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日本型組織の危うさ1/3

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鴻上尚史さんの最新刊『不死身の特攻兵』が、静かに売り上げを伸ばしています。上官の命令にそむき、自分を貫いたある特攻兵の足跡を追うことで浮かび上がる、私たちの心の“闇”。
戦中の理不尽な出来事が、それを教えてくれます。(残間)

鴻上尚史さんのプロフィールはこちら
(聞き手/残間里江子 撮影/岡戸雅樹 構成/髙橋和昭)
vol.1 私たちはついあきらめてしまう


残間
話題の『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』、拝読しました。
太平洋戦争中に特攻を命じられながら、命令に逆らって9回も生還したパイロットの思い。そして周囲を取り巻く社会に対する考察ですが、とても興味深く読みました。
何かといえば「非国民」と言われた同調圧力の強い時代に、最後まで自分の考えを貫いた日本人がいたことも驚きですが、佐々木さんという元特攻兵の方に、鴻上さんが何故こんなにも深く関わることになったのか知りたくなりました。

鴻上
ありがとうございます。

残間
もう15万部も売れているそうですね。

鴻上
16万部まで来ましたね。

残間
購買層は中高年の男性が多いと聞きましたが。

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鴻上
最初のとっかかりの読者は、いわゆる戦記物好きでした。それが5万部超したくらいから中高年のビジネスマンが読んでくれるようになり、さらに10万部くらいからは女性も手に取ってくれるようになったんですね。そういう感じで広がっていったみたいです。

残間
この出版不況の折、地味な題材でこれだけ反響があったというのは、やはり鴻上さんが取り上げたことが大きかったと思います。鴻上さんのニュートラルな、ある種の軽やかさが、この問題に新しい側面を与えたというか。

鴻上
いやいや僕の力というよりは、やはり圧倒的に佐々木友次さんという存在の凄さですよね。

残間
鴻上さんは佐々木友次さんに話を聞くために、入院している札幌を訪ねることになりますが、佐々木さんとの出会いを改めて伺いたいです。

鴻上
ある本で陸軍の航空隊に、その本では8回になってましたが、8回特攻で出撃して8回帰ってきたパイロットがいることを知ったんですね。ほんの半ページぐらいの記述でした。
それでもっと詳しく知りたくなって、『陸軍特別攻撃隊』という高木俊朗さんの本を読んだら、出撃命令の回数としては9回ということがわかったんです。

残間
そもそも、なんで特攻隊に興味が行ったんですか? 鴻上さんは別に戦記物が好きというわけじゃないですよね。芝居でも取り上げていないし。

鴻上
戦争は取り上げなくても、前から芝居でも本でも「日本的な組織」というのは描いてきたと思います。
この本の帯には編集者が書いた「“いのち”を消費する日本型組織に立ち向かうには」というコピーが載っていて、これを僕は本が出来上がって初めて見たんですが、「なるほど、だから僕は佐々木友次という人にこんなに魅かれたんだな」と思いました。

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残間
そう。日本的な組織という視点で捉えると、けっこう今の時代そのままですよね。これまで特攻隊って、とても遠い世界だと思っていたんですけど。

鴻上
そうなんです。
そもそも特攻作戦はやれば敵艦が沈むと思ったから始めたはずなんだけど、初期の段階であまり効果がないとわかっていました。なのに、いつのまにか死ぬことが目的になって継続していった。

つまり仕事がたくさんあるから残業していたはずが、いつのまにか残業することが目的になってしまう。あるいは上司が帰らないからとにかく残業するのと、構造的には同じですよね。
そこを佐々木さんは、ちゃんと敵艦に爆弾を落としてくれば、帰ってきたっていいじゃないか。飛行機を失わずにまた攻撃に行った方が効果的だという、まっとうなことを貫いた人なんですよね。



理不尽への抵抗力のなさを意識したほうがいい

残間
死ぬことを避けるのは卑怯者・非国民。上官の命令は絶対、でも作戦に合理性はない。激しい周囲や自分の内面からの同調圧力。私が本を読んでいて救いだと感じたのは、現場にわずかながらも「まともさ」が残っていたことですね。

幸運もあったでしょうが、9回出撃して9回生還した佐々木さんは上官になじられ続け、「次こそは死ね」と言われますが、監獄に入ることはありませんでした。
それから本来、体当たりの特攻機には不必要で、取り外されていた爆弾投下装置はこっそり加えられて、それを整備兵も何となくそのまま整備していた。
おそらく、それまでの日本軍では起こりえないようなことが、末端では起こっていたのですね。

鴻上
やっぱり企業でもそうだと思うんですけど、現場は命令の理不尽さを知っていたということですよね。どんなに上が命令しても、現場を守ろうとする力が働いたんでしょう。すごい過大なノルマを課せられた時、現場主任みたいな人が理由をでっちあげて部下を守ったりします。現場ってやっぱりリアリズムですから。
一方で命令出している人は、現場のことを案外わかってなかったりします。航空のこととかまったく理解していない人が、航空隊の司令官になったり。

残間
さらに上の、戦争を続ける続けないを決める人たちは、果たしてわかっていたのでしょうか。

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鴻上
ツイッターに丸谷才一BOTというのがあります。自動的に丸谷才一さん語録をツイートする仕掛けですが、つぶやきの中に「みんなわかってないけど、軍人っていうのは官僚なんだよ」というのがありました。

なるほどと思いましたね。命令を出す上層部って、みんな官僚なんだと。だから前例主義だし、例外を作らないし、自分から何かを変えていくこともあまりしない。なるほど、官僚か、と思ったら全部、腑に落ちた気がします。

残間
それで命令される側はというと、佐々木さん以外の大半の特攻兵は、たとえ理不尽と感じていても、運命と覚悟して従ってしまいましたね。
もちろん彼らの死は一様に厳粛なものだし、誰も無駄死だなんて言うことはできないです。しかしそれは同時に、先ほど鴻上さんが言ったように、現代でも本人も周囲もしょうがないとあきらめて、結局、過労死する人が出るのと同じ構造に見えます。

鴻上さんは日本人のこうした理不尽なものへの抵抗力のなさを、日本の国土の自然災害の多さにあるのでは、とも分析しています。
確かにあまりに大きな災害を前にすると、無力感のあまり運命に身をまかせたくなる、ある種の甘い誘惑に駆られてしまいがちです。でも、だからしょうがない、というわけにもいきません。

鴻上
それを意識するだけでもずいぶん違うと思いますよ。僕らはこういう性質をあらかじめ持ってるんだと。それならそれで、所与性(前提条件)を逆手に取るという手法もあります。

最近、ヨーロッパでニュースになっていましたけど、臓器提供がOKの人は生前に申し出てくださいというと、すごく申し出が少ないんですって。それで基本的に死後は臓器提供をしますという前提にして、嫌な人だけ言ってくださいというと、これまたすごく申し出る人が少なくなるんです。だからどこかの国では、臓器提供はNOという人だけ申し出てくださいに変えたんですよ。
日本人だけでなく、人間ってどこか所与性を尊ぶというか、与えられたものの中で生きるという面があるので、そこをうまく使うと変えられるんじゃないですかね。

残間
なるほど。確かにそうですね。
つい運命に身をまかせたくなる誘惑には、気をつけたいものです。



(つづく)

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vol.1 私たちはついあきらめてしまう

vol.2 佐々木さんに近づく過程を書いた

vol.3 役者を目指す若者が減っているそうですが……

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