9月10日(木)25時25分
最後の打ち合わせが終わって、
夕方5時、
松居一代さんと「青山トンネルの出口」で待ち合わせをして、
「東京ベイコート倶楽部」に行った。
広告で見て、
どんな施設なのだろうと思っていたのだが、
完全会員制なので、
行くチャンスがなかったところ、
メンバーになっている松居さんから、
「素晴らしい景色を眺めながらゆっくり食事をしましょうよ」
とのお誘いがあり、出かけたのである。
青山トンネルの出口で、
松居さんが乗ってきたタクシーに拾って貰って、
高樹町から首都高速に入って有明をめざした。
赤いギンガムチェックのワンピースに、
(ウエストを絞り、フレアスカートが華やかな)
赤いカゴ型バッグを持った松居さんは
「アメリカン・グラフィティ」など、
アメリカの60's青春映画に出て来るヒロインのようないでたち。
「元気だった?」松居さん。
「そうでもないわ。一喜一憂の日々ね」と私。
「私も、毎日が闘いよ。落ち込むことも多いわよ」
「松居さんみたいな、元気そのものの人でもそうなの?」
「今日も朝から交渉ごとばかり。あっ、そうだ、一本だけ電話させて」
携帯電話を取り出した松居さんは、
居住まいを正して、電話をかけた。
「○○さん(名字ではなく名前を読んで)松居です。
遅くなってすみません。ハイ、松居一代のマネージャーの松居です。
例の番組出演の件ですが、昨日番組をチェックさせていただきました。
あの構成からすると、松居一代は何分ぐらいいただけるのでしょう。
ああ、そうですか。で、もう1人の方との順番は、
どちらが先になるのでしょう。
.........なるほど。
それから、うちに来て下さるのは、
司会陣の中のどなたがいらっしゃるのでしょう。
そうですか。わかりました。
女性を考えていらっしゃるんですね。
○○さん、いくつか提案があります。
あなたを身内だと思っているから飾らずに言いますが、
収納がテーマというのは承知していますが、
女性には居間の収納より台所の収納のほうが関心が高いと思います。
居間は、その家によって置いてあるものが違いますが、
台所は鍋だのおたまだの調味料だのと、
どこの家もほとんど同じ物が収まっています。
居間のカットもあっていいですが、
台所中心でいきませんか、○○さん。
滅多にお見せしない自宅を開放するのですから、
中途半端にはしたくないのです。
台所収納と超高速料理、これをテーマにしませんか。
ただし、ここで一つ条件を付けさせて下さい。
松居一代がプロデュースした、
鍋と包丁を使う場面を入れて下さい。
鍋は圧力鍋です。
2年も試作を重ねた素晴らしい製品です。
包丁も普通は160グラムぐらいの重さですが、
松居の包丁は約80グラム。実際に持ったら、軽さに驚きます。
メニューは、そうですねぇ.........。
昨日の番組では××さんが、
とてもゆっくりお料理を作っていましたよね。
あれはあれで、ああいう穏やかな方だからいいのですが、
松居の料理はスピード重視なので、15秒で作ります。
う〜ん、玉葱スープはどうでしょう。
松居の圧力鍋なら15秒で作れます。
鍋も包丁もくどくど説明はしませんから、
時間はさほど割いて下さらなくて大丈夫です。
そうそう、リポーターのことですが、男の人の方がいいと思います。
速い、軽いというようなことを、
素直に驚いて貰うためには男の人のほうがリアルですし、
イヤミがありません。
若い女の子だったりすると、松居と声が重なって、
観ている主婦の方々にとってはうるさいかもしれません。
○○さん、どうでしょう、わたくしの条件、飲みますか?
.........言いにくいことですけど、
このところ、○○さんの番組の視聴率、高くないですよねぇ。
コンセプトは悪くないのですから、
全体にもう少しスピード感が出ると、いい番組になると思いますよ。
あっ、飲みますか?
解りました!
それではスケジュールを切らせていただきます。
何時間くらい.........4時間ですね。
解りました。今、出先ですので、
明日お昼までに具体的な時間を出させて頂きます。
電話だけの話ではありますが、
お互いに重い契約書を交わしたと思って、
きちんと仕事をしましょう。
○○さん!力を合わせて、いい番組にしましょうね。
それでは明日!」
見事な交渉術に脱帽していると、
「プロデューサーの前で、こんな話をして恥ずかしいわ。
でも、マネージャーとしてはここまでやらないと、
こんな厳しい時代、仕事は続いていかないのよね」と、
松居さんは通常の声のトーンに戻して、
しみじみと言うのだった。
時に「やり過ぎ」と思われるキャラクターの彼女だが、
何事にも手を抜かないことが、
そう見せているのかもしれない。
それにしても、
随所に交渉相手の名前を挿入する会話法は、
政治家と政治家の有能な秘書に共通する技である。
かつて田中角栄元首相の秘書だった、
今は亡き早坂茂三氏に、
その「効能」を聞いたことがあるのだが、
相手の名前を折り込んだ会話は、
2人の関係性をより親密な感じにするのと、
要の話の後に名前を挟むことで、
相づちを求めているようでいて、
実は無言の圧力にもなり、
交渉事がスムーズにいくのだと言っていた。
「東京ベイコート倶楽部」では、
館内視察をさせて頂いたあと、
東京湾から東京のビル街を見渡す、
マンハッタンにも似た夜景を見ながら、
美味しい和食をいただいた。
「私、この景色を観ると、『よしっ、明日もまた頑張ろう!』
って、思うの。田舎、から出て来たからというのもあるんだけど、
東京タワーが大好きで、海から東京タワーを観ると、
『少しぐらいの逆風は吹き飛ばせるわ』という気持ちになるのよね」
松居さんの情熱的な交渉術とTOKYOの夜景。
私の中に沈殿している憂いのいくつかが,
深夜の海に溶けて行ったような気がした。

















































いつも思うのですが、前回のタクシーの運転手の方とのやり取り、今回の交渉のやり取りの様子、当然、メモなしですよね・・・
それをここまでリアルに活字化する能力には脱帽です。(でも、リアルすぎて、ちょっと怖いかな~)
「老いる」という言葉は、きっと、残間さんには無いんだろな~
交渉している松井さんもかっこいいですねぇ。臨場感あふれてます・・・TOKYOに生きる女たちそのもの、タクシーに乗って、夜景を眺めながら食事する残間さんと松井さんはドラマの中のワンシーンですね。
(交渉事に相手の名前を折り込むと効果的なこと参考になりました。苦手な上司や同僚に報告やら依頼やらするときに使ってみようと思いました。でも、相手に親密感を持ってもらいたくないとき、もちたくないときは?交渉をうまくするにはそういうこちらの感情はコントロールするものですか?)