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“自分の文章”を書く面白さに目覚めました。 1/4

岩崎俊一さん(コピーライター)

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広告の世界で数多くの名コピーを送り出してきた岩崎俊一さんが、エッセイ集『大人の迷子たち』を発表しました。岩崎さんらしい端正な文章でありながら、広告のボディコピーとはまったく違う世界観。早くも次作が気になる新境地です。(残間)

岩崎俊一さんは2014年12月20日、永眠されました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

(聞き手/残間里江子  撮影/荒井孝治 構成/髙橋和昭)


vol.1 エッセイというよりショートストーリー


残間
今度出たエッセイ集『大人の迷子たち』。たいへん楽しく読ませていただきました。
これは東急電鉄沿線で配布されているフリーペーパー、『SALUS(サルース)』での連載がまとめられたものですが、知る人ぞ知る人気エッセイという感じでしょうか。
最近の号でクラブ・ウィルビーのことも書いていただいて、何人かの人から言われましたよ。

岩崎
23万部くらい出ているみたいで、「読んでますよ」と僕もけっこう言われます。月刊で連載は6年目に入りました。

残間
テーマは命のはかなさ、旧友との再会、時代の変化の中で失ったものなど、実にさまざまなんですが、どこか切なさの漂うものが多いですね。

ところで広告の人である岩崎さんが、エッセイを書くようになったのは、どんなきっかけだったんでしょう。

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岩崎
2009年に『幸福を見つめるコピー』という本を出しました。最初は僕の広告コピーをまとめませんかというお誘いだったんですが、ただ作品を並べても面白くないので、作品に合わせて20本ぐらいエッセイを書いたんです。
どうも広告のコピーばかり書いていた不満がたまっていたようで、その時に自分の“地の文”というか、普通の文章を書く喜びに目覚めてしまったんですね。

それからあれは、僕にとって初めての署名作品でした。広告は基本的に作り手は匿名です。業界の中では、あれは僕が書いたということはわかっているでしょうけど。
それで署名で出すことで、それまでと全く違う世界が開けたんですね。周りの見る目も変わってくる。こういうことを“確かに”やった人なんだなと。“確かに”というのが入ってくるんです。

そんな時に『サルース』から連載の話が来たんですね。毎月なんて書けるかどうかわからなかったですけど、これはやるしかないなと。

残間
エッセイの世界には、最初からすんなりと入れました?

岩崎
いえ、『幸福を見つめるコピー』の時は、最初どう書いていいかわからなかった。
何だか広告のボディコピーみたいな感じになりましたね。何か違う。人に見せてもそうだと。
それで、これは全く違う形で書かないといけないと思いました。事象をもっと横から見るというか。

残間
岩崎さんのボディコピーは、読み手にまっすぐ語りかける感じですものね。

岩崎
それで連載が始まって、何を書こうかとなったんですが、やっぱり自分の小さい頃を思い出すと、そこに書きたいことがいっぱいあったんです。
自分が悲しかったこととか、悔しかったこととか、自分がどんな風に育ってきたかということとか。

僕の頭の中には「現世の蔵」と「記憶の蔵」の2つがあって、「現世の蔵」は毎日生活の中で起こっていることで、こちらもいろいろと書くことはあります。
でもエッセイを書き始めたら、意外に「記憶の蔵」というのはすごい蔵なんだということがわかってきました。
ただ「記憶の蔵」を開けてみたら、ネタはあることはあるんですけど、けっこうつらいことがいっぱい。

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残間
(笑)だから蔵に入れたんですものね。

岩崎
でもその中には希少な体験とか、今も自分の中に根を張っているものもあります。それを取り出してホコリを払ってやるわけです。そんな風にペースをつかんでいきましたね。

このエッセイを読んでくれている人は30代、40代の女性が一番多いんですが、少しずつ「『サルース』に載ってるエッセイ、すごくいいよ」みたいに口コミで広がっていったようです。
ネットの評判とか読んで、ずいぶん励まされました。

残間
私はもっと岩崎さん自身を出してもいいと思いますけどね。
さっきボディコピーとは違うと言ってましたが、読んでいると、違うからこそ自分をストレートに出すことへのためらいを感じる部分もありました。
エッセイもいいけど、小説にする方がいっそ楽なところもあったんじゃないですか。

岩崎
そう。だから確かにお行儀の良いところがあるかもしれません。もうちょっと怒りとか、恨みとかをストレートに出してもいいんじゃないかと思う時もあります。

残間
そこがまた岩崎さんのテイストですからね。
世の中の事象をフィルターとして自分を出しているから品がいいんですけど、次はもう一段、自分を出していってもいいんじゃないですか。

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岩崎
(笑)そうですかね。

そういえば僕、これを書く時に気にしてたことがあります。
まあエッセイということになるんですが、僕は「エッセイ」という言葉自体にあまり魅力を感じてないんです。
つまりエッセイというと、「どこか日記みたいなもの」という印象があって、あまりどきどきしない。

僕はそれよりもショートストーリーというか、一話完結の物語になるくらいのものを書きたいと、自分に課しているんです。
だからエッセイとしてはちょっと重い。

残間
そうか、短編小説を書いているようなスタンスだったんですね。だから他のエッセイにはない空気感、佇まいががあるんだ。

岩崎
ええ、きっとみんな、そこを面白いと言ってくれてるんだろうな、という感じがします。

残間
“岩崎エッセイ”の秘密が、ちょっとわかってきました。
(つづく)






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大人の迷子たち
岩崎俊一/廣済堂出版/1,300円(税抜)





vol.1 エッセイというよりショートストーリー

vol.2 文章は読む人のもの。話は聞く人のもの

vol.3 相手の思いを探り当てる

vol.4 昭和30年代は、日本が壊れていく始まりだった





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