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睡眠が起こるメカニズムと睡眠薬の関係

残間 内山先生は睡眠の研究がご専門なんですが、
「眠り」というのは誰もが興味があると同時に、
不眠や眠りが浅いなど、多かれ少なかれ
悩みを抱えているテーマだと思います。
今日はよろしくお願いします。
内山 こちらこそ、よろしくお願いします。
残間 まず日本の睡眠研究なんですが、
世界的に見てどうなんでしょう。
進んでいる国なんですか?
内山さんはいかがですか?
内山 今、惜しいことに3位なんです。
論文、業績などのインパクトを総合して、
順位をつけたレポートが出たことがありまして、
その時の結果です。
1位がアメリカ、2位がドイツ、3位が日本。
以下フランス、イギリスという感じです。

ランクづけに関しては、
論文の数、臨床面など、いろいろあるんですが、
日本がポイントを稼いでいるのは、
基礎研究のところですね。
もう少しでドイツを抜けそうです。
残間 アメリカが一位というのは、
やっぱり臨床面が強いのですか。
内山 一言で言うのは難しい面があります。
一般的に、アメリカはトップレベルのところは
先端的な治療をしたり、すごく進んでいるんです。
でもこれは全体から見ると限られた専門的に、
睡眠の医療をやっている機関であって、
日本の様に、望めば誰でもそうした医療に
アクセスできる訳ではありません。

医療全般に関していえることと思いますが、
アメリカでは保険がプライベートなので、
国の医療レベルを一言では言えないところがあって、
公的な保険制度のある国と同列で比較するのが
難しいことになります。

つまり、向こうはどのような保険に入っているかで
治療が変わってくるのです。
残間 らしいですね。
あなたはこの病院に行けとか、
保険会社が決めるとか。
内山 日本だと最新の治療が出てきて、
それが医療保険で認められると、
日本全国の人がそれを受けられます。
そしてもちろん保険が適用される。
しかしアメリカでは、そうはいかないんですね。
残間 高額医療ということになって、
一部の人しか受けられないと。

不眠治療というと、すぐに思いつくのは睡眠薬ですが、
日本は睡眠薬の消費量というのは多い方なんですか?
内山 1998年の全国疫学調査で、
「この一ヶ月以内に睡眠薬を飲んだことがありますか」
という問いに、約3千人から回答がありました。
「はい」と答えたのは男性で3.4%、女性で5.4%でした。
この数値は世界的に見て中間よりやや低いくらいですね。
先進国、ヨーロッパの国々よりは低い方です。

このように日本では男性で30人に1人、
女性で20人に1人が睡眠薬を
飲んでいることになるんですが、
若い人はほとんど飲んでいません。
実際は女性だと50代から上が10人に1人飲んでいて、
男性だと60代以上で10人に1人が飲んでいると
考えてもらっていいと思います。
残間 睡眠薬とは別に入眠剤というのもあるようですが。
内山 入眠剤や睡眠導入剤と呼ばれるのは、
実は商品のキャッチフレーズのようなものです。
作用時間が短いものをこう呼ぶことがありますが、
分類上は睡眠薬です。
睡眠薬という言葉を避けようとするのは、
日本の場合、自殺や犯罪を
連想させるせいかもしれませんね。
  いずれにせよ日本全体で見ると、
睡眠薬というのはお年寄りの薬なんです。
ですから睡眠薬の使用量が多い国というのを見ていくと、
どうも高齢化が進んだ国が多くなっています。

眠れない「不眠」について考えるには、
まずは、なぜ私たちが眠るのかを考えると
理解しやすいと思います。
睡眠が起こるには三つ理由があります。

まず睡眠が不足してくると脳が疲れてきて、
それを回復しようというメカニズムが働き眠たくなる。

次に僕たちは昼行性動物なので、
夜になると少し血圧が下ったり、
身体の中でエネルギーを燃やす機能が下ってきます。
これを24時間周期で繰り返すんですが、
夜になると休んでいると、自然に眠たくなる仕組み。
この体内時計による眠気があります。

三番目は、興奮がおさまると眠たくなります。
残間 え? どういう意味ですか?
内山 起きている時には
目を覚ましておくシステムが働いていて、
このシステムの働きがおさまらないと眠れません。
つまり、夜に恐ろしいことがあったりして
興奮した時は、眠れないのが正常なんです。
動物の時代から受け継いでいるものですね。
この三つです。

今あるほとんどの睡眠薬は、
最初の「睡眠不足になると眠たくなる」
という仕組みに働きかけるものです。
脳の働きを抑えて眠気を誘う。

これに対して最近出た「ロゼレム」という薬は、
二番目の体内時計に働きかけるもので、
身体に今が夜であることを知らせて、
眠る体制にもっていこうとします。

さらに三番目の眠りの要因に狙いを定めた、
目を覚ましておくシステムを
シャットダウンすることで眠りを誘おうという薬が、
今開発中です。
残間 睡眠薬にも眠りのメカニズムに対応して、
種類があるんですね。

睡眠薬に頼らず、
自然に眠りに入る方法ついてはどうですか。
普通は昼間にしっかり身体を動かしていれば、
夜は眠たくなりそうですが。
内山 ほどよい運動は眠たくさせますが、
力いっぱい夜まで運動すると、
反対に眠れなくなります。
嫌なことがあると頭が冴えてしまうのと同じで、
運動って、一番脳を使うのですね。
つまり、目を覚ましておくシステムが
興奮してしまう。疲れてきている一方で、
これが眠りを抑えてしまいます。
だから「今日は早くからぐっすり眠ろう」
と思って、夜までめいっぱい運動すると
眠れなくなってしまうのは、このせいです。

データとしてあるのは、
普段から毎日少しずつ運動している人は、
不眠にならないということ。
それでどんな運動をしている人が
よく眠れているかは、まだわかっていませんが、
2007年の厚生労働省の調査で調べたので、
そのうちにどのような運動が
睡眠にいいかがわかってくると思います。
残間 たぶん「歩く」とかでしょう。
内山 そうですね。激しくなくてほど良いものが、
上位になると思います。
(続く)