残間 ウィルビーでも紹介させていただきましたが、
「祈りプロジェクト」の進み具合はいかがですか? 
平和の祈りを折り鶴に託して、
今年の8月6日に向けて広島に届けようというものですが、
クミコさんは、このプロジェクトのテーマソング、
『INORI〜祈り〜』を歌っているんですよね。


クミコ 多くの方から平和へのメッセージや折り鶴が
寄せられているようですよ。8月6日の原爆記念日には、
現地・広島で歌の作者である佐々木祐滋さんと
ライブを行うことも決まりました。



残間 8月6日という特別な日に、
特別な場所で行うライブ、楽しみですね。

さて、お仕事の方はいかがですか? 
実はこのあいだ、日経新聞の杉田会長と
お会いする機会があったんですが、
紙メディアは大きく変わろうとしていますね。
日経新聞の有料電子版がスタートして、書籍の世界でも
キンドル、iPadなど、電子出版が本格化しようとしています。
歌の世界もITの影響を受けていると思いますが、
歌手としてはどんな風に受け止めていますか?



クミコ ダウンロードがどんどん伸びてますし、
CDを買ってもPCやiPodで聞いたりする人が増えてます。
音楽の聞き方が自由になってますよね。
私のアルバムを買った人に言われたんですよ。
「このあいだ初めてアルバムの順番通りに聞いたよ」って。
これまでの私たちの曲順へのこだわりは、何だったんだ! 
という感じですよね。



残間 PRの仕方も違うやり方が求められているんでしょうね。



クミコ 以前はテレビに出ることが、
かなり効果があったんですが、今はそうではないですね。
皆さん、テレビを見てないですから。
たくさん情報が溢れているんですが、
自分にフィットする新しいものには、
みんな、なかなか出会えていない気がします。






残間

自分の好きなスペシャルな分野では、
どんどん情報が入ってきても、
それ以外の一般的な分野の新しいものには、
触れる機会がないかもしれませんね。
ゼネラルな部分は、誰かのフィルターを通さないと
整理しきれませんから。
フィルターということになると、
やっぱり自分が信頼している
人からのお勧めということになるんでしょうか。
PRの鍵はこの辺りじゃないですか?

ところで、クミコさんはファン層というのは、
割と年齢が高い印象がありますが、
この傾向は昔からですか?



クミコ そうですね。やっぱり「銀巴里」で歌い始めましたから。
そういえば、この間、年配のファンの方に
言われましたよ。「10年後はどうするの?」って。
俺たちは先がないんだからと。
この問題は、スタッフともしっかり話さないと
いけないなあ、と思っているんですよ。
「私の夢は80歳まで歌うことだ」とか
気楽に言ってたんですけど、
それは近所の人を集めてカラオケで歌うというのとは、
意味が違うなあと、今さらですが気づいたんですね(笑)。
今みたいな環境で80歳まで歌い続けるのは、
ちょっと容易ではないぞと、危機感を持ってます。



残間 クミコさんの歌は30代、40代の若い層にも、
すごく届くと思いますけどねえ。







残間 さて、クミコさんには、5月9日の
ウィルビーの一周年イベント『大人の恋を語ろう』に、
歌のゲストとして出ていただくことになっています。
私が初めてクミコさんのライブを聴いたのは、
2002年のことですが、いっぺんでクミコさんの世界に
引き込まれましたね。
偶然ライブ会場で亡くなった筑紫哲也さんにお会いして、
初めて観に来たと言ったら、
「まだ観てなかったの?」と言われたのを覚えています。
そんなクミコさんが、私が主催するイベントに
出てくれることになるなんて、
実はすごく感激しているんですよ。



クミコ 残間さんとはプライベートでも
親しくさせていただいていますが、
ウィルビーのイベントには初参加ということで、
私も楽しみにしています。






残間

クミコさんのライブって、歌はもちろんいいんですが、
私はあの絶妙の間で繰り出される"語り"も好きなんですよ。
しかも政治的なことや世の中の事象にも触れますよね。
時事的なことって、よく茶化して言う方はいるんですが、
クミコさんの場合は真っすぐに自分の意見を言います。
それもあって、歌が時代の風や今日の気分と
つながっていくんですよね。
先ほど新しいファン層獲得の話が出ましたが、
こういう感覚は20代の人も共鳴すると思います。



クミコ "語り"といえば、実は最近、
ナレーションの仕事もやっているんですよ。
BS2の『ミッション』というドキュメンタリーです。



残間 その番組のプロデューサーは、目の付け所がいいですよ。
今度のウィルビーのイベントは、
ミニコンサートで時間が短いんですが、
ステージトークも期待しています。
今の自然体のトークのスタイルというのは、
昔からなんですか。



クミコ 昔はもっとカタイしゃべりだったんですけど。
なんというか、私は「歌を歌っていれば、
それだけで幸せ!」っていうタイプではないんですよ。
そうだったら、トークなんか抜きで、
次から次へと歌だけ歌っていると思います。
そこまでは歌が好きじゃないと言うと語弊がありますが、
私は本当は、歌を通じて何か意見を
言いたいのかもしれません。だとすると、
トークも含めて自分を表現した方がいいと思って、
今のスタイルになりましたね。



残間 クミコさんは、今回の『INORI〜祈り〜』もそうですが、
シャンソンはもちろん、昔の歌謡曲や
フォークソングのカバーなど、
いろいろなジャンルの歌を歌っています。
曲の選択基準とか、オリジナルだったらテーマの設定は、
どんな風に決めているんですか。






クミコ

絶対ヤダ! というもの以外はやろうというか、
話があれば、どんな曲も一応は検討してみます。
「演歌」だから即ダメ、というわけじゃないですよ。
問題はその曲のテーマが閉じずに、
向こう側に大きく開けているかどうかですね。
自分の気持ちだけがグルグルと
空回りしているようなのはダメです。
普遍化もされなければ、
私小説にもならないというのではね。



残間 逆にクミコさんが歌うことで曲が
ブレイクスルーするというか、
新しい世界が開ける場合もあるように思います



クミコ 歌う時には、その曲にさらに
"奥行き"を出そうと思っています。
そのためには技術と経験が必要なんです。
それから口で言うのは難しいんですが、"奥行き"には、
大きな意味での上品さも大切だと思います。



残間 出演していただく5月9日のイベントは、
「大人の恋」がテーマなんですが、
ご自分の"恋"の方はいかがですか?



クミコ フッ(苦笑)、私の"恋"ですか? 私の場合は………、
歌で恋を体験しちゃって満足してる感じがありますね。
今日もこんなボーイッシュな格好ですが、
ステージに立つ時はドレスを着て
お客さんの視線を浴びるわけですよ。
そういう面でも歌で発散されてしまっています。
歌手って、そういう人が多いみたいですよ。






残間

もう実生活では興味なしですか?



クミコ (笑)そうは言ってませんよ。
そういう時が来たら、私も行きますよ。



残間 そうやって待っているだけだと、
"その時"は一生来ないみたいですよ。
これぐらいの歳になると、
恋の雰囲気を自分で作っていかないと。



クミコ えー……、一生来ないんですか? 
でも、私も努力するにしても、
男の人ももう少し色っぽくあって欲しいですね。



残間 そうですね。
"生涯現役"は恋も含めてですものね。

それでは、5月9日のイベント、
『大人の恋を語ろう』でのコンサート、
よろしくお願いします。短い時間ですが、
クミコ流の"大人の恋"を歌で見せてください。



クミコ 私もウィルビーのメンバーとお会いできることを
楽しみにしています。



(2010年4月12日)