残間
今日はよろしくお願いします。
安藤
こちらこそ、よろしくお願いします。
残間
最近は娘さんたちの名前を聞くことが多くなりましたね。
長女のモモ子さんは映画監督としてデビューしましたし、
次女のサクラさんも本当にいい女優さんです。
お父さんの奥田瑛二さんは、さぞやお喜びでしょう。
 
※安藤サクラさんはすでに
数々の映画賞を受賞していますが、
今年2月には映画『かぞくのくに』で
ブルーリボン賞主演女優賞を受賞。
これは父親の奥田瑛二さんに続く
親子二代受賞となります
安藤
嬉しい反面、「負けてられない!」
という感じじゃないですか。(笑)
でもまあ、監督と役者という
自分の職業を継いでくれたわけですから、
幸せだと思います。
残間
お二人がまだ小さい時に
パーティで会ったことがあるんですよ。
安藤さんと一緒に来てたんです。
実はそのパーティで赤ワインを服にこぼされて、
私、化粧室で服を脱いでジャブジャブと洗ってたんです。
そこにたまたま二人がいて、
「何かお手伝いできることないですか?」って、
すごく心配そうにしてくれたのが印象的でした。
優しい子たちだなって、思ったことを覚えています。
安藤
そんなことがあったんですか? 
親がしょっちゅうワインこぼしてるからかしら(笑)。
残間
あの二人がそろって表現者になるなんてね。
やはり相談もなくというか、
自分から道を選んだわけですよね。
安藤
二人ともなんの相談もありませんでした。
ただ、彼女たちは“意を決して”報告に来ましたが。
やはり父親と同じ職業に就くというのは、
ものすごく勇気がいるみたいで。

長女はずっと絵をやっていて、
それでお父さんの現場で美術を手伝っているうちに、
映画は総合芸術だと思って急に方向転換したんです。
大学を出た後ですから21か22の時です。
やっぱり、すごく言い出しにくかったみたいですね。
残間
で、“意を決して”言ったんですね。
安藤
奥田の娘ということは言わないで、
他所の監督の下に助監督でつきました。
助監督といっても、
3 トントラックへの荷物の積み降ろしを
女一人でやらなくちゃならないわけです。
誰もかばってくれない。
それで睡眠時間2時間くらいで
一ヶ月半ロケに行きっぱなしで、
ある日電話がかかってきたんです。

「お母さ?ん、
今日は2時間半寝れる日なんだけど、
もう1ヶ月髪洗ってない……」
それで言ってやりました。
「大丈夫、髪ぐらい洗わなくても死なないから、
今日は寝なさい!」
そういう状況で4年間助監督やってましたね。
残間
女の子が1ヶ月間髪を洗えないのは辛い………。
安藤
下の子は内緒で演劇のワークショップに通ってたんです。
彼女は、周りから美人じゃないと
女優にはなれないって言われていたので、
なかなか「女優になりたい」って言えなかったみたい。
いわゆる美人系じゃないし、昭和顔じゃない?
残間
昔の美人という感じですよね(笑)。
安藤
とにかく流行りの顔じゃないでしょ?
でも、ある時、お父さんに正座して
「私、女優になります」と宣言しました。
それで通ってたワークショップで公演をやって、
親の力を借りないように別の事務所に所属して、
という感じです。
上の子が初めて監督した時も(2010年公開『カケラ』)、
奥田は現場には出入り禁止だったんですよ。
それでも陰で「本当は奥田さんが撮ってるらしいよ」
とか言われましたけどね。
残間
へえー、二人とも根性ありますね。
サクラさんは、どんどんいい役者になってますし。
安藤
確かに二人とも、根性はあると思います。
残間
それで、今日はこの話をしないと。
(安藤モモ子さんの小説『0.5ミリ』を取り出す)
これは2011年に出た長女のモモ子さんが書いた小説ですが、
今、この映画の撮影中なんですよね?
モモ子さんが監督、次女のサクラさんが主演、
お父さんの奥田瑛二さんがエグゼクティブ・プロデューサー、
そして安藤さんがフードスタイリストとして参加という、
もう家族ぐるみの体制ですね。
残間
モモ子さんは、
最初から映画化するつもりだったんですか?
安藤
ええ、書いてる時から
「映画化したい」って言ってましたね。
主人公のサワは、
妹のサクラが演ずることを前提に当て書きしてます。
読んでみて、映画的な書き方してるなって思ったところが、
たくさんありました。
残間
作品は“介護”がひとつのテーマになっていますが、
安藤さんの家族にとってお母様の介護というのは、
たいへんな経験だったと思います。
安藤さんご自身、本にもしていますが
(2004年刊『オムツをはいたママ 母との愛と格闘の日々』)、
フィクションじゃないと描けない感覚もありますし、
小説や映画にするのはすごく意義があると思いました。
それから介護というのは、
人間というものを見つめざるを得ない局面というのが、
どうしてもありますよね。
安藤
そうですね………。
やっぱり人の人生って、
十把一からげのものじゃないっていうこと。
娘たちはそう実感したみたいです。
残間
きっちり生きること、
きっちり死ぬことが大事だってことですよね。
一人一人かけがえのないものであって。
そこにきちんと向き合っていかないと。
安藤
どんな人生を生きて来たにせよ、
人の向かう所はひとつしかないですし、
自分も周りも覚悟は決めておかないといけない
問題だと思います。
残間
映画づくりは今、どういう段階なんでしょう。
四国でロケをしたと聞いていますが。
安藤
撮影はオールロケですべて終了しています。
40日かかりましたが、面白かったですよ。
今は音入れをしているところですね。
山も海もあるということで
四国の高知市や土佐市で撮影したんですが、
とってもやりやすかったです。
土地の皆さんが、とにかくフレンドリーというか、
コミュニケーション能力が高いと思いました。

過疎なので空き家が多いのも好都合でしたね。
撮影に良さそうな家があると持ち主に交渉するんですが、
そこでも皆さん協力的でした。
撮影の合間にも「うちでコーヒー飲んでって」
とか気軽に声をかけてくださるし、
「このトマト食べて」と差し入れがあったり。
とにかく人も自然も良くって、
ほのぼのとしてしまいました。
老後は高知で暮らしたいと思ったくらい。
残間
主人公が料理上手の設定で、
小説にはずいぶんと美味しそうなものが出てきますね。
アサリ飯、蓮根の胡麻炒め、卵焼き、
ほうれん草の白和え、ごぼうの味噌漬け……。
安藤
モモ子が小説に書いた料理は、
家でよく私が作っていたものばかりですね。
残間
それで安藤さんがフードスタイリストなんですね。
安藤さんは昔は赤坂でレストランを経営したり、
とっても料理上手ですからね。
小説では食べ物が、
けっこう重要な役割を果たしています。
安藤
モモ子は私の母のことや、
自分たちが育ってきたプロセスを振り返って、
食べ物ってすごく大事だと思ってるんです。
人は食べなくては生きられませんから。
だから映画でも大切に扱いたいから、
メニュー考えてって頼まれました。
基本的には私が作るんですが、
どうしても現場に立ち会えない時は、
あらかじめ器を決めたり、
絵を描いて盛りつけを指示しました。

やっぱり「食」は大事ですよね。
母は最後は経管栄養になったんですが、
今振り返ると、食べられるうちに、
もっと好きなものを食べさせるべきだったと
後悔しています。
当時は、つい身体に悪いとか、
栄養がどうとか言っちゃったんですよ。
残間
映画『0.5ミリ』では、
四国の街並と安藤さんの料理にも注目ですね。
公開日は決まっているんですか?
安藤
まだこれからなんですが、
9/30に高知で地元先行上映することだけは
決まっています。

(つづく)