残間 |
最近「『解説』する文学」という本をお出しになりました。 関川さんって文庫の巻末にある解説を 100冊以上も手がけていたんですね。 この本ではその中から厳選された 24編が納められていますが、 解説だけを集めた本って、かなりユニークですよね。 |
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関川 |
これは編集者のアイデア。 この本の話があって、 久しぶりに自分の原稿を読み返してみたんですが、 つまらなくはなかったので、出すことにしました。 |
残間 |
関川さんの解説は、その作品にとどまらず、 著者の執筆時の状況や、時代背景にまで踏み込んで いきますよね。 特に竹中労さんの『芸能人別帳』のものとか、 面白く読ませていただきました。 |
関川 |
しかし、これは報われない仕事でね。 その作品以外にも何冊も読まないといけないし。 みんなやりたがらないですよ。 |
残間 |
文庫の解説は私も何回かやったことがあるんですが、 私の場合は著者が知り合いの場合が多くて、 何とも書きづらい面があります。 |
関川 |
著者とは、できれば会わない方がいいですね。 テキストだけを精読するのがいちばんです。 ご本人は、誰でもそうなんだけど、 けっこう偏向した自己像を持っている。 |
残間 |
偽悪者ぶることもありますね。 |
関川 |
そう、それも含めて。 本人が自分のことをわかっているケースというのは少ない。 というか、現実には稀でしょうね。私も含めて。 自分がこうありたいと願っていることは、あるでしょうが、 つまり、人は「見えた通り」ですよ。 その方が実情に近い。 |
残間 |
それで、よかれと思って書いたことでも、 「ちょっとここ、削ってくれませんか」って 後から言われたりします。 |
関川 |
そういう時は花束を渡すつもりで書けばいいんですよ。 それで著者から何か言われたら、 相手の嫌いな花だけ抜いちゃえばいいんです。(笑) |
残間 |
この本には司馬遼太郎さんの作品を解説したものが 3編入っていますが、ちょうどNHKで 『坂の上の雲』が放映されていて、今まさに佳境です。 関川さんは脚本諮問委員の一人に名を連ねていますけれど、 どういうことをやったのですか? |
関川 |
脚本の第一稿は、民放で活躍されていた 今は亡くなられた方(野沢尚氏)が お書きになったんですが、多分に民放的というか、 物語は恋愛でつながないといけない、 みたいな"信心"が感じられました。 戦後的な流行の"信心"だと思うんですけど。 せっかくの作品を、民放的にしてしまう必要はない、 そんなことを全体的なアドバイスとして言いました。 あとは史実の誤りを訂正するとかですね。 |
残間 |
実際にドラマをご覧になっていかがですか。 評価は? |
関川 |
第一回の試写しか見てないんですが(笑)。 これはいいなと思いました。 今までのテレビのスケールを大幅に超えていて、 特にCGのレベルが高いです。 NHKしか作れないでしょう。 |
残間 |
私は司馬遼太郎さんというのは、実は苦手でして。 女性にはとっつきにくいですよね。 話の横糸に恋愛が絡んでこないので。 |
関川 |
歴史小説と恋愛は、原則としてですが、 相容れませんからね。 |
残間 |
忠臣蔵や二・二六事件には、「女たちの〜」というのが ありますよね。 「女たちの『坂の上の雲』」というのはどうですか? |
関川 |
だいたい司馬は女性に興味がないんですよ。 女の人に読まれにくいのは、ある意味当然です。 女が好きでないのに無理に女を書くと ロクな事にはならなくて、 松本清張も女に興味がなかったんですが、一生懸命書いても、 そこはちょっと滑稽だったね。 |
(続く)