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『リメンバー』を歌ってほしい。世界中の人に。1/2

佐藤しのぶさん(声楽家)

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日本を代表するプリマ・ドンナ、佐藤しのぶさん。2013年に発表された楽曲『リメンバー』では、核兵器のない平和な世界を求める強いメッセージを歌い上げています。佐藤さんの歌声に、私たちが今とるべき行動は何なのか、考えずにはいられませんでした。(残間)
(聞き手/残間里江子  構成/髙橋和昭 大垣さえ)


vol.1 『リメンバー』は、平和な未来への種蒔きでした。


残間
本日はお忙しいところありがとうございます。

佐藤
よろしくお願いします。

残間
今年は戦後70年ということで、戦争のことがよく話題にのぼっています。
色々な意見が出ているようで、その実、本質的な議論ができているようには思えません。

そんなとき、2013年に佐藤さんが発表した『リメンバー』(※1)という曲のことを思い出したんです。
発売直後、外国人記者クラブで記者会見(※2)を開いていらしたでしょう。
あれをご覧になったジャーナリストの嶌信彦さんが、
「あの記者会見は素晴らしかった、残間さんも見た方が良い」と仰って。
私もすぐにネットで見て、感動しました。

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CD『リメンバー』

作詞:なかにし礼
作曲:鈴木キサブロー
編曲:萩田光雄
Anchor Records/2013年
※注1:『リメンバー』。佐藤さんはじめてのオリジナル楽曲。
“リメンバー ヒロシマ・ナガサキ”のフレーズを芯に、ストリングス・バンド伴奏で核廃絶へのメッセージを歌っている。

※注2:発表記者会見の模様はこちら。
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佐藤
ありがとうございます。

残間
芸能やエンターテイメントの世界で活動をしていると、社会的な主張はやりづらいですよね。
スポンサーやクライアントとの兼ね合いがありますから。

仮にスポンサー会社のトップは「そういう主張をするべき」と思っていたとしても、会社自体が自主規制してしまうことだってあるわけです。

そうじゃなくても、世の中全体が、ものが言いやすいようで言いづらくなってきているように感じています。
そんな中でこういう曲を発表するというのは、勇気が必要ですよね。しかもとても爽やかに、さりげなく心に届いてきます。

しかし佐藤さんが記者会見を開いた、たまたま同じ日に、小泉元首相が“反核”の会見を行いましたよね。あちらは派手に報道されましたが、こちらはマスメディアはほとんど触れませんでした。

そんなこともあって、佐藤さんには是非ともインタビューしたいと思っていたんです。

佐藤
平和の歌が必要だという考えはずっと私の中にありました。こういうことは、いつの時代にも必要だと思います。
だけど私にはそれを形にできませんでした。

実は、以前からなかにし礼先生の『赤い月』(※)を拝読していて、「私のこの気持ちを形にしてくれるのは、なかにし先生しかいない!」と思っていました。

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『赤い月』 なかにし礼著
新潮文庫/2001年
※注:赤い月なかにし礼さんの自伝的小説。満州で事業の成功をおさめていた主人公・波子とその家族は、1945年9月、ソ連軍の満洲侵攻開始により、地獄さながらの引き揚げを経験する。運命の転変と戦争の悲劇を描いている。主人公の波子はなかにしさんの母親がモデルになっている。


ある日、意を決して先生にお電話をして、こういう曲を一緒につくっていただけないかとお願いしたのです。

残間
なかにしさんは最初、佐藤さんのこの先のことも気にかけて、少し消極的だったそうですね。
「こういうことを歌うと今後の仕事に響くかもしれない」と。

佐藤
でも結果的に、こんなに素晴らしい曲が出来て、なかにし先生には感謝の気持ちでいっぱいです。

残間
そもそも、佐藤さんが平和について考え始めたのは、小学校5年生の時に行った、広島の平和記念資料館での体験からだったそうですね。
そんな小さい頃からというのは、ご両親の影響か何かがあったんでしょうか。

佐藤
平和記念資料館には両親が連れて行ってくれました。

父は正義感が強い人で、銀行員でした。
ある時、父が勤めていた銀行ではないのですが、不正を起こした銀行のニュースがテレビで流れていたのを家で見て、やおらテレビに向かって立ち上がり、「こんな銀行のために人生を捧げたんじゃない! 俺は怒っている!」と叫んでいました(笑)。
テレビに向かって抗議しても聞こえないのよと思いましたが、まじめな父でした。

残間
私もついこの間、平和記念資料館に行ってきました。
訪れたのは3回目ぐらいですけど、何度見ても、色々なことを考えさせられます。

佐藤
広島も長崎の原爆資料館も、多くの人に行ってほしいです。
長崎の資料館には、ジョー・オダネルというアメリカの報道写真家が撮影した、「焼き場に立つ少年」という写真があります。

8歳ぐらいの男の子が立っている写真なんですが、赤ん坊を負ぶっているんです。
唇をかみしめながら、直立不動で、まるで敬礼するみたいに、赤ん坊を負ぶって立っている。
その赤ん坊は、死んでいるんです。そして男の子の目の前には焼き場があって、次々亡くなった人が焼かれている……。

子供があんな表情になるのか、あんな顔をさせてよいのか。
あの写真を見ると、どんな事情があったとしても、二度と原爆は落とされてはならないのだと痛切に感じます。
あの写真は一度、絶対に見てほしいです。

残間
写真に残すというのもまた、一つの「リメンバー」、記憶することですね。
「リメンバー・パールハーバー」と「ノーモア・ヒロシマ」というふたつの言葉がありますが、私はずっとこのふたつの違いが気になっていたんです。

「ノーモア」という言葉は、「リメンバー」と少しニュアンスが違います。「ノーモア」の方は、なかったことにしようとしているというか。
日本人って、忘却によって救われるということからか、「ノーモア」という感覚が強いですね。若い頃から疑問に思っていたんです。

佐藤
そうなんです。まさにそこなんですよね。

残間
佐藤さんの「リメンバー」を聞いたときに、同じことを考えている人がいるのだと思いました。

佐藤
だからこそ、「リメンバーヒロシマナガサキ」というフレーズは同じにして、あとはそれぞれの国の言葉に翻訳されて、世界中で歌っていただけたらと思うのです。

それを歌った人が、「ヒロシマナガサキってなんだろう?」と疑問を持って、調べてくださるかもしれない。そうすれば、あの惨劇は記憶に残っていけるのです。
そうやって、私が死んだ後も誰かが歌としてそれを伝えていってほしい。

広島が最初、長崎が最後。もう二度とこの地球には起こらない。そういう世界を作ってほしいですね。

残間
それで思い出したことがありますが……40年ぐらい前、1970年代かな。シルクロードに1人で旅をしたことがあるんです。
当時ソ連の支配下だった国の、小さな村に訪れました。そこの文房具屋さんに入って、何の気なしに世界地図を見たんです。

いい加減な地図で、日本列島は台湾を細長くしたような形だったんですが、そこに書いてある地名は、「ミサワ」「ヨコスカ」「サセボ」「ヒロシマ」「ナガサキ」だけなんです。
基地と広島長崎だけ。東京も名古屋も大阪もないんです。

佐藤
そうですか。そんな世界地図が……。
本来それぐらいショックの大きいことだと思うのですが、日本人はあまり話題にしないので忘れられがちですね。

残間
だけど、震災以降に「反核」というと、どうしても“反原発”といったストレートな政治的メッセージに捉えられがちですよね。『リメンバー』は2009年に企画が始まり、発売が2013年。途中に震災を挟んでいます。

佐藤
そうですね。震災は確かに大きかったです。
これまで核の被害者だった日本が、原発事故によって加害者になってしまったわけですから。

私は右翼でも左翼でもなく政治家でも宗教家でもありません。あれだけの悲劇を生んだ、「戦争は二度としない」ということです。

2012年に、『日本のうた~震える心』(※)という曲をリリースのですが、そのときも「右翼っぽい」と言う人がいました。

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演奏:堀正文, 森島英子,
   NHK交響楽団メンバー
編曲:三枝成彰
キングレコード/2012年
※注:日本のうた~震える心。「夕焼け小焼け」、「故郷」など、綿々と歌い継がれてきた日本の名曲を、三枝成彰アレンジによる室内オーケストラで歌った作品。

私達の日本の歌を大切にすること、それは文化を大切にすることであり、故郷や先祖に感謝すること。素晴らしいことだと思います。
それと同様に他国の文化をも尊重したいです。

残間
政治的メッセージになってしまうことを怖れて、「素朴に平和を願う」とか、「国を大切に思う」とか、そういうことを誰もやらなくなってしまった世の中も怖いですよね。

日本のアーティストたちは、もっと日本を題材に取り上げてもいいのにな、と思います。現代アートではときどき見受けられますが、他の領域ではまだまだですね。

佐藤
だからこそ、みなさんに歌ってほしいのです。
どうやったら広まるでしょう?!

あの曲は、誰もが歌える覚えやすい曲と歌詞です。合唱曲にもなっていて、楽譜もあります。
とにかく、一人でもいいから、歌いはじめてほしい。この戦後70年という年に。忘れないでほしいんです。

私は種をまきました。これが広がって、歌われていくことを願っています。
(つづく)








vol.1 『リメンバー』は、平和な未来への種蒔きでした。

vol.2 常に自己ベストを更新していきたい












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