残間 震災が起こって、すぐにでも
大石さんに話が聞きたい、ウィルビーのメンバーたちに
大石さんの話をお聞かせしたいと思っていました。
今日はよろしくお願いします。



大石 こちらこそ、よろしくお願いします。



残間 地震が起こった直後、プロとしては、
まずどう受け止めました。



大石 「来た!」という感じですね。
それで長かった。阪神淡路は13秒。
わずか13秒であれだけのエネルギーを解放したんですが、
今回の地震は2分から3分、
しかも何百キロに及ぶ広範囲なものでした。
同じ地震でも、だいぶ阪神淡路の時とは違います。



残間 横揺れでしたね。
これまでは縦揺れの方が怖いというイメージでしたが、
横揺れもあれだけ長い時間だと凄いものですね。



大石 そう。地震といってもいろんな種類があります。
神様というのも残酷な方でして、
一回の地震では全てを教えてくれないんですね。
ですから、地震が起きる度に私たちは学んできました。
一番多く学んだのは関東大震災でした。
あの震災で私たちは、建築物や橋には水平加振力を考慮する、
つまり横方向から力が加わることを想定して
設計しなければいけないということを、
地震対策として入れたんですね。






残間 それまでは、そんな考えはなかったんですか?



大石 ありませんでした。
それほど大きな建造物もなかったですし。
その後も大きな地震が起こる度に私たちは学んでいます。

昭和39年の新潟地震(M7.5)では液状化です。
それまでも液状化するということは知っていたんです。
地盤を掘れば液状化の跡が出てきますから。
わかってはいたんですが、この液状化というものを、
建物を建てるときにどれだけの力として
考えなければならないか、
というのを教えてくれたのは新潟地震なんです。
県営住宅がそのままパコーンと倒れたりしましたから。
それ以来は液状化しそうな地盤のところは、
それに備えた設計方法に変わったんですね。
それ以後も、昭和43年の十勝沖地震(M7.9)の時は、
橋りょうの設計基準が変わりました。

当然のことながら阪神淡路でも多くのことを学んでいます。
あの時は、建物が使い物にならなくなるぐらいに
壊れることはあっても、それが倒れて多くの人が
亡くなるといったことがないような、崩壊しない
設計の仕方を考えましょうということになりました。

もちろん、今回の地震でも学ぶと思います。
ただ、今回の地震は、地震としては
阪神淡路のようには大きくないんですね。
ガルという重力の加速度の単位があるんですが、
ふだん我々は約980ガルで地球に引っ張られています。
阪神淡路の時は2千ガルを超えました。
今回の地震は重力の加速度並み。
ですから国道45号線の橋も地震で倒れたんじゃないですよ。
津波が来てそれが引く時にやられてしまいました。
今回に関して学ぶべきは津波ですね。
これからあの地域でどういう住まい方をすればいいのか、
居住地と漁業の関係をどうするのか、
その他、多くの課題を我々に与えたと思います。

と同時に、クラブ・ウィルビーのメンバーは
首都圏の方が多いと思いますが、私たち首都圏の暮らしが、
いかに東北、福島の電力で成り立っているかということ。
これまで首都圏の人たちは、自分たちが払った税金を
地方の公共投資にばらまくのかと、反対の声の
大合唱でしたが、電力を供給してくれている土地が
便利になったり安全になることに対して、
供給を受けている側が冷淡で良かったのか。
そこを首都圏の人は改めて考えるべきだと、
教えてくれていると思います。






残間 福島県はカテゴリーでいうと、東北地方ですからね。



大石 そうです。東電の発電所は新潟にもあるんですよ。
このあいだ、テレビで若い人がびっくりしてましたね。
「えー、東京の電力が、東北から来てたの」って。
何を言ってるんだという感じです。
東京電力は最大パワーで6千万キロワットを
発電していますが、そのうちの2千万キロワットは
福島から来ているんですから。



残間 とは言うものの、まだ被災地は
混乱している段階です。
瓦礫の撤去も終わっていませんし。



大石 ご遺体があるかもしれませんから、
ブルドーザーでガーッとはいかないんですね。
この瓦礫の撤去もたいへんです。



残間 大石さんだったら、何から手を付けますか?



大石 まず、被災されている方々に仕事を与えるというのが、
何より大事だと思うんです。
やらなければいけないことは幾つもあります。
今、話に出た瓦礫の問題もそうですし、
下水道の回復にもかなりの労力が必要です。道路の復旧も、
これからの道路計画をどうするかという問題はありますが、
とりあえずはネットワークとしてつなげなくてはいけません。
こういった仕事に、被災した地元の方の雇用を振り分ける。
それで、自分が被災したところで、自分が働いて
復興していくというのが、一番の生きがい、
元気が出ることだと思うんですよ。



残間 言われてみると、たしかにそうですね。
他所から連れてきた人が働いているのを、
周りで見ているのではなく、自分たちの町を自分たちが創る、
それはあるべき姿かもしれません。






大石 人間って、やっぱり働いて糧を得ることで
喜びを見いだすように作られていると思います。
それが最初にやることではないでしょうか。

その次に復興ビジョンですね。
これはもちろん地元の同意がなくてはいけません。
それで漁業と農業。この二つが復興しないと
商店街も復興しない、観光もそうですね。
食べていくための糧を得る手段を取り戻す。
例えば港もほとんどやられてしまいましたから、
港をどういうレイアウトで、どれくらいの
機能を持ったものにしていくのかという計画を早く示す。
道路ネットワークも災害時を考えて、
リダンダンシー(補完性)のあるものを計画する。



残間 技術立国などと言われましたが、
今は日本中が意気消沈しています。
今回の復興を可能にするだけの技術は、
まだ日本にあるのでしょうか。



大石 あります。復興に必要な技術は世界でもトップクラスで、
今も保持していると思っていただいて結構です。



残間 それは救いですが、その技術が発揮されるには、
幾つか要件があると思うんです。



大石 そうですね。まず議論が必要なのは、
何にお金が幾らかかるかをはっきりさせることであって、
何を削れば幾ら出せるか、という話ではないんですよ。
ところが今出ているのは、公共事業費を4%削るだとか、
高速道路の週末千円を止めたらどうなるかとか、
「幾ら出せるか」という議論なんです。
「幾ら出せるか」ではなく「幾ら必要なのか」という
議論をしなくてはいけない。
確かに削るべきところは削ればいいと思いますが、
建設国債を中心に、まだ国債を発行できる余力は十分にあります。







ご存知かもしれませんが、非金融部門が銀行等に
過剰貯蓄しているお金が150兆円あります。
150兆円のお金を製造業や流通業の会社が使ってくれない。
使おうと思っても、例えばトヨタは国内に
工場を造ろうとは思っていなくて、アジアなどに造りますね。
そうすると国内には使われない。
この150兆円をただ抱えていては金融機関はつぶれます。
だから国債を買ってるんです。
お金はあるんです。しかも実利を生み出すお金ですから、
復興国債を発行して、躊躇なく使って欲しいですね。

それから国債の発行には否定的な意見もありますが、
今は非常時なんですよ。
2万人もお亡くなりになるというのは、もう戦争規模です。
戦争規模のことが起こっているのに、
平常時のスケール、尺度で議論を進めててはダメですよ。
早急に予算を確保して安心して計画を実行できるようにする。
それが被災地に向けたひとつのメッセージになると思います。




(つづく)