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第11回 老人性うつ病(前篇)

2016.10.24



50代は健康の曲がり角。体が大きく変わり始める頃です。
元気だと思っていた人も、以前のような健康管理は通用しません。
そして今や人生90年、100年という超高齢社会。
50代からの体のメンテナンスが、後々のシニアライフを左右します。
私たちのもっとも身近なお医者さん=ホームドクターの常喜眞理さんに
予防医学の視点から、健康管理の秘訣を語っていただきます。

☆常喜眞理さんプロフィール

☆このコーナーでは、常喜さんへのお便り・体に関する疑問を募集しています。
こちらまでmember@club-willbe.jpまで。


加齢は心の有り様にも影響を与えます



これまでこのコーナーでは、主に加齢による体の変化について取り上げてきましたが、今回は「老人性うつ病」を中心に、心の変化について話したいと思います。

151023joki_karada_icon脳の老化と環境の変化による「喪失感」が引き金に

最近では若者のうつ病や自殺の問題がよく取りざたされますが、元来、高齢者に多い病と言われていました。
うつ病の症状は個人差もありますが、以下が代表的なものです。

・眠れない。眠りが浅い
・憂鬱な気分に支配され、訳もなく悲しい。何の希望も持てない
・興味や喜びの感情を失い、何をしても楽しくない。何かをしたい気持ちもなくなる
・食欲がなくなる
・性的な関心や欲求が低下する
・人と会うのがうっとうしく、自分の世界に引きこもり、外との交流を断つ

重症化すると自殺の危険もある「うつ病」ですが、では加齢と「うつ」にはどんな関連があるのでしょうか。
心の病は原因を特定するのは難しいものですが、老人性うつ病に関しては、脳の老化や環境の変化による「喪失感」がよく言われています。

まず一つは脳の老化。特に視床下部の働きの低下が影響していると考えられます。
「物忘れ」の時にもお話ししましたが、視床下部は体の内外の刺激を感じ取り、脳内で整理した上で、体の各器官にどう反応するかを指令します。この働きが低下することで、外からの刺激に、以前のように素早く反応できなくなります。“感じる力”の低下とも言えるかもしれません。例えば若者が爆笑しているお笑い番組が、どこが面白いのかわからないといったようなことです。

また性ホルモンや成長ホルモンの分泌量の減少、あるいはバランスの崩れも心の有り様に影響を与えます。
性ホルモンは「心の若さ・元気」の素でもあるので、楽しさを感じにくくなりがちです。若い頃はくだらないことでも笑えたのに、なかなか笑えなくなったりします。そして疲労を回復してくれる成長ホルモンの低下により体が疲れやすくなり、このことも心から活力を奪っていきます。

もう一つの環境の変化ですが、中高年は生活サイクルが大きく変わる時期でもあります。
退職することで、それまでの人間関係、交友関係が一変することもあるでしょう。仕事一筋だった方は、急に周りから人がいなくなったように感じるかもしれません。
専業主婦であれば子供たちが巣立つと、自分を頼る人がいなくなったことに寂しさを感じることもあります。そして歳を重ねると、親や友人など、身の回りの大切な人が次々と亡くなっていきます。
これに加えて体全体の衰えがはっきり表れる時でもあります。以前は当たり前にできた動作や運動ができなくなり、少なからずショックを受けることがあります。

こうした様々な「喪失感」が、将来の希望や自分の存在価値に疑問を抱かせ、老人性うつ病の引き金になるとも言われています。真面目で責任感の強い人ほどなりやすい傾向があります。


151023joki_karada_icon見過ごされやすい「老人性うつ病」のサイン

老人性うつ病のサインは人によって様々ですが、まず不眠が挙げられます。不眠と言うより「不眠感」と言った方がいいかもしれません。ある程度の時間、眠ってはいても疲れが取れない。寝た気がしない。
また、「何をしても面白くない」がうつ病の代表的な症状と言いましたが、特にそれまで大好きだった事柄に、急に興味がなくなるというのは危険なサインです。
あんなに大好きだった音楽だったのに、聴きたくなくなってしまった。大の読書家が、本を読まなくなった。熱心だった習い事をパタリと止めてしまうなど。

ここで厄介なのは、老人性うつ病の場合、認知症と紛らわしい部分があり、「歳だから」と見過ごされがちなところです。
笑わなくなってしまった子供には、周囲も「どうしたの?」と心配しますが、高齢者がむっつりした顔をしていても、外出が減っても、「歳をとればそんなもの」と思ってしまう人が多いのではないでしょうか。

また、うつ病と似たような症状でも、別の病気の場合もあります。
私の診察した例では、子供が巣立って行った途端に、体を動かす気力がなくなってしまった女性がいました。最初はうつ病を疑っていたのですが、調べていくうちにパーキンソン病であることがわかりました。しかし同時にうつ病の影響もあったと私は思っています。

今回は老人性うつ病の症状、原因などをお話ししましたが、後篇では、現状の治療法、そして予防法を取り上げたいと思います。

(後篇に続く)




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