残間 今日は世界的な長寿村「巴馬」について、
現地の人々のライフスタイルから、
長寿の秘訣までお聞きしたいと思っています。
まず、巴馬ってどんなところなんでしょうか。


小黒 巴馬は、中国桂林の近くにあり、チワン族、ヤオ族、
漢民族など12の民族が集まって生活しています。
山々に囲まれた閉鎖的な場所にあるので、
交通の便が悪く、行くまでに大変な労力を要します。
巴馬では、認知症や寝たきりの人は皆無で、
お年寄りも元気に山仕事、畑仕事をしているんですよ。



残間 お年寄りも元気に働いているというのは驚きですね。
隈さんは実際に現地の人と会われて、
どのようなことを感じられましたか。



巴馬の人達とあって思ったことは、
みんなカッコよく歳をとっているということ。
お年寄りも、元気で肌つやがよくて。



残間 写真を見ると、意外に近代的な街並も見られますね。



小黒 マクドナルドもありますよ。(笑)
それで、川沿いには古い旅籠屋や保養所が並んでいます。





巴馬の景色は、中国の桂林を彷彿とさせますね。
まるで桃源郷に迷い込んだかのようで。
鍾乳洞がいくつもあって、地下帝国のようでした。
それから、人と動物がみんな小さい。
82%くらいの縮小コピーをかけたみたいでした(笑)。



小黒 それは石灰分の多い土が関係しているようです。



残間 巴馬の長寿郷としての価値は、昔から知られていたのでしょうか。



小黒 巴馬は、古くから静養所として有名で、
多くの地域から人が集まってきていたようですよ。
現在では多くの中国人が、
心身を養生するために巴馬に訪れます。
僕が行った時も、"気"が集まると言われる
大鍾乳洞の周りで気功をやっている人が大勢いました。






残間 小黒さんが、銀座に「巴馬ロハスカフェ」
作ることになったきっかけを教えて下さいますか。



小黒 中国に高速道路の建設会社の陳総裁という
大富豪がいるんですが、ある日、彼が僕を訪ねてきて、
巴馬に隠居したいと言ってきたんです。
要するに、人間お金持ちになると、
考えることは長生きなんですね。

それで、どうせなら巴馬を世界中の人々が
遊びに来ることができるリゾート地にしたいと。
僕はケニアでリゾートホテルを経営していて、
そこでは、現地のマサイ族とも仲がよく、
うまく共存できています。
だから巴馬でも、そんな風に現地住民が喜ぶような
計画を立ててほしいとのお願いを受け、
隈さんにも協力していただいたのが始まりです。


残間 その第一弾プロジェクトがこのお店となったわけですか。


小黒 ホテルが建つには、それなりの年月がかかりますよね。
それで、これは編集者の性分なのか、僕は現場で思った事、
感じた事をすぐみんなに伝えたくなるんです。
僕は巴馬の空気をいち早く日本のみなさんに
体感していただきたくて、まず、このお店を作ったんです。



残間 隈さんはお店を作るにあたって、どういうイメージをお持ちでしたか。



基本的にはボロ家のイメージを描いていましたね。
僕が実際に巴馬に行って感じた
"カッコいい古び方"というものを、
このお店で表現できないかなと思いました。
床は古びた感じを出すために、
建築の古材を探し出してきました。



残間 お店の照明を覆っているのは、トウモロコシの皮だそうですね。



この皮も、最初はもっときれいに枯れていて、
こんなにきれいじゃダメだって言ったんです。
巴馬の雰囲気に馴染むように、
わざと汚く枯れているようにみせるのが大変でしたね。




残間 厨房の中には、中国のスタッフもたくさんいらっしゃいますね。




小黒 料理長以外の厨房スタッフは、全員中国人です。
行政での日中関係はあまりいい話を聞きませんが、
こうして民間人同士が仲良くやっているところを
見てほしいと思います。






残間 それでは、巴馬の長寿の秘訣について
伺いたいのですが、具体的に
どういった要因が挙げられますか。



小黒 色々言われていますが、一つは温暖な自然環境です。
巴馬は、熱帯・亜熱帯で、冬が暖かくて夏が涼しい。
マイナスイオンが高く、空気も綺麗なので、
非常に過ごしやすい気候です。
二つ目に、生活環境です。
巴馬の人々は自給自足の生活で、日の出と共に起き、
暗くなったら寝るという規則正しい生活を送っています。
三つ目に、家庭環境の良さです。
巴馬では、三世代、四世代の家族が一つ屋根の下で暮らし、
互いの絆を大切にする文化があります。
村全体が老人、子供を大切にし、
いざという時は老人の知恵を頼りにし、意見を求めます。



残間 お年寄りのポジションがしっかりと確立されているんですね。



小黒 四つ目に食生活です。巴馬の人達は、
平均の半分ほどのカロリーしか摂取しません。



残間 自然の力、食の力など、
様々な要因が巴馬の長寿の源となっているんですね。
食の中でも、特に「火麻(ひま)」という
長寿食材が注目されているそうですが、
「火麻」とはどういうものなんですか。



小黒 火麻とは麻の実のことで、
中国では古くから不老長寿の秘薬とされてきました。
今や中国でも、火麻を食べるのは巴馬地域だけ。
巴馬の人達は、火麻を絞った麻の実のオイルを
おかゆなどにかけて毎朝食べています。




福岡 火麻の栄養価はとても高く、ポリフェノールの一種で
抗酸化物質である不老長寿成分「カンナビシンA」が
大量に含まれているそうです。
これは老化の原因となる活性酸素の除去能をもつもの。
巴馬の長寿者は、1日平均40〜50グラム(大さじ4〜5杯)の
火麻を食べるそうで、この食材が、
健康で長生きを支える大きな要素だと思います。
ちなみに私も、麻の実を絞った油が大好きなんです。
麻の油はリラックス効果もあって、
香ばしい麻の油をおかゆにかけて食べると、
とても懐かしい気持ちになって落ち着くんですよ。






残間 その火麻を使った火麻料理を出すのは、
このお店が日本初となるそうですね。



小黒 そうです。火麻はゴマやピーナッツより個性的な風味。
それを生かしながらおいしくできないか試行錯誤しました。
巴馬料理からヒントを得て、銀座にしかない
進化した火麻料理にこだわりました。




残間 福岡さんは、動的平衡という
「生命は機械ではなく、常に絶え間なく流れている
一種の均衡である」という概念を
提唱していらっしゃいます。
流れを止めずに自然のままを保つことが、
私達の健康の秘訣と言えるのでしょうか。



福岡 色々なものが流れて循環しているのが動的平衡で、
できるだけその流れを止めないことが
健康にとっては正しいアプローチだと思います。
私達の体は、外から取り入れた分子と置き換わることで
成り立っており、食べたものの分子が
自分の体の分子と入れ替わります。
食品添加物が多く含まれている食べ物は、
体がそれを排除するのに余分な負担がかかるので、
できるだけ避けるべきでしょう。
ですが、「絶対に食品添加物を摂らない」というような
過剰な反応をしないことも大事です。
何かにとらわれることは、
動的平衡にとって最もよくないことなのです。



残間 現代人は、体調が悪いとすぐに
ビタミン不足なのではないかと思い込み、
サプリメントを飲んだりしますよね。
それはよくないことなのでしょうか。



福岡 今の日本において、ビタミン不足で
病院に担ぎ込まれる人はほとんどいません。
不足に対する強迫観念はストレスとなり、
免疫系など様々な流れを阻害する原因となります。
気にしないことが、一番の健康法だと思います。




(つづく)