
うーん……。やっぱりタイポグラフィかなあ。なにしろ僕は、生まれが金沢文庫だから。

残間
どういうことですか?

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浅葉
金沢文庫って、鎌倉時代に北条家の一族が蔵書を納める書庫として造られた場所ですからね。

それから、日蓮宗などの仏像なんかがたくさんあるんですよ。鬼が踏んづけられて、ギャッといってるようなのとかね。
僕は中学生ぐらいから、その仏像たちを写生するために、お寺に入り浸っていたんです。
番台みたいな入口のおばさんの目をごまかし忍び込んで、高校までは入場料を払わずに(笑)。

ときどき藝大の先生が来て、僕の絵を見てくれることがありました。
で、毎回褒められたのは、絵ではなくて、そのわきに書いたサイン。「この字は本当に君が書いたのか」って、絵は全く褒めてくれない(笑)。

残間
へぇー。当時から、何かしらあったんですね。
その頃は書道は……

浅葉
いや、全然。習い出したのは19の頃です。
佐藤敬之輔さんのところでデザインや文字の修業をしたあと、書道が重要だと思い、町春草さん(※)のもとに弟子入りしたんです。でもお弟子さんがおばさんばっかりで(笑)。馴染めなくて、1年でやめちゃった。

※町春草(1922-1995)……書家。毎日書道展審査会員・なにはづ書芸社主宰。日本書道美術院再建書道展最高賞・国際賞オリベッティ受賞。フランス芸術文化勲章シュバリエ章受章。著書に『書芸の瞬間』、句集に『紅梅』等がある。

再開したのは20年前ですね。「アジアのタイポグラフィックを極めるには書の力も必要だ」と思って、石川九楊さん(※)のもとに弟子入りしました。

※石川九楊(1945-)……書家・書道史家。1991年『書の終焉』でサントリー学芸賞受賞。2002年『日本書史』で毎日出版文化賞受賞 。2009年『近代書史』で大佛次郎賞受賞。

とくに楷書に魅力を感じて、徹底的に寝ずに書きました。
だけど、楷書だけやってても自分の字はできないんですよ。草書をやらないといけない。

このあいだ書いて、気に入っているのはこれ。「南无不可思議灮佛」。なむふかしぎこうぶつと読みます。不思議大好きみたいな語感ですよね。

これは僕の字体ではなくて、浄土真宗の親鸞が書いたものを模写したんです。鎌倉時代は横線が長いとバランスがいいと思われてたんだなぁ、と思いました。
しかし、意外に彼も下手ですよね。試しに書いてみたら、一晩にして彼を超えてしまった(笑)。

「血肉化」は、「デザインを血肉化する」というコピーを考えていて。いいでしょう。

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残間
肉の字が丸くて美味しそう。絵を描くような文字ですよね、浅葉さんの字って。
絵を描くといえば、中国の少数民族の間で使われている「トンパ文字」(※)という象形文字を広く知らしめましたよね。

※トンパ文字……現在も使われている、世界で唯一の生きた象形文字。中国の少数民族ナシ族のうち、トンパと呼ばれる司祭の間でのみ受け継がれてきた。約1,400の文字が確認されている。

浅葉
トンパ文字の次に気になっているのは、古代オリエントで使われていた「楔形文字」(くさびがたもじ)です。
紀元前 3500年頃から、 3000年間ぐらい使われていた文字です。粘土板に、アシで作った器具を押し当てて文字を書いていたらしいんですが……。誰が最初にこういうことを始めたのかが、気になって仕方がない。こういう文字です。

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残間
「六日と六晩にわたって、風と洪水が押し寄せ、台風が国土を荒らした……」。

浅葉
3.11に繋がる部分もあるし、今こそ考えるべき文字なんじゃないかと思っていますね。
今年の10月から来年の1月にかけて、市原湖畔美術館(千葉県)で個展を開くんですが、そのときのテーマにしようかな、と。

残間
楔形文字ですか。新境地ですね。

浅葉
構想はずっとあったんです。
きっかけは中学か高校の頃に読んだ中島敦の「文字禍」という短編小説。授業で読んだのかな。中島敦は大好きで、全集もボロボロになるまで読んだほどですよ。

「文字の聖霊」の話なんです。
単なるバラバラの線に、一定の音と一定の意味とを持たせる「文字の精霊」の存在が、古代アッシリアのある博士によって発見されるんです。この文字の聖霊によって、社会に文字というものが生まれる。博士は文字があまりにも社会に影響を与えすぎているのが恐ろしくなって、「これを盲信してはいけない」と大王に忠告するんですね。すると、怒った文字の聖霊に呪い殺されちゃう。という話。

面白いですよね。どこかでこの物語も形にできればと思っています。

残間
何かの折に、そうやって過去の着想が繋がっていくんですね。

浅葉
着想はどんどん増えていきますよ。実現し損なったことが増えていきますからね。
(つづく)

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vol.1 アートも卓球も書道も、まだまだ続きます

vol.2 卓球も人生も、来たものを打ち返してここまで来た

vol.3 飽くなき文字(タイポグラフィ)へのこだわり

vol.4 誘いが来ないなら、自分から行けばいいんです

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