ザ・ペニンシュラ東京、洞爺湖サミットなどで、その技が高く評価され、
「塗り壁」という伝統技能に世間を注目させた挾土秀平はさど・しゅうへいさん。
その高い芸術性から、「カリスマ左官職人」と呼ばれています。
塗り壁は自然を素材とし、水でこね、気候に左右されながら、
職人の勘と技術で作り上げる、究極のアナログ技。
しかし挾土さんは今、パソコンのデジタル力も借りながら、
世界を舞台に活躍することを夢見ています。

───オフィシャルウェブサイトにあるブログやコラムを拝見しました。長文のものが多く、文章を書くのはかなりお好きなようですね。

昔は大学ノートに思いついたことを自由に書いていたんだけど、ワープロを使うようになってから、ちょっと人に読まれることを意識して、コラム風な文章を書くようになりました。でも、俺が見たことや、それに対してどう感じたかって、言葉で表現するのって難しいんですよ。文才もないし、人に伝わるような、ぴったりした言葉がなかなか出てこない。
パソコンを使い始めて便利だと思ったのは、パソコンって、文章だけじゃなくて、デジカメで撮った画像も簡単に載せられるでしょ。一目瞭然で人に伝わるし、何よりも、あらためて写真を見ることで、俺の思いをちゃんと表現する言葉が見つかるんだよね。

───"職人"というと、黙々と仕事をするイメージがありますが、挾土さんの場合はかなり違うようですね。

俺にとって"言葉"はすごく大事。
壁をどう塗るのか? それには俺の場合、言葉が必要なんだよね。その場所にふさわしい言葉を見つけ、物語を見つける。そこから発想して壁を塗るのが俺の製作スタイルだから。
じゃあ、その言葉はどこで見つかるかというと、自然の中や、その土地の地霊みたいなもの。そのためにも、さっき言ったように、美しいものや気になるものを目にしたら、それを記録して言葉にしてる。

───左官の仕事に、具体的にパソコンはどう生かされていますか?

俺の会社は飛騨にあるんだけど、東京や他の土地でも、ずいぶん仕事をさせてもらってます。それもパソコンがあるから。遠く離れた施主とサンプルの画像をやり取りすることで、それほど頻繁に会わなくてもイメージを共有していける。
それから塗り壁の仕事って、結局は現場でやってみないとわからない部分があるの。自然の素材を水でこねて塗るわけだから、温度や湿度にも左右される。だけどパソコンの画像処理で、もう少し赤みを強くしたらどんな雰囲気になるんだろうか? グラデーションは右からと左からでは、どう変わるだろうか? そんな事をシミュレーションできる。事前にある程度イメージをつかんでから現場に臨めるのは心強いね。
といっても、それほどパソコンは上手じゃないんですよ(笑)。でも、簡単な色調整ぐらいはできるんです。

───インターネットの可能性は、どう捉えていますか。オフィシャルサイトから作品やブログなど、さまざまな情報を発信していますが。

インターネットといえば、つい最近、すごくいいことがあったんですよ!
宮沢賢治の詩で『春と修羅』というのがあるでしょ。昔、この作品を読んだ時、俺はすごいショックを受けてね。
「唾し はぎしりゆききする おれはひとりの修羅なのだ」というやつ。これは俺の事を書いてある! って思ったの。その時は宮沢賢治なんて知らなかったんだけど、これを書いた宮沢賢治という人間と俺は、時空を超えて深いところでつながってるんじゃないかと思ったね。いや、本当の話。その頃はいろいろ悩んでて、ちょっと頭がいかれてたせいもあるんだけど(笑)。
まあ、それぐらい俺は宮沢賢治が好きなんだけど、このあいだネットを見ていたら、その『春と修羅』の初版本が、名古屋の古本屋で格安で売ってたの。初版というのは賢治が大正13年に自費出版したもので、部数は千部。そのうち百部が売れて、残りの9百部は無料で配られた。
みんな手放さないから、すごく貴重。好景気の頃は一部百万円の値がついて、この間でもネットオークションで80万円で落札されてました。ところが、それが数分の一で売られてたのよ。すぐに電話して、今日、ここに来る前に名古屋に寄り道して引き取ってきました。それがこれ。(袋から本をとりだす)

───これはすごい! 奥付けに「宮沢」とハンコが押してありますね。

装丁も活版の印刷も味があるでしょ。これは俺の宝物! そもそも滅多に市場に出回らないから、金を積めばどうにかなるものじゃないんですよ。こういうのは"縁"なんだけど、神様がインターネットを通じて、俺に引き合わせてくれたんだと思う。




事務所がある飛騨と東京を、頻繁に行き来する挾土さん。東京の拠点ではスペース効率のため、テレビと兼用で使える地デジチューナー内蔵のデスクトップ型パソコンを使っている。インターネットは気軽に設置できるWiMAXを利用。
※インテル® Core™i5-520M プロセッサー
(HTテクノロジー対応)
デュアルコアCPU 2.26GHz 搭載

───宮沢賢治はさておきまして(笑)、あらためて伺います。インターネットの可能性については、どう考えていますか?

以前は、「矢沢永吉のステージセットを、塗り壁で作るのが夢」とか言ってましたが(笑)、今の夢は海外で仕事をすること。俺が塗った壁が、どう世界の人に評価されるのか、とても興味があるね。
でも、俺は飛騨の職人に過ぎないし、コネもない。売り込んでくれるプロデューサーがいるわけでもない。だからこそ、自分のウェブサイトを充実させなきゃって思います。いい仕事をして、それを世界に向けて発信していれば、誰かが見てくれると思うんですよ。そのために英語訳もつけました。
そういえば英語訳をつける時にも、インターネットの威力を感じたね。俺の作品紹介の英訳というのは難しいんですよ。左官という専門的な分野であるし、俺は作品に込めた思いを詩的な言葉で表現したりする。
たまたまアメリカで左官をやっている日本人と知り合って、この人ならと思ってお願いしたんだけど、日本との時差は16時間。こういう時に電子メールというのは便利だよね。互いの都合のいい時間を使って、メールでやりとりしながらうまい具合にできました。

───あまりパソコンは詳しくはないとお聞きしていましたが、プライベートに仕事に、十分活用されているようですね。では最後にお聞きします。パソコンが上達するコツって、何かありますか?

「褒められること」ですね。褒められると人間って嬉しくて、もっともっとやりたくなるんです。僕は気に入った風景を目にすると、写真に撮って知り合いやウィルビー代表の残間さんとかに、よくメールで送るんですよ。すると残間さんが、「挾土さんの写真って素敵ねえ」とか返信してくれんです(笑)。それで嬉しくなって、またどんどん送るわけです。そういう雰囲気になってくると上達するんじゃないですか。

─── 上達法というより、周囲にいる人間の心構えですね(笑)。

気分が良くなってくれば、絶対上手くなるはずです。パソコンにチャレンジしている人がいたら、まわりの人は是非、褒めてあげてください。

(2010年5月)

 

撮影:岡戸雅樹

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