残間
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栗原さんが料理の仕事をするようになったのは、
30代半ばくらいからだと思いますが、
料理に対する考え方や思いというのは、変わってきましたか。
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栗原 |
変わりましたね。
一時はもっと職業っぽく考えてた気がしますが、
今は、それは間違いだなって思ってます。
さっきのレシピを出すところは別なんですけど、
料理が仕事になっちゃいけないなって。
楽しくやらないとね。そういう余裕は出てきました。
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残間 |
それって、ここ数年くらいのことですか。
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栗原 |
10年くらい前からですかね。
というのは、
読者に新しいものを提供しなきゃいけないと思うんですけど、
やっぱり主婦の方がやり続けている、
彼女たちが好きな料理が喜ばれるんですよ。
だってハンバーグは永遠じゃない。
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残間 |
はい確かに。
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栗原 |
だけどハンバーグを、
毎回デミソースや和風ソースでやってたら、
「誰でも知ってるよ」ってなっちゃう。
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残間 |
(笑)そりゃそうです。
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栗原 |
そこで、冷蔵庫に残っていたレンコンを入れてみたり、
ゴボウを入れると、ちょっと身体に良さそうだなとか、
歯触りがいいなって思ってもらえるじゃないですか。
ハンバーグの生地でレンコンを挟んだり。
そういうちょっとした発想ですよね。
それが甘いタレで食べるのが美味しいのか、
わさびが美味しいのかわかりませんけど、
さらに鴨に変えてみたり、エビも入れてみたり。
彼女たちがやっている道から、あんまり外れちゃうと、
ついてこれなくなっちゃう。
「これ、私の料理とはちょっと違うかも」と受け取られる。
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残間 |
料理家には、だんだん凝ってくる方っているんですよね。
どうやって作るのかなあ、というのがあったり。
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栗原 |
それはシェフにお任せの分野ですね。
だから、そこの基準を、ちょっとはみ出るのはいいんだけど、
枠の中にはいないと。
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残間 |
そこは自分でも葛藤があるんじゃないですか。
歌手でも、大ヒットがバーンと出ると嬉しいんだけど、
本人はもっと先に行きたくなるわけです。
ところがコンサートに集まったお客さんは、
大ヒット曲を聞きたいわけですよね。
でも歌手の方はもうそんなの歌いたくなくて、
複雑なリズムを取り入れたものなんかをやると、
スーッと水を引いたように、
人がいなくなってしまうことってあります。
マンネリとの闘いもありますし、
やっぱり少しずつ変えていきたいんだけど、
そこの変え方を間違うと、周りがついてこれないですよね。
さっき栗原さんが、職業っぽくなっちゃいけない、
楽しくなきゃって言ったのわかります。
ひとつのことをやり続けていると、つい求道的になって、
どんどん進化していきたくなっちゃうんですよね。
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栗原 |
別に、無理に進化を押さえ込んでいるわけじゃないですし、
私の考え方がベストとも言いませんけどね。
ただ、冷蔵庫に残るものって、
誰でもだいたい同じじゃないですか。
だから、そこに原点を置いておけば大丈夫かなとは
思ってますけどね。
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残間 |
栗原さんの料理の原理・原則は、家庭料理らしく、
「簡単」と「冷蔵庫の残り物」ですからね。
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栗原 |
そう、残り物なんだけど、残り物のようには見せない工夫!
それは、楽しくやらないと。
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