ホーム>willbe Interview>坂本由紀子さん(雇用・福祉コンサルタント)>誰もが働く喜びを得られる社会を。1/2

誰もが働く喜びを得られる社会を。1/2

坂本由紀子さん(雇用・福祉コンサルタント)

Untitled-1.jpg
「雇用上の男女差別を禁止に」「障害者施設などの物品購入を優先的に」――。万人が働きやすい社会づくりに尽力してきた坂本由紀子さん。現代の社会で働くということについて、女性やシニア、障害者という観点から語り合いました。「この状況はチャンス!」という言葉、勇気づけられます。(残間)
(聞き手/残間里江子  構成/髙橋和昭 大垣さえ)


vol.1 経験とポストが人を育てる


残間
本日はよろしくおねがいします。

坂本
こうやって改まって話すのは初めてですね。

残間
多くの人が、自分の「働き方」を考え直す時期になってきたと思います。
今までは、“こういう人はこのように働くべき”というのがある程度決まっていたと思うんです。若者は新卒で企業に勤めるとか、女性は結婚をしたら会社をやめるとか。
でも、社会の変化とともに、それが上手くいかなくなってきたように思います。

坂本さんは、まさに「働く女性」の代表格ですよね。
ざっと振り返っただけでも、23歳で労働省に入省して、2004年まで障害者雇用対策課長、企画課長、婦人政策課長,職業能力開発局長などを歴任。
その後2009年まで参議院議員をつとめて、その後現在まで、雇用や福祉のコンサルティング業務を続けていらっしゃる。
この華々しいキャリアは、「働く」ということへのある種の冷静さを持ち合わせていないと作れないものだと思うのですが。

そんな坂本さんに、今日は現在の日本社会における「働き方」の問題について伺いたいと思います。


振り返ると、厚生労働省にいたのって何年間ですか? 労働省の頃も含めると。

坂本
えーっと……32年間ですね。

残間
ずっと現役ですから、人生の半分以上を働きながら過ごしているんですね。
坂本さんと私は、お互い静岡県という場所で青年期を過ごしています。
それがきっかけで付き合いも長いですが、生い立ちについては伺ったことがありませんよね。
あの時代に、どうしてずっと仕事をしようと思ったんですか?

150601sakamoto_a1
坂本
母親の考え方が大きかったですね。
小さな頃から、「女性も仕事をもって自立しないといけない」と言われてきました。
「なにか自分にできるものを身につけて、資格をとるなどして一生仕事をし続けることが大事。そうすれば、自分の人生を自分で生きていける」と。
母は大正生まれ。外で働いてはいませんでしたが、きっと働きたかったんでしょうね。

彼女の言葉を聞いて育ちましたから、就職して一生仕事を続けることは私の中で当然でした。
それで高校を卒業して、大学進学のために上京したんです。

だけど、いざ就職する段になってみて、企業は女性を求めていないと痛感しました。
当時、女性が就職できるのは、学校の先生、弁護士、役人、医者ぐらい。私は公務員しか道がないと思ったんです。

そもそも民間からの求人は一通も来ませんでしたね。男の同級生には段ボール箱いっぱいに求人が来ていたのに。

残間
就職できても、長くは働けませんでしたよね。

私も短大を出て放送局の入社試験を受けましたが、あるテレビ局では「女性の定年は25歳」と言われました。
要するに、25歳までに寿退社できないような女性は必要ない、ということのようでした。私の周りの“最高齢”での退職は、電話交換士で38歳の方でした。

坂本
今は、時代が様変わったな、と思いますね。“女性の時代”、“女性の活躍推進”が成長戦略の柱ですから。

残間
坂本さんが入省したのは1972年ですが、入省14年目の86年に男女雇用機会均等法ができましたよね。
以降、均等法は99年、2007年、2014年と改正されています。

坂本
99年の改正で、男女差別解消が「努力義務」から「禁止規定」になりました。あれが大きかったと思います。

私は96年に労働省の婦人政策課長でした。その頃は均等法の成立から10年経つ時期だったので、「そろそろ法改正をしよう」と言って準備を始め、後任の政策課長の時代に改正が実現したんです。

あの改正から、企業が本気で男女差別の撤廃に取り組み始めたと感じます。

150601sakamoto_a2
残間
日本企業って、トップに「やれ」って言われさえすればみんなやるんですよね。
均等法が出来たときも、本当にうまくいくのかなと思っていましたが、一気に広がって。

坂本
そうですね、トップの力は大きいですね。

今は官邸が、女性の積極登用を強力にやっているので、霞が関は一気に進んでいる状態。企業の動きも出てきました。意外と早く「2020年30%」の目標は到達できるのかな、と思いながら見ています。

だけど気になるのは、「3歳児神話」につながる考えの人もいるということ。
「子どもは産んでくれ、母親が育ててくれ。育て終わったらばりばり働いてくれ」という要求を感じます。これだと女性が働き続けて、子育てと仕事をバランスよくやっていくための環境がなかなか整わない。

女性がこの状況をどう判断し、どう動くかというのが重要だと思います。
私はこの状況を逆手にとって、与えられた椅子を利用して自分のやりたいことをやるべきだと思うんです。逆にチャンスになりうるというか。

残間
坂本さんや私が働き始めた頃は、女性の座れる椅子がそもそもなかったんですよね。
私はフリーランスだったから、まぁいわば自分で勝手に椅子を組み立てて、ちゃっかり居座ったって感じでしたが(笑)。

そこで思うのは、女の人も二極化しているんじゃないかと。「バリバリ働くぞ」という人と、「家庭に入りたい」と思う人。
せっかく女も働けるようになったのに、「そんなに働きたくない」という女性がむしろ増えてきた気がします。特に若い女性は。

150601sakamoto_a4
坂本
若い女性が二極化しているのはその通りですね。
仕事を頑張るという女性が増える一方で、早く結婚して家庭に入りたいという女性も増えている。

私は、これからは一つの財布で家庭を切り盛りしていくのは大変だし、女性も自分の人生を自分で決められる経済力を持っている方がいいと思います。
ただ一方で、これまで働き続けてきた女性の中で、急に女性の時代と言われても素直にうなづけない人の気持ちもわかるんです。

だって働く場では、いままで一人前に扱われてこなかったり一度もチャンスを与えられてこなかった女性の方が多かったでしょう。
それを急に「あなたの時代です」って言われても、戸惑うと思うんです。「今までは何だったの?」という話じゃないですか。
もちろん常にチャンスを待っている人もいましたけど、少数派ですよね。

残間
たしかに。チャンスもなかったですしね。

坂本
会社が本気で、彼女たちにしっかりとしたサポートをしなきゃいけないんです。

今私は、いくつかの会社で女性活躍推進のお手伝いをしていますが……「今までチャンスを与えてこなかった」ということを自覚しながら、女性たちを本気でサポートしようとしている会社は、女性もモチベーションが上がって、どんどんスキルアップしています。

「私の人生はもうこれで十分、余分なことはしないでいい」と言っていた人が、「このままではもったいない、私も新しいことをやってみよう」と思うようになったり、思ってもみなかった管理職になってグングン成長している人もいる。
“ポストが人を育てる”ですよね。

能力は経験によって高められるもの。経験させずにいきなり「さあやれ」って言われても、たいていの人は不安です。

残間
会社で期待されてきた女性の役割って“潤滑油”のようなもので、決してリーダーとしての役割ではなかったんですよね。
女性は社会性がないっていうけど、社会性を磨く場に出してもらえていなかったわけですから。
最初から社会に出ていれば、男も女も駄目な人は駄目だし、出来る人は出来ると思いますよ。

最近は「同じくらいの能力だと女の方が優遇されて、昇進していく」って、すねてる男の人が出てきました。時代が変わってきたな、と思います。

坂本
女性を積極的に登用すると、男の人の不満が溜まる、それはありますね。

でも、考えてみれば、一つのポストを今までより多くの人で争うようになったというだけなんです。
たいして努力もしない男性が「女性に役職を取られた」と言うのは甘いですよ。男も女も、努力した人だけがステップアップするのが当然。

残間
男たちは、ここにきてようやく「自分にとって仕事ってなんだろう」と考え始めたように思います。
自分にしかできない技ってなんなのだろうと。
それまでは社内でポストを移動しているだけ、という人が多くて。

日本は先進諸国と言われているのに、雇用の現場に変化が起こるのが遅かったですね。

坂本
雇用の流動性がなかったから、というのが一つにあるでしょうね。一企業のなかでステップを踏んで順々に、年功序列で、という感じで。

残間
女性が働くことによって男の意識が変わっていけば、世の中全体が変わっていきそうですね。 (つづく)

150601sakamoto_a4





vol.1 経験とポストが人を育てる

vol.2 価値観の変化は、チャンスなんです












過去のインタビュー