残間 北村さん、面白い事も含めて、
今一番気になる事ってなんですか。



北村 老後の事ですね。



残間 ええっ! 老後ですか。



北村 というか、まず、いつまで仕事をやるかですね。
できるかじゃなくて。
身体が動かなくなれば当然できないんだけど、
動ける間はやるべきなのか。
でも身体は動いても、
頭の方は10年前に較べれば衰えてるじゃないですか。
すると今の仕事のやり方をいつまで続けるかですよね。
じゃあ来年やめる、という風にはいかないんですよ。



残間 3年先まで決まってますからね。
たぶん、どこかで予兆に気がついた時、
そこからどうやめるかのセルフ・プロデュースが
始まるんでしょう。フェイドアウトへ向かっての。

こういう仕事というか北村さんのやっている仕事というのは、
感じ入る気持ち、感性、感覚的な部分が大きいですよね。
何を見ても柳に風みたいに、
「そんなもんじゃないの?」となったらダメですよね。



北村 (笑)そうですね。



残間 だから、常にその感覚を検証しつつでしょうね。



北村 私にとっては、劇場に人が入らなくなったら終わりです。
それがプロデューサーとしての大きな目安だと思ってます。
私の企画が必要とされていないなら、
それはスーッと消えなくてはいけない。



残間 私も企画を立てて、それを観客や企業が
見向きもしなくなったら終わりなんですけど、
さっきの取り越し苦労じゃないですが、
実はそれは気づかぬうちにヒタヒタと
忍び寄っているんじゃないかと思ったり。
悪い方向には常にアンテナ張ってますね。

やめ時はともかく、老後について、
何かイメージはあるんですか?



北村 理想としては頭を剃りたいんですよね。



残間 ほう!



北村 奈良の尼寺がいいかと思ってます。
本当は55歳ぐらいで寺に入りたいと思ってたんですけど。



残間 早過ぎますよ。
瀬戸内寂聴さんは51歳で得度しましたが、
早過ぎたって言っていましたよ。



北村 そうなんですか。
でも私は、まだお経が覚えられる頭が
あるうちにと思ってますから。



残間 いつ頃からそんな事を思ってたんですか?



北村 ずっと前からですよ。若い時から。
といっても離婚して、いろいろあってからですが。

やっぱり、すごく傲慢に生きてるし、
好きな事しかやってないし、親やいろんな人に迷惑をかけても、
やりたい事しかやって来なかった。
本当にエゴイスティックな生き方だと思います。
もっとも、尼になるというのも
自分に向かってのエゴなんですけどね。
同じエゴなんだけど、これまで"出す"エゴばかりやってきたから、
今度は"引く"エゴで行こうと。
自分の内面に向かって時間を過ごそうと思ってるんですね。
それで頭を剃ろうというわけですが、
それが65歳になるのか、いつになるのかわかりませんが。



残間 70くらいでいいんじゃないですか。



北村 それじゃあ遅過ぎますよ。お経が覚えられない。



残間 大丈夫です。同じところだけ繰り返していれば(笑)。

でも、そういう清澄な世界には、私も憧れがありますね。
今までいろんな人と向きあって、
同時に自分とも向きあってきたつもりだけれど、
"自分だけ"とは向きあってませんから。



北村 そうなんですね。
もっと自分に向きあう時間を作りたいと思ってます。



残間 北村さんのその気持ちは、みんなに言っているんですか。



北村 娘には言ってます。



残間 「いいよ」っていう感じなんですか?



北村 「冗談じゃない。よくそんなに自分勝手なことばかり
言ってられるわね!」って言ってました。



残間 (笑)最後までそうなのかと。
でもそれは、一人になる覚悟を
ちゃんとしておくということですよね。



北村 娘にご厄介になりたいわけじゃないから、
私にとっては老人ホームに行くのも、 尼寺に行くのも同じなんですね。
悲壮な覚悟じゃないんですよ。
ここ行くより、私はこっち、というだけの話なんです。
そこで帰依する時間があればいいかなっていう。



残間 これだけ大勢の人の気持ちを沸き立たせた後に、
そういう静かなところに行くっていいですね。



北村 もうそれしか残ってない気がするんですよ。
一番なおざりにしてきた"自分"というものに向きあうこと。



残間 仏教自体にも魅かれてはいるんですか。



北村 私は前から宗教的というより、
哲学的な意味で仏教にはすごく興味がありましたね。



残間 宇宙観ということで言えば、
そこは演劇にも通じるものがありますしね。
でも、北村さんなら、
尼寺に行っても芝居してるんじゃないですか。



北村 (笑)尼芝居? それ面白いかもしれない。



残間 尼寺にいる人って、みんな何かを"断った"人たちですからね。
そんな人が集まっているだけでも面白い。
しかも私たちの世代だと、芝居に興味がある人も
いっぱいいると思います。可能性ありますよ(笑)。
でも尼寺って、簡単に入れるものなんですか?



北村 いろいろと調べてます。 なかなか入るのは難しいみたいですが、
そこを何とかしようと思ってます。
でも修業もありますし、雑巾掛けしたり、
いろいろあるようですから、
それに耐えられる体力があるうちじゃないと。
あまり年をとってからではね。



残間 尼寺に入ったら、是非、呼んでくださいね。
尼芝居も楽しみにしています。



北村 (笑)必ずお呼びしますよ。




(終わり/2010年1月)