8/16(日)ロマンのかけらもない夏。

icon_zamma.jpg8月16日(日)23時12分

いろいろあっても、
それぞれが帰るべきところに帰るこの季節、
人は、自分の「居場所」を知る時なのかも知れない。

朝、起きて、
突然、母に「2009年の夏」を感じさせたくなって、
(つまり「2009年夏、あなたはしかと存在していたのだ」
ということを感じて欲しくなって)
さて、どこに行こうかと考えた結果、
「東京湾ディナークルーズ」に連れて行こうと思い立った。
ネットで空席状況を調べたら、
まだ少し余白があったので、
即申し込んで、
夕方、竹芝桟橋を出る「ヴァンテアン号」に乗船した。

以前、必死の思いで、
「屋形船で回る東京湾花火大会」のチケットを取って、
出かけた時には、あまり嬉しそうでなく、
ガッカリしたものだが、
今回は思いの他、喜んでくれたようで嬉しかった。

せっかく行くのだから、
少しはお洒落をしようということになり、
いつもより母のメイク(?)を入念にすることにした。
そのためには先ずは(1週間ほど前から気になっていた)
母の顔ソリと爪切りをすることにした。

母は85歳を過ぎたあたりから、
「生命力」を誇示するがごとく、
産毛の生える速度と爪が伸びる速度が、
一段と速くなって来たような気がする。
さらには、老いとともに「痛点」が研ぎ澄まされるのか、
ちょっとしたことでも痛がるのである。
前々回切った時、
ほんの少し深爪をしただけでも、
「痛い、痛い」と言って、涙を流したのだった。
堅くなった足の爪などはしばらくの間、
温かいお湯につけて、柔らかくしてからでないと、
怖がって切らせてくれないのである。
今日は、これから二人で出かけるとあって、
いつになくスムーズに切ることが出来た。

竹芝桟橋の船着き場ロビーは、
伊豆七島へ行く人、納涼船やディナークルーズ船に乗る人たち
で、ごった返していた。
浴衣を着ている若者が沢山いるのを見た母は、
「ここも浴衣で来ると1000円割り引いてくれるのかしら」と、呟いた。
私も少し前、そんな話を新聞で読んだ覚えがあるが、
「こんな些細なニュースをも、心に留め置いているということは、
まだまだ世間に対する興味を失っていないということなのだろう」
と思い、ちょっとホッとした。
(母の最大の趣味は、新聞記事を熟読しながら、
切り抜きをすることなのだが、
それというのも社会に対する「飽くなき関心」があるからなのである。
「世間」に興味や関心を失ったら、
母の生命力も弱まっていると思っているので.........)

私たちは予約がギリギリだったので、
窓際の席(海側の席)は無理だったのだが、
それでも母は「シャンデリアがあるわ」とか、
「冷房もちゃんとついているのね」と感心し、
(母の世代の人は、どんなシャンデリアにでも感激するのは、
「鹿鳴館」の影響なのだろうか)
「何よりも東京がこんな景色だったなんて.........素敵ね」
と喜んでいた。
どうやら母は花火の見える暑い屋形船より、
洋風の船の方が好きみたいだった。

私たちがシャンペンで乾杯しようとした時、
隣席の(と言っても、かなり離れているのだが)
30代中盤ぐらいの女性を連れた、
50代後半か60代前半とおぼしき男が、
「窓際の席だというから予約したのに、話が違うじゃないか」と、
怒り出し、係の人に詰め寄っていた。
最初、係の人は丁重に説明していたのだが、
不服を絵に書いたような男の姿に根負けしたのか、
彼らを一番隅の窓際席に案内した。
(あの席は、そういう客のための席なのかもしれない)

母は、彼らが急に席を代わったので、
私たちの傍がイヤだからそうしたと勘違いをして、
「一度座ってから席を代わられると、あまり感じよくないわね」と、
哀しそうな顔をした。

さすがにこんなことでクレームはつけないが、
何らかの都合で、
私も席の移動をしないでもないことを思い出し、
失礼のないよう気を遣っているつもりではあるが、
隣席の人はこちらが思っている以上に、
敏感に受け取ることもあるのだと改めて気づかされた。
老いても、母は母、ジッと耳を傾ければ、
まだまだいろいろなことを教えてくれる存在なのだと思った。

窓際席はクレーム男たち以外は、全員が若いカップルだった。
母が遠く離れている孫のことを思い出したらしく、
「あの子も間もなくこんな感じになるのかしらねぇ」と、
しみじみ言うので、
私もいつになく(?))穏やかな目で彼らを見た。
(いつもなら「あの女の子の半裸体の洋服はナニ?」とか、
「あの男の子のニヤケタ態度はナニ?」などと、アラ探しが楽しみなのだが)

デザートになった時、館内が少し暗くなり、
バースディーソングが聴こえてきた。
私たちの横の窓際席に座っていた女の子が誕生日らしく、
キャンドルに灯がともったケーキが運ばれてきた。

どちらかというと地味な感じの女の子は、
本当に嬉しそうにロウソクの灯を消し、
彼からの花束を受け取った。
母がひときわ大きな拍手をすると、
彼女は「ありがとうございます」と頭を下げたのだが、
母が「あなた、おいくつなの?
まぁ、25歳?お若いのねぇ。人生はあっという間ですからね。
いっぱい楽しんで、私の歳を追い越して下さいね。
私ですか?私は93歳になります。
若い?いいえ、今日は肌の調子があまり良くないので、
いつもよりは老けているんです.........」
などと話し込むのには閉口した。
(顔ソリをしたから、今日は肌の調子がいいといったのは誰だ?)

結局、東京湾の夜景を観るより、
母が今、どんな思いで生きているのか、
そして心身の健康状態はどんな感じなのかの、
「観察」に終始したひとときだったが、
母が久しぶりに「楽しい、楽しい」と言う姿を見ることが出来て、
私もちょっぴり幸福だった。

2009年の夏は、こうして暮れていくのであろう。
ロマンのかけらも無いままに。

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コメント(2)

素敵なお母様ですね。
若い方とふれあうことが嬉しかったのでしょう。
素直で可愛らしくわたしもかくありたいと思いました。良いお話をありがとうございます。

93歳のお母様とのディナークルーズ、よかったですね。
お母様の素敵さももちろん、残間さんのお母様への深い愛情を感じたブログでした。私も今年、花火大会に両親を連れていきましたが、時間的経済的に許せば、今後はもっとおしゃれなところへも連れて行ってあげたいと思いました。うちの両親はディナークルーズなんて乗ったことないでしょうから。

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プロフィール

残間 里江子【プロデューサー】

1950年仙台市生まれ。アナウンサー、編集者などを経て、企画制作会社を設立。 プロデューサーとして出版、映像、文化イベントなどを多数手がける。著書多数。