坂村
今、面白いなと思うことがあって、
「フェイスブック」というのがありますよね。
最近流行っているソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のひとつで、
ミクシィみたいな類いのものですが。



残間
自分のことを紹介するやつですね。


坂村
友達の友達は友達だ、という風に
つなげていくものですが、こういうサービスで
日本とアメリカというか世界と大きく違うのは、
日本はそういう時に実名を出さないんですよ。

例えばアメリカは日本と違ってツイッターより
フェイスブックの方が断然流行っているんですが、
ふたつの一番大きな違いは、
フェイスブックというのは実名でやるんですね。
ところがツイッターはハンドルネームの場合が多い。
「2ちゃんねる」もそうですよね。
実名でやる人はほとんどいない。

実名でやるかやらないかで、実はネットの使い方って、
ずいぶんと変わってくると思うんです。



大石 確かにそう思います。責任の取り方も全然違ってくるし。



残間 日本でもフェイスブックは実名でやってるんですか。
実名じゃなくちゃダメなんですか。



坂村 実名じゃなくても出来ますが、
ユーザー登録時に実名を使わないと信用されない
という文化が基本にあるんです。
フェイスブックでは実名が基礎であり土台であり常識で、
そもそもそれがいやならフェイスブックを使う意味が無い。



残間 なるほど。フェイスブックって、
自分の履歴というか、自伝的なものになってますものね。



大石 実名でやることに意味があることをやるわけですね。



残間 実名だから自己規制もしてるだろうし。



坂村 もちろん実世界と同じで、
ネットの中にも悪い人はいるんですよ。沢山!
アメリカのネット社会の方が日本よりいい
とか言うつもりはありません。
でも実名の人が多いネットソサエティで、
ある程度みんな信用できるということになると、
ネットの使い方が広がるんですよ。
米国では就職の時の履歴書代わりになるぐらい。
逆にだからこそ参加しておこうとなる。

今、情報社会のなかで少し流行っている言葉に
「ガバメント2.0」というのがあります。
ガバメント1.0というのが従来の政府の運営方法だとすると、
2.0は新世代の政府はこうあるべきだというものです。

どいういうことかというと、
昔の政府、1.0は、いろんな問題を解決する時に、
全部政府が解決するという考え方ですね。
例えば、子供の見守りは警察がするとか。






残間

教育といったら文部科学省。



坂村 そう。例えば川が氾濫しそうで警告を出そうという時、
それは住民が出すんじゃないですね。
それは国や自治体がやることになっている。
ところが、避難命令を出し遅れて被害が出たり、
実際そういう事が起こっているわけです。
さらに川の全流域を国だけで全部見れるのかというところに、
いま疑問符がつき始めています。

それで考えてみると、川の実情というのは、
川の側に住んでいる人が一番わかってますよね。
国が見て回る事ももちろん大事だとは思いますが、
人手が足りないなら住民の方々にも積極的に参加してもらおう。
住民が危ないって携帯で連絡して、
それをみんなが見られるサイトがあれば、
住民も参加させた方がいいかもしれない。



残間 言葉の上では日本も「住民参加」って言うんですけど、
それとはちょっと違うのね。



坂村 そういうやり方って、 ネットを使わなきゃ無理なんですよ。
ネットを使って、もちろん国も見てネットに発表しますが、
住民も参加した方が上手くいくわけです。
まず国が生データを出して、住民のデータも入れて、
それで逃げる逃げないの判断も
早くから自分たちで出来るように仕組みを変えていく。
例えばそれがガバメント2.0的考え方です。

そのためには、まず国がデータを公表していくように
制度を変えないといけない。
でも日本じゃなかなか国は生データを出さない。



大石 そうですよね。



坂村 それから大事なのは、住民がデータを出した時に、
それが正しいかどうか。



大石 そこ、聞きたいと思ってました!



坂村 その時に、さっき言ってたように、
みんなが実名で出てるというベースがあれば、
信頼度が上がってくる。
ところがみんなが匿名でやってると………、



大石 面白がって無茶苦茶なことやりますよ。



坂村 だからガバメント2.0は日本に乗りづらいんですが、
世界がどんどん進んでいる時に、
このままだと日本だけ取り残されますよね。そこが不安です。
2.0は少ない人数で効率よく仕事をするためのやり方でもありますから
少子高齢化が進む日本にとっても大事だと思うんですが。
こういう事は新聞やネット、いろんなところで
書いたり言ったりしてますけど、
なかなかわかってもらえないです。



大石 やっぱり鎖国して発展した国だから、
そういうDNAがまだあるのかしら。
私なんかも瞬間的に、鎖国しておけばいいじゃないかって
思うときがありますよ。
でも、お話を伺っていると、
もうそういう時代じゃないんですよね。





残間

匿名だから言えることというのもあるんでしょうけど、
一方で実名のフェイスブックのようなものがあると、
両輪でいいですよね。



坂村 フェイスブックというのは、
もともとハーバード大学の学生が、
学生間の交流のために作って広がったんですが、
これって、実はウィルビーに向いているのではないでしょうか?



残間 ウィルビーも実名登録ですからね。



坂村 要するに仲間同士でつくるネットコミュニティで、
そういうものが作れる仕組みなんですよ。
昔はクラブっていうと、クラブハウスみたいに
物理的なスペースにみんなが集まってたんですが、
今だとネットでやれますよね。
で、その時に知らない人と話すのは嫌だよねと。
自分の仲間と話したいよね、ということから生まれたのが
フェイスブックですから。



大石 ミクシィの本名版ですね。



坂村 そう、本名版。
それでコミュニティのルールは
コミュニティごとに作れるわけです。
その中に知らない人でも入ってこれるのか、
これないのかも含めて。
例えばウィルビーのメンバー以外は入れない。
外からも見られなくすることもできます。
運用のルール次第ですね。
今はネットコミュニティというのが、
とても作りやすくなっているんですよ。

たまに勘違いしてる人がいるんですけど、
ネットに出すと世界中から見られてしまうというのは間違いです。
50人のコミュニティなら、
その50人しか見られないようにするのは簡単にできます。



大石 その勘違い、わかります。



坂村 そりゃ、2チャンネルの掲示板みたいなものに書けば、
世界中に見られちゃいますよ。
しかしコミュニティの運用ルールがクローズドなら
そういうように作ればいいわけで、
わかっている人には簡単にこれが出来る。
要するに今はネットの中で自由に仕組みが作れる
「仕組み」ができているわけです。
ところが日本人というのはルールを作るのが下手な人たちで、
「何となく」というのが多くてルールが決められないから、
ネットコミュニティの形成が
世界で最も遅れている国になっているんですよ。

「2ちゃんねる」のような誰でも見られる匿名サイトが
あんなに巨大なのは、日本ぐらいですよ。
みんなが見ちゃうというのは。



残間 あれって何なんでしょうね。



大石 私なんか無茶苦茶言われてますよ。本当に嫌だわ。
でも時々見たくなるんですよね。
どれだけひどい事言われてるのか気になって。



坂村 だけどね、ひどい事を言う人は、
昔だってたくさんいたんですよ。





大石

そうそう。普通に言ってる人はいたんですよ。
でも誰でも見られる所で垂れ流しになるのは、
恐ろしいなあと思います。



坂村 さすがに今は、訴えられるようになりましたけどね。
紙に人の悪口書いて、そのへんにベタベタ貼ったら
名誉棄損ですが、それと同じですから。
匿名といっても訴えれば、
多くの場合、発言者は追跡されて特定されてしまいます。



残間 坂村さんはフェイスブックが出てきた時は、
ああ、ついにこういうものが出てきたか、という感じでした?



坂村 いえいえ。原理的には、インターネットが出てきた1990年頃に、
関係者はその手の可能性はみんなわかってましたから。
ただ、それを実際にビジネスとしてやるとなると、
使い勝手を良くするとかビジネスモデルをつくるとか、
広げたときにはそれに見合った設備も必要になるし。
それなりのお金と情熱がないと出来ないですよね。

アメリカがすごいのは、フェイスブックを考えた人は、
学生時代に思いついて、3〜4年ぐらいで
世界で最も金持ちの20代になったということですね。
1月にその創業ストーリーを描いた
「ソーシャル・ネットワーク」という映画が公開されますが、
面白いですよ。
パートナーと裁判になって泥試合になったり。
東京国際映画祭で見ました。

ただ、僕は面白いと思ったんだけど、
日本の観客は引いてたかな(笑)。
結局、フェイスブックとか電子コミュニティのことが
ある程度わかってないと、ピンと来ないでしょうから。



大石 私は今日、坂村さんに話を聞いたから大丈夫(笑)。



坂村 この映画を観ると、アメリカではどんな風に
ベンチャーに金を出すのかもわかりますよ。
向こうは可能性に対してお金を出しちゃうんですよね。
日本じゃありえないですけど。



残間 可能性を見極める目利きがいるんでしょうね。



坂村 目利きが凄く少ないのね。
また、ベンチャーの側も効果的なプレゼンが出来ない。
日本だとベンチャーキャピトルとか言っても、
融資する段になると、
「担保になる土地ありますか?」とか言うから(笑)。



大石 日本はアイデアとか頭脳に投資しませんよね。