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「先住民族に学ぶことは、たくさんあります」(1/3)

月尾嘉男さん(東京大学名誉教授)

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6年間にわたって放映され、惜しまれつつも2014年2月に終了したTV番組『地球千年紀行』(BS-TBS)。月尾嘉男さんが世界各地の先住民族を訪れ、彼らの叡智に学ぼうという番組でした。自ら企画・取材・出演を務め、時には秘境と呼ばれる地にも赴いた月尾さん。番組を振り返るとともに、先住民族の叡智という視点から、現在の日本をどのように見ているのか伺いました。(残間)
(聞き手/残間里江子  撮影/岡戸雅樹 構成/髙橋和昭)
これは何かおかしい。50代で目覚めました


残間
月尾さんのライフワーク的な番組だった『地球千年紀行』ですが、ついに今年2月の総集編をもって幕を閉じました。
月尾さんが自ら海外に出かけ、インタビューし、時には現地でカヌーも漕ぐという大活躍でしたね。全部で何本制作されたんですか?

月尾
総集編2本を入れて28本です。多い年で年間6本。一回の旅行で2本作るとして、毎年3回、海外に撮影に行きました。全部で20民族くらいを訪ねたと思います。

残間
近代文明から距離を置いている方たちですから、取材に行くだけでもたいへんな場所もあったと思いますが。

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月尾
もっとも大変だったのは、アマゾン川源流地域の先住民族を訪ねた時です。
日本から飛行機を2回乗り継いでペルーのリマまで行き、さらに空路で奥地の都市まで到着します。そこから密林を半日くらい自動車で走り、アマゾン川支流を小舟で渡ります。支流といっても日本最大の川よりも川幅は広い急流です。
さらに自動車で密林を2時間くらい進み、ワニの出没する川に到達し、小舟で5時間も遡行して船を岸に着けると、物陰から先住民族が登場するという場所です。

残間
先住民族を尋ねて彼らの叡智に学び、我々の問題解決へのヒントを探ろうという番組でしたが、このコンセプトはどこから生まれたんでしょう。

月尾
私は50代まで工学を研究していましたが、その時期はまだ純粋に科学技術で世の中の役に立とうと思っていたわけです。

残間
(笑)純粋にね。

月尾
交通制御システムなどを研究しており、現在の自動運転車の研究を45年以上前にしていました。
ところが、ある時からこれでいいのかな? と疑問を感じ始めたのです。自動車は現代社会になくてはならない技術ですが、現在の世界では自動車事故で年間130万人以上が亡くなっています。一方、多数の犠牲者を出したと言われるベトナム戦争でも16年間に240万人の死者で、平均すると1年あたり15万人ですから、自動車はその8倍以上の犠牲者を出しているのです。
そのような時期に、残間さんとも四万十川に行ったりしましたが、技術以外の分野に関心を持つようになりました。

それで勉強してみると、現代の西欧中心の社会の原点はニュートンやデカルトにあることが分かりました。近代科学の原理を哲学的に明確にしたのがデカルトで、科学的に解明したのがニュートンですが、その理論で17世紀以降の西欧中心社会が発展してきました。
もうひとつ重要な思想が「進歩史観」です。社会は理想とする最終の状態を目指して、多少の往復はあっても、時間の経過とともに着実に目標に接近していくという考え方です。
ところが現実の社会は、途中であるにもかかわらず、資源問題、環境問題、格差問題が噴出するという矛盾に満ちているわけです。

残間
「進歩史観」での理想の最終状態というのは何だったんです?

月尾
ある人にとっては平等であり、ある人にとっては自由であるなど人さまざまです。
この哲学は、地球が無限と見做してよい時代には問題ありませんでした。化石燃料は十分に存在し、森林を伐採することも問題になりませんでした。

ところが人口が増えて加速度的に資源を消費するようになると、この方向は行き止まりになると思うようになったわけです。

残間
月尾先生の考え方が西洋的な価値観から大きく変わったのは、五十代からなんですね。

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月尾
60歳までは役所や大学にいましたから、自由に発言できない状態でしたが、それらから離れて自由になったので、先住民族の番組を作りはじめたのです。

残間
先住民族に目をつけたのは?

月尾
近代の西洋文明に巻き込まれていない人たちの生活を見れば、現在の社会の問題が明らかになると考えたのです。

残間
先住民族の素朴な生活、昔に帰れ、というのとは違うんですよね。「今さら戻れるわけない」と反論されるようなものとは。

月尾
違います。先住民族はどういう哲学で生きてきたかということが大事だと思ったのです。






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