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第7回 物忘れ

2016.06.21



50代は健康の曲がり角。体が大きく変わり始める頃です。
元気だと思っていた人も、以前のような健康管理は通用しません。
そして今や人生90年、100年という超高齢社会。
50代からの体のメンテナンスが、後々のシニアライフを左右します。
私たちのもっとも身近なお医者さん=ホームドクターの常喜眞理さんに
予防医学の視点から、健康管理の秘訣を語っていただきます。

☆常喜眞理さんプロフィール

☆このコーナーでは、常喜さんへのお便り・体に関する疑問を募集しています。
こちらまでmember@club-willbe.jpまで。


記憶障害は誰にも起こります。今から心構えを



151023joki_karada_icon“認知症の入り口でもある“物忘れ”。質の変化に注意しましょう

物忘れ。誰にでもありますね。私もしょっちゅうです。
記憶力の低下はすでに30代から始まっており、珍しいことではありません。しかし物忘れは認知症の入り口でもあり、二つの間は“なだらかな坂”のようにつながっているのです。
私自身もかなり坂を登っていると認識しています。認知症はもはや親の世代だけでなく、私自身の問題です。他人に社会的迷惑をかける段階となれば、対応を考えなければなりません。
さて、物忘れはその質の変化に注意が必要です。

物忘れにも種類があって、ひとつは「体験の細部を忘れてしまう」もの。昼ごはんに何を食べましたか? と聞かれて、「あれ、カレーだったかな、ラーメンだったかな?」とすぐに出て来ない。割とよくあるのではないでしょうか。この段階ではあまり気にしなくてもいいでしょう。
注意が必要なのは「体験そのものを忘れてしまう」もので、昼ごはんの例で言うと、「昼ごはん‥‥食べたかな? いや食べてないな」(本当は食べている)という反応です。これは昼ご飯を食べた体験ごと抜け落ちているわけで、すでに認知症の領域に入っています。

認知症レベルの物忘れにも幾つか段階があります。

・近時記憶障害
これが“昼ごはん”の例にあたります。つい数時間から数十分前の記憶が抜け落ちている状態です。同じ話を何度も繰り返すというのも、これにあたります。
・即時記憶障害
近時記憶障害が進むと、単語や数字をおうむ返しすることができなくなります。「3、4、8。この数字を逆から言ってください」という問いに手こずるようになります。
・見当識障害
記憶障害がさらに進んで月日や時間の識別が難しくなっている状態です。「今日は何日ですか」という問いに答えられない。あるいは「今の総理大臣は誰ですか?」に小泉さんだったかしら・・・という状態。私の知っている例では、夕方の4時と間違えて朝の4時に銭湯に行ってしまい、結局、警察に保護されたというケースがありました。

「見当識障害」まで行くとかなり進行した認知症なのですが、先ほど行った通り、物忘れと認知症の間は“なだらかな坂”です。自分でも、そして周囲も、「近時記憶障害」がひんぱんに出るなど、進行のサインに注意してください。




151023joki_karada_icon認知症イコール大脳の衰え、という単純なものではありません

次に日常の生活でできる認知症対策についてお話ししますが、実は認知症のメカニズムは、まだはっきりとはわかっていません。ここからは、おそらくこうであろうという、日々の診療現場で感じている私自身の体感と認識した上でお読みいただければと思います。

記憶を司る大脳もまた他の臓器と同様に老化していくのですが、同時にこれらを制御している「視床下部」の働きも加齢とともに衰えていきます。
視床下部は脳の一部で、感情や五感から得た情報をもとに大脳や他の臓器に行動の指令を送っています。たとえば食べ物が腐っていることを匂いと味で感じる→視床下部に伝わる→食べるなと視床下部が大脳に命令する→大脳は食べるのをやめる。といった具合です。大脳は人間で一番偉い臓器と錯覚しがちですが、実は視床下部に管理されている部下なのです。

認知症の手前で匂いがわからなくなるのは有名ですし、体温の上昇を感じにくくなって熱中症になりやすくなるのもその一例です。五感からの情報が視床下部を通して上手く大脳に伝わらず、正しい行動を取れなくしてしまいます。

記憶障害・認知症の原因は、「五感・視床下部・大脳」それぞれの劣化に加えて、この三者間で伝達される情報の質・量の劣化と考えられています。五感から入ってきた情報を、とり出せる記憶として大脳にきちんと収められないわけです。
となると対策として、この情報のやり取りを活発化する方法が浮かび上がってきます。さまざまな刺激を体に感じ、それに反応するという一連の動作により、視床下部を中心としたネットワークをリフレッシュさせるのです。





151023joki_karada_icon認知症対策その1〜体を動かすことが脳を活性化します

まず考えられるのが運動神経細胞の活発化です。要するに運動すること。しかし運動といっても走ったり、飛んだりするだけではありません。喋ったり、歌ったり、あるいは料理も立派な運動です。

例えば認知症対策としてカラオケがよく言われます。歌詞を目で見て確認し、リズムや伴奏を耳で聞き、それらがぴったりフィットするタイミング・音程で声を出す。五感、視床下部、そして大脳や他の器官とが、複雑に連携するのが“カラオケで歌う”という行為なのです。
しかも歌うことは、たいていの人にとって楽しいことではないでしょうか。仲間と一緒であればなおさらです。この“楽しさ”が重要なポイントで、黙々と歩くのが楽しい方はウォーキングでもいいのですが、そうでなければ長続きしません。計算などの「脳トレ」もそうですね。さらに“楽しさ”は次の「対策その2」にも大きく関わってきます。




151023joki_karada_icon認知症対策その2〜心が動けば脳も動きます

物理的な運動だけでなく、情動面の活発化も脳の健康と関わりがあると言われています。情動、なかでも“喜び”を日々感じることが、大切ではないでしょうか。
人は自立をし、人の役に立つことが生きている喜びにつながるのだと思います。しかし人の心は弱いものです。精神的にも肉体的にも自立したいが、実際には誰かに頼りたい、頼っているというのが現実です。それを認識して言葉で表しましょう。家族や周囲の人に一日一回は心から“ありがとう”と言いましょう。そして何か人に役立つことをして、自分のことをこっそり褒めましょう。そこに喜びは生まれると思います。

認知症になるとささいなことで怒りっぽくなる方がいますが、これは感情の制御が利かなくなって、寛容さを失っている状態です。情動もまた視床下部が司る部分であり、“喜び”はそのストレスを発散してくれるものだと思います。

さて、認知症対策として「体と心を動かす」ことを上げましたが、この二つは認知症対策というより、幸せな暮らし方にも通じることです。
積極的に人や社会と関わり、肉体・精神面ともに自立を心がけながらも、周囲への感謝を忘れない。一見当たり前のようですが、これができない人が多いのも事実です。
一人暮らしの高齢者が増えていますが、あまり人にも会わず、買ってきたお弁当を一人で食べ、日がなテレビを眺めている‥‥‥これでは脳の活性化は望めません。心身の喜びを大切にする心、人生への前向きな心こそ、最良の認知症対策と言えるでしょう。





151023joki_karada_icon本人も周囲も、認知症を受け入れる勇気が大切です

ここまで認知症対策を述べてきましたが、残念ながら発症する年齢や程度の差こそあれ、ほとんどの人が年を取れば認知症になります。認めたくないかもしれませんが、これは避けられない事実です。今のところ体は元気でも、私は着実に認知症に近づいています。これを読んでいるあなたもそうでしょう。
高齢社会となった今、このことを改めて社会全体で受け止めるべきだと思います。ある認知症の啓蒙ポスターにこんなコピーがありました。

58歳の時に認知症と診断された。
「それがどうした」と
言ってくれた人達がいた。(ACジャパン)


いい言葉だなあと思いました。本人も周囲も、この症状に対してオープンな心を持つ。そんな世の中であれば、認知症もそれほど怖くないかもしれません。
心がけたいですね。

(終わり)


<参考サイト>
ACジャパン
https://www.ad-c.or.jp/campaign/support/support_04.html




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