残間
歳をとっても何も変わらないと言いつつも、
人生の楽しみ方というのは、
何か変化が出てきてるんじゃないですか?
例えば旅とか。



坂村
それはあるかも。
僕は若い頃は、旅のためにする旅って、
あまり好きじゃなかったんですよ。


大石 それは私もそう。
仕事で行って、たまたま出会ったものが
面白かったりするのはいいんですけど。



坂村 そこは考え変わってきました。
やっぱり、まだまだ僕が知らない世界はたくさんあって、
感動するものもいっぱいあります。
積極的に旅に出たほうがいいなと。



残間 じゃあ、最近はプライベートでも行っているんですね。



坂村 行くように努力してます。
でも生まれた時代が悪かったんですよね。
旅行をしていても、こうしている間にも
仕事はどんどん遅れていくんだよなあとか、
つい考えちゃう。



大石 高度経済成長時代に育った世代ですからね(笑)。



坂村 そうそう。あの時代に育ったのは良くなかったね。
何か、心の余裕が奪われてる。






残間

不安になりますね。



大石 私もそう感じてしまいます。
親達の世代が汗水たらして走り続けてたのを見てるから、
ゆとりのある暮らしとか、私は全然イメージできないのです。



坂村 一ヶ月も休んだら、不安でしょうがないと思う。



残間 身体が悪くて、ベッドから動けないのならともかく。



坂村 それはそれで最悪ですけど、
元気なのに暇、というのがダメなんだよね。
そこのとこは、今の若い人は変わってますよね。



残間 私たちを見て、「何でそんなにあくせくしてるの?」って
思ってるんでしょうね。



坂村 ただちょっと困るのは、
日本の生産性が落ちてきてる事ですね。
楽しいことに先に目が行く。
僕らは逆じゃないですか。
何かやった後に楽しい事は来るものだったでしょ。
食べる時でも美味しいものは残しておいて、
最後にさあ食べるぞ! というのが僕ら。
今の子たちは先に美味しいものを食べて………



残間 お腹がいっぱいになったら、後はあっさり残しちゃう。



大石 というよりも、今の子は、
苦しみを小さくするためだったら、
楽しみも小さくてもいい、
という流れになってる気がします。
全体的にちんまりしてきている。
絶望の山に分け入っていかないと、
希望の石は切り出せないという、
勇気のある子が少なくなってて、
本当に小じんまりしてきているのが、
すごく悲しいです。



坂村 ただ僕、思うんですけれど、生きてて、
今の方が楽なのか、それとも昔の方が楽だったのか、
大変だったのかと考えると、
ならせば同じ気がするんですよ。
いつの時代も大変だったと思うんです。多分これからも。



大石 なるほど・・・。



坂村 だから、生きていく苦しさを、
いつ体験するかなんだよね。
アリとキリギリスじゃないけれど、
早い段階でひどい目に遭うのと、
晩年にひどい目に遭うのと、どっちがいいかというと……



大石 そうそう!(激しく同意)
私は小学生くらいの時に、人生は甘くないということを
叩き込んでおいた方がいいと思います。





坂村

そうかもしれない。



大石 人生は絶望することが多いんだよと。
今は子供に楽しくやんなさい、
希望に満ちていなさい教えてますが、
本当はまっさらの時に甘くないことを叩き込んでおくと、
後で苦しいことがあっても、 いちいち驚かないじゃないですか。
辛い状況と闘うことが、 生きるということですよと教えられていれば。
今の教育は、そこがヌルイと思います。



坂村 小学校か中学校の時に山本有三の
『路傍の石』を読みましたけど、あの当時でさえ、
ありえない世界だと思いましたよ。
『路傍の石』の現代版が必要かもしれませんね。

思うんですが、僕はネットに関連した仕事をしてますけれど、
ネットからの情報は性格上、細かい断片的な物になりやすい。
けれども断片的なものだけじゃなくて、
若者は小説とか映画とかまとまった物を
もっと読んだり見なきゃダメだと思う。
別に電子ブックで読んでもいいんですよ。



大石 そういうものによってこそ、
心が成長していくんだと思います。



坂村 だって小説や大石さんが書いているものって、
自分以外の別の人生を凝縮したものじゃないですか。
若者が本を読まないと聞くと、どうしてなんだろうと思います。
自分の人生は一回しかないんだから、
小説とか映画とかでいっぱい疑似体験をしないと、
人生うまくいかないと思うんですけどね。
中へ中へと閉じこもるのではなく
外へ外へと広がっていかないとね。



大石 イギリスの劇作家で『エクウス』とか『アマデウス』を書いた
ピーター・シェーファーという人がいますが、彼は、
「人は感動することによってのみ変化変化する。
だから、映画や舞台や小説の作り手は、
もっと誇りを持って作品を作りださなきゃいけない」
って言ってます。
こういう真正面な事って
日本人は恥ずかしくて言いませんけど、
私は座右の銘にしてます。
彼は自分の子供たちのためにも、
住んでいる国のためにも、いいものを作れって、
書いているのです。



坂村 感動しなきゃダメだよね。
人前でやらなくてもいいんだけど、
涙流すとか大笑いするとか、
そういう事を体験しないと、
能面みたいな顔になっていくと思います。



残間 それは確かにその通りだと思いますね。
私たち大人がしっかり言っていかなきゃいけないと。

何だか最後は長く生きてきた者たちの、
若者への伝言のようになりましたが、
そろそろ時間のようです。
本日はありがとうございました。
2011年もウィルビーをよろしくお願いします。



大石・坂村 こちらこそ、よろしくお願いします。



(終わり/2010.12)